第3部 6話 ゲームマスターとゾンビ襲来
ギニーデン籠城戦以来の戦闘回!
血沸く血沸く♪
2021/06/29 改稿
◆ニューズ・オンライン シーツー 十合目 荒野◆
ヤジマが跳躍したことにより、周囲の景色が下方へ消し飛び、まるで瞬間移動したかのようにシーツ―の十合目まで到達する。
極度の“AGI”ステータスの高さでジャンプを行う、“早歩き”の応用版であった。
しかし、ヤジマが一瞬で崖上に到達したにもかかわらず、ヒイロは既に十人規模の敵対ギルドのパーティーと臨戦態勢に突入していた。ヒイロもヤジマと同等の速さで崖上に到達したという事実に驚かされる。
ヤジマは敵対ギルドの面々を見渡した。ヒイロが”ゾンビ”というからどんな見た目かと思えば、剣士、アサシン、アーチャー、槍使い、魔導師といった通常のプレイヤーのそれと同じである。しかし、彼らには違和感があった。静かすぎるのだ。
通常のパーティーであれば、リーダーが全体を指揮し、声を掛け合いながらパーティー内のメンバーと連携を取るものである。しかし、彼らは一切無言の状態でヒイロへ襲いかかる。しかも、彼らは一糸乱れぬ完璧な連携を見せた。まるで、一人が全てのアバターを操っているかのようであった。
まずは二人のアーチャーがヒイロに向けて矢の雨を放つ。その後ろで魔導師二人が詠唱を開始。敵の前衛はヒイロへ向かって駆け出す。
ヒイロは襲いかかる矢を身軽く躱していく。矢の雨がやんだところですかさず、ヒイロの後ろに回り込んだアサシン二人の不意打ちがヒイロの背後を襲った。
ヒイロは後ろに目がついているかの如く、最小限の動きでダガーの剣先を躱した。
しかし、ヒイロの前方からは、槍使いの矛先がヒイロの腹部を襲う。ヒイロはその場で跳躍し、その切っ先を紙一重で躱す。
同じくヒイロの両脇から跳躍してきた剣士二人が、剣を大きく振りかぶり、ヒイロを切り伏せようと試みる。さらに、ダガーが空振りに終わったアサシンは既にヒイロの動きに追従し、ダガーの刃で跳躍したヒイロの足元を狙う。槍使いも次の一撃を繰り出そうと構える。
素人目から見ても万事休すの状況。この圧倒的な人数差を覆す手立てはないように思えた。
その時、ヒイロの背に収まっている漆黒の大剣が、赤みを帯びて光り出した。次の瞬間、紅蓮の炎が三日月を描くようにして、剣士、アサシン、槍使いの体を一閃する。一瞬の出来事だった。一人だけ時の流れが異なるような速さで繰り出された一撃は、辺りにいたアバターすべてを飲み込んだ。炎に溺れるようにして、全てのアバターが青い粒子と化す。
ヒイロは地上に着地すると、低い体勢のまま前方に跳躍し、アーチャー、魔導師との距離を詰める。彼らは、慌てたように攻撃を放つが、そこには既にヒイロの姿はない。ヒイロは彼らの背後を取り、ゆっくりと大剣を振りかぶる。
「緋滅飛球」
ヒイロが静かに呟くと、大剣の切っ先にまるで隕石のような球体が現れ、空中に浮遊する。プレイヤーの数十倍の大きさはあろうかという球体の表面には、緋焔が燃え盛り、圧倒的な熱量が放たれる。後方からの熱線にアーチャー、魔導師が気づき、後ろを振り返った瞬間、ヒイロの大剣が振り下ろされた。彼らは隕石の大質量と業火に押し潰され、霧散した。
所要時間十秒程度の呆気ない幕切れだった。
ヤジマが驚いたのは、ヒイロが見覚えのある移動方法を用いていたからである。ヒイロがアーチャー、魔導師との距離をまるで瞬間移動のように詰めた。あの移動方法はまさしく、ヤジマが使っている“早歩き”に他ならない。
ヤジマはジーモにお願いしてステータスを更新してもらっているため、“早歩き”が可能である。しかし、一般のプレイヤーであるヒイロが“早歩き”するためには、自力でステータスを引き上げるしかない。ヒイロはそれだけ高レベルであることが窺えた。
ヤジマがぱちぱちと拍手をしたところで、ヒイロがヤジマに気づき、顔色が変わる。
「危ないっ!」
ヤジマの背後にアサシンの影が現れ、ダガーがヤジマの側頭部に命中する。しかし、ダガーの切っ先はヤジマの皮膚の表面で止まり、そこから微動だにしない。
「お、おう、びっくりした……」
ヤジマはアサシンから距離を取る。アサシンは一瞬呆気にとられたように動きを停止したが、すぐに二刀のダガーの刃がヤジマへの猛攻を開始する。
攻撃されること自体は、散々カスミの囮として経験していたが、気持ちの良いものではない。ヒイロはヤジマに被害がないことを把握すると、微笑を浮かべながら見物している。
ヤジマはため息をつきながらアサシンへの説得を試みる。
「アサシンさん、誤解を招いてしまい申し訳ありません。私、GMのヤジマと申しまして、緋龍の翼のメンバーでもありませんし、シーツーの住人でもありません。すなわちアサシンさんの敵ではありません」
――キンキンキンキン
「ついでに申し上げますと、私を倒しても何も得るものはございませんし、立場上、私の命の代わりにお渡しできるようなアイテムもございません。ここは私の顔に免じて矛を収めていただけないでしょうか?」
――キンキンキンキン
「うん、全くもって聞く耳をお持ちでないようですね。それでは規約に乗っ取り対処させていただきますが、よろしいでしょうか?」
――キンキンキンキン
「ジーモいる? アサシンさんに絡まれてるんだけど、規約上はどう対処すればいいのかな?」
ジーモの白い躯体がヤジマの背後に現れる。アサシンの猛攻を無抵抗に受け続けているヤジマに目をやり、ため息をつく。
「世話が焼けるナ。そんなの強制ログアウトして、アバター凍結してやればいいナ」
「凍結!? いや、凍結は現実で言えば無期懲役くらい重い刑でしょ。もう少し軽めの……“島流し”くらい?」
「じゃあ島に転送するナ」
そうジーモが言うと、アサシンの体が青い光で包み込まれる。青い光が一段と発光を強めた後、光が消失。それと同時にアサシンの姿も忽然と姿を消した。ヤジマはポカンと口を開けた状態で呆然とするしかない。
「え? 彼はどこに行ったのかな?」
ヤジマの額に冷や汗が浮かんでくる。
「ギニーデンのさらに南の洋上に浮かぶ無人島に転送したナ」
「無人島!? 脱出できるんだよね!?」
「リスポーンすればギニーデンに戻されるナ。でもモンスターもいなければ、プレイヤーもいない島ナ。リスポーンするのは難しいかもしれないナ」
「実質のアバター凍結!?」
近くでヤジマとジーモの会話を聞いていたヒイロは、笑いを堪えるのに必死といった様子で腹を抱えている。
「ヒイロさん、笑ってないで助けてくださいよ! アサシンさん島に流しちゃったじゃないですか!?」
「フフフ……島流しなんていう制裁方法がニューズ・オンラインにあったなんて知りませんでした……!」
「いや、本来そんな制裁方法はないと思いますが!」
「でも大丈夫ですよ。彼らは人によって操作されている訳ではないと思いますので」
「どういうことですか?」
ヤジマは小首を傾げる。
「彼らとは何度かコンタクトを試みましたが、一切応答がありませんでした。さらに声かけなしでパーティー内の連携が取れているので、おそらくAIか何かだと予想しています。意志なくただ破壊するだけの存在なので、私達は彼らのことを“ゾンビ”と呼んでいます。なので島流ししたとしても問題ないですよ」
「ジーモ、ニューズ・オンラインではアバターの自動操縦は許してるんだっけ?」
「許してないナ。自動操縦が発覚した場合はアバター凍結ナ」
ヤジマはホッと胸を撫でおろす。
「結果オーライ! いやあ、良かった!」
ヤジマは自分に言い聞かせるようにして言い放った。
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