第3部 5話 ゲームマスターと花形プレイヤー
2部に少し出てきたヒイロの登場です!
分量少な目でごめんなさい。
2021/06/29 改稿
◆ニューズ・オンライン シーツー 西七合目 一般居住区◆
ユニットの上に佇むヒイロは「こっちが近道なんだよね」と微笑みながら、壊れたユニットの床に降り立つ。ヒイロはどうやら回廊の内側ではなく、回廊の外側のユニットづたいにここまでやってきたようだった。
「GMさん、ようこそシーツーへ。わざわざシーツーまでお越しいただけるとは思ってもみませんでした。”緋龍の翼”のギルドマスター、ヒイロです」
ヤジマは辻村の話を思い出していた。
――“緋龍の翼”のヒイロっていうアバターなんだけど、ゴエモンの動画でもかなり目立ってたわ。
(これが、ニューズ・オンラインの花形プレイヤーか……)
自信に満ち溢れた燃えるような笑顔。艶のある緋色のオールバックに絢爛な緋色の軽鎧がよく似合っていた。そして背中には漆黒の大剣を背負っており、ギニーデンにいるプレイヤーとは異なる、貫禄のようなものを感じた。
「GMのヤジマです。私をご存知でしたか?」
ヤジマは握手をしようと手を差し出す。すると、ヒイロから微笑が消え、ヤジマの手をじっと見つめる。ヤジマはヒイロの不自然な行動に首を傾げる。
「どうかしましたか?」
「――いえ、失礼しました。先日のロックゴーレム大量発生イベントの時にお見かけしました。あの時はご挨拶できず、申し訳ありません」
ヒイロの顔に微笑が戻り、ヤジマの手を握り返した。
「ヒイロはギルドマスターであり、この街の長でもあるんだ」
「え!?」
カスミの言葉にヤジマは驚いた。一介のプレイヤーが街の長を務める。そんなことが可能なのだろうか。それを聞いたヒイロは首を横に振った。
「といっても公認なわけでもないですし、皆がそう呼んでいるだけですよ。この街は緋龍の翼が作りましたが、緋龍の翼のメンバーだけが住んでいるわけではありません。この街に住みたいという希望者がいれば歓迎しています。私はこの街の住民から少しずつお金をいただいて、この街の運営を行っているんです。主には住居や道路などといったインフラの整備や、治安の維持ですね。私がそういった雑事を主に取り仕切っているというだけのことです」
ヤジマはヒイロの説明に感心してしまった。GMの知らぬところで全くすごいことをやっているプレイヤーがいるものである。ヒイロはこのシーツーで独自の地方自治体を作っているといっても過言ではない。住民から税を徴収し、その資金を公共事業に充てる。まさに、地方自治体が行っていることと変わりない。
ヤジマは感心の声を上げる。
「いやあ、恥ずかしながらこの街のことを今日はじめて知りました。この街を作ったこと、そして街の運営までなさっていることに驚きました……」
「ふふ……ありがとうございます。さて、本題についてなんですが……」
ヒイロは無残にも壊れたユニットに目を向ける。
「このユニットは敵対ギルドの襲撃を受けて壊されたんです」
その話を聞いたヤジマは思わず目を見開いた。
「――な!? 街を襲うようなギルドがあるんですか!? このニューズ・オンラインに!?」
「はい、かなり陰湿な奴らです。一か月くらい前でしょうか。奴らから、この街を金で譲ってくれないかという話が舞い込んできまして。この街は私のものではないですし、緋龍の翼のメンバーが膨大な時間を費やして苦労しながら作り上げたものです。お金に変えられるようなものではありません。なので、その話はすぐに断りました。それ以来、頻繁に街を襲われるようになったんです」
ヤジマは言葉を失った。現実であれば、その敵対ギルドは、お縄になるような話である。まさかニューズ・オンラインにこんな物騒な話があるとは思っても見なかった。しかし、ニューズ・オンラインには「街を襲ってはいけない」などという規約があるはずもない。そもそも街を作るなど運営側も想定していないはずである。個人的には力になりたいものの、GMとして力になることはできないだろう。
ヤジマが言い出しづらそうにしていると、ヤジマの心を見透かしたようにヒイロがフッと表情を緩めた。
「街が襲われる件についてGMさんに助けを求めたいわけではないので安心してください。GMさんにお願いしたいのは、生成系スキルのバグの修正ですから」
「……お力になれず申し訳ないです。状況はわかりましたので、まずは運営側で調べて連絡しま――」
――カンカンカンカン!!
ヤジマの言葉を遮るようにして、けたたましい鐘の音が聞こえた。皆が一斉に頭上を見上げる。
――ドンッ!!
爆発音のような音が数発聞こえ、崖に反射してこだまする。壊れたユニットの間から外を覗くと、崖のところどころで白煙が上がっているのが見えた。
「奴らが来たか……! “ゾンビ”どもが……!」
ヒイロは招かねざる客の名を吐き捨てるように呟いた。
「何事ですか!?」
ヤジマはヒイロに向かって叫んだ。
「敵襲の合図ですね……。先程お話した敵対ギルドの“ゾンビ”どもが性懲りもなく街を襲いに来たのでしょう」
「“ゾンビ”――ですか?」
ヤジマは思わず聞き返してしまった。敵対ギルドというくらいだから、プレイヤーで構成されているかと思っていた。”ゾンビ”というと、腐りかけの体で両手を前に突き出して襲ってくるB級映画で見かけるモンスターのことしか思い浮かばない。
「詳しい話は後です。まずは敵を撃退しなくては。“ゾンビ”どもはかなり手強いです。タージルはGMさんたちを守ってください。私は前線に出ます!」
ヒイロはそう言い残すと、地面を蹴り、隣りのユニットの上に着地する。そして、跳躍を繰り返し、その姿はすぐに見えなくなった。
ヒイロにはギルド間の抗争に介入しなくて良いように気遣ってもらったものの、この場に居合わせた身としては、いてもたってもいられるはずがない。ヤジマとしては立場上、ヒイロに加勢できないことはわかっていたが、事の全容を把握しておきたかった。ギルド間の抗争というものがどういうものなのか。そして、ヒイロの言う”ゾンビ”とは何なのか。不謹慎ではあるかもしれないが、GMとして視察しないわけにはいかない案件である。
「ちょっと様子を見てくる」
「お、おい、ヤジマ。ちょっと待――」
カスミの追いすがる声を振り切って、ヤジマはシーツ―の頂上目がけて思い切り跳躍した。
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