第3部 4話 ゲームマスターとバグとの遭遇
バグというのは厄介で、直すのは一瞬だったりするのですが、その他類似のバグがないか探したり、バグの修正が他の機能に影響がないか確認、検査したりなど、修正するのにかなり時間がかかります。
プログラムの修正にかかる工数の20倍はその他の作業をしている感覚です(私の感覚)
なので、こんなのすぐ直せるだろというバグでも、直すことが難しかったり時間がかかったりしてしまいます。
運営側もバグをなくしたいとは思っているはずなのですが、「大人の事情」により修正できないなんてことはあるはずです…
2021/06/29 改稿
◆ニューズ・オンライン シーツー 南九合目◆
ヤジマはタージルに続いて緩やかなカーブを描く回廊を降りていった。回廊はシーツ―の崖沿いを左回りに、まるで螺旋階段のように穴の底へと続いている。回廊の中は、トンネルの内部のように上下左右を岩壁に囲まれていたが、等間隔に松明の明かりが整備されており、歩くには全く困らない。さらに、崖側の壁にはところどころ隙間が開いており、度々外の景色が垣間見えた。
ふとヤジマが壁際を見ると、そこには標識のような看板が立てられており、「南九合目」という文字と共に、シーツ―の全体図と思われる地図が描かれていた。
「この標識はなんですか?」
「ああ……こう、ブォッと表しとるんよ」
ヤジマはタージルの説明に首を傾げ、そのままの状態でカスミへ視線を移す。カスミはヤジマの胸の内を察したように説明を始めた。
「ああ、シーツー内の高度と方角を表してるんだ。一番下層のダンジョン入口が一合目。崖の上の荒野が十合目だ。ほら、回廊にいるとどこにいるかわからなくなるだろ?」
「確かに……」
回廊の中では外の景色がよく見えないため、自分自身がどこにいるのかわからなくなる。
「二合目にギルドメンバーが集まるギルドハウス。三合目から四合目がギルドメンバーの居住区。五合目から六合目に商店街。七合目から八合目まで一般居住区がある」
カスミは標識に描かれた地図を指して説明した。
「これから向かうのは七合目の一般居住区じゃ」
タージルがカスミの説明に付け加えるようにして言った。
「居住区で何をするんですか?」
「ええとな、こう――」
「ああ! やっぱりいいですっ! 現地を見たほうがわかりやすいですよねっ!」
ヤジマはタージルに説明を求めるのは最早、可哀想な気さえして、タージルが力んで説明しようとしたところで遮った。
「そ、そうか? では先を急ぐとしよう」
さらに回廊を下っていくと、西七合目の標識が見えてきた。回廊の内部の景色は、相変わらずトンネルの内部のようである。しかし、少し先の崖側で外の光が漏れ出しているのに気づいた。近づいてその様子を見てみると、キューブの一つがひしゃげ、壊れたその隙間から外の光が差し込んでいるのだ。そのキューブはまるで削り取られたかのように鉄骨がむき出しになった状態であり、無残な姿を晒していた。タージルはその場で立ち止まり、壊れたキューブを指さす。
「この”ユニット”を直そうとしたんじゃが、直せないんじゃ」
「この四角い岩のことですか? いったいこれは何なんですか?」
ヤジマの問いに対して、タージルがうーんと唸っている間に、カンナバルが代わりに答える。
「これはギルド”緋龍の翼”が一般プレイヤーに貸し出している住居ですね。このユニット一つ一つの内部が居住空間になってるんです」
ユニットは十メートル四方の立方体で一つ一つに小窓や扉らしきものが見える。ユニットの中には草花や、ペイントで装飾が施されているものさえあった。ゲーム内の住居というのは実際に住むわけではないので、ヤジマにはユニットの必要性がピンと来なかった。しかし、ゲーム内に自分だけの居場所というのがあるというのも悪くないのだろうか。
「試しに修理してみるから、下がっとれ」
ヤジマたちは、タージルの言葉に従いユニットと距離を取る。
タージルはユニットの床に転がっていた三メートルはあろう鉄骨を片手でヒョイッと拾い上げると、頭上でぐるぐると回しながら歩いていく。壊れたユニットの端っこで立ち止まり、鉄骨が垂直になった瞬間、床に鉄骨を突き立てる。そして次の鉄骨を拾い上げ――とユニットの端の方から鉄骨を次々に突き立てていく。タージルの手際には一切の迷いはなく、タージルの熟練度の高さを感じさせる。
あっという間に鉄骨が組み上がり、あと少しで完成というところでタージルの手が止まる。床には折れ曲がった鉄骨の残骸だけが転がっていた。
「ユニットを直すのに鉄骨が足りんのじゃ。鉄骨を作ろうとしたんじゃが、いつも通りできんのじゃ」
タージルはそう言うと、アイテムボックスから表面に銀色の光沢がある石を取り出した。石を地面に置き、金槌を使って石を打つ。
――トンカントンカン
この音がタージルの言っていた「トンカン」か、と理解した。何度か金槌を打ったところでタージルの手が止まる。
「見てくれ。この通り、トンカンしてもブワッと鉄骨にならんのよ」
ヤジマはタージルが「バグ」と呼んだ事象を理解した。「ユニットを修理するために必要な部品を生成できない」というのがバグであると言っているのだ。思わずカンナバルと目を見合わせる。
「カンナバルさん、これはスキルが発動しないんですかね?」
「そのようですね……。生産系のスキル”鍛造”が発動しないようです。”鍛造”は材料を目的の形に整えるスキルなんですが……。タージルさん、”鋳造”や”溶接”もダメですか?」
「”溶接”はできるが、”鋳造”は駄目じゃ。どうも”成形”スキルが駄目なようじゃな」
ヤジマは話についていけず、小声でカンナバルに言う。
「生産系スキルにもいろいろあるんですね……」
「そうですね。生産系といってもその分野は、建物、装備、料理など多岐に渡ります。そしてそれぞれの分野で、目的の品を設計する”設計”スキル、材料から部品を作るための”成形”スキル、そして部品を使って目的の品を生成する”加工”スキルがあります。三種類のスキルを駆使することで初めて目的の品を生成することができるわけです。タージルさんは“鍛造”という“成形”スキルを発動しようとしましたが、不発に終わりました。タージルさんは”建築士”であり、建物に特化した生産系スキルを習得しているようですね」
「なるほど……。だからシーツーのように独特な街づくりができるんですね……」
GM自ら言うのもなんだが、クソゲーなニューズ・オンラインにしては、生産系スキルはかなり充実しているように見受けられる。スキルの種類が多岐にわたってるということは、それだけプレイヤーの行動の選択肢が増え、自由度が広がるということである。
――何故ニューズ・オンラインはこんなにも生産系スキルが充実してるんだろうか?
ヤジマはこの生産系スキルの充実具合に引っかかるものを感じた。充実させた分、開発には相当な資金が投入されたはずである。あたかも生産することがゲームの目的なのではとさえも思わせる力の入れ具合である。
その後もタージルは色とりどりの石を出しては金槌で打ってみせたが、石が変化することはなかった。
「この事象はいつから起きてますか?」
眉間にしわを寄せながら、ヤジマはタージルに尋ねた。
「昨日久方ぶりに鉄骨を作ろうとしたらこの始末じゃ。二週間前に作ったときは問題なかったんじゃ」
ヤジマは下唇を噛んだ。二週間前にできていたことが今できないとなると、一つ思い当たる節がある。
――ヒモ化作戦
二週間前に行った「ヒモ化作戦」。ニューズ・オンラインをバレンタイン・オンラインのインフラの上に移動するという大胆な作業を行ったのだ。影響があったとしても不思議ではない。すぐに直せるのかは不明だが、まずは開発担当である長谷部に状況を確認するしかない。
しかし、一点だけ気になることがあった。
「ちなみに、なぜ建物を壊したんですか?」
「壊したんじゃない、壊されたんじゃ」
タージルはため息をついた。
「え? それはどういう――」
「それについては、私が説明しましょう。タージルは説明ベタなので……」
突然空から降ってきた声に驚き、ヤジマは頭上を見上げた。
「「ヒイロ!」」
カスミとタージルがほぼ同時に叫んだ。ヒイロと呼ばれた青年が壊れたユニットの柱上に佇んでいた。
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