第3部 1話 ゲームマスターと開発者
3部はニューズ・オンライン開発者が登場!
この人も曲者だ…ヤジマ頑張れ…
2021/05/27 改稿
◆縦浜近郊 RXシステムズ本社ビル チーム・ニューズオフィス◆
「こんなの対応できませんよ!」
山田は開発担当である長谷部の大きな声に、ビクッと体を震わせた。
その壮年の男は、行儀悪く椅子の背もたれに全体重を預けながら足を組む。首の後ろ側まですっぽりと覆う長めの黒髪。その髪を前から後ろに撫でつける姿は、どこか見せつけるような仕草だった。黙って座っていればダンディーなおじ様といった雰囲気の長谷部だが、その行動はいちいちナルシストのような自己愛の強さが見受けられ、見ていてあまり気持ちの良いものではない。
「あの……長谷部さん。まだ、話の途中なので最後まで聞いてはもらえませんでしょうか? その後に、ご意見を伺いたいのですが……」
山田はニューズ・オンラインのグランドクエストについて検討するように辻村から指示されていた。そして、今しがたゴエモンの動画に歩み寄ったグランドクエストの草案をチーム・ニューズのメンバーに説明したのだった。しかし、その説明の序盤で、けんもほろろに跳ね返されてしまった。
長谷部が起き上がり、短く整えられた顎ひげを触りながら、山田を鋭く睨みつける。
「既に山田くんの案は破綻しているから聞いても時間の無駄! まず、君の案を実現するために必要な開発工数はどのくらいかかるかわかってる?」
「12人月くらいでしょうか?」
山田は少しムッとして言った。12人月というと、開発には一人が12か月仕事をするための人員が必要ということである。山田の神経を逆撫でするように、長谷部が呆れたようなため息をつく。
「全然足りないよ! 山田くんの案を実現するためには新たなエリアをリリースするということだ。まず、その時点でアウト! ダンジョン、街、モンスター、その他もろもろの仕様検討、制作、テスト等々。君も開発やったことあるなら分かると思うけど、簡単にはできないんだよ! そこのところ考慮してもらわないと!」
「じゃあ、どのくらいあればできるんでしょうか?」
「120人月!」
十人で一年間かかると言っているのである。吹っかけてきているとしか言いようのない数値に山田の怒りがこみ上げてくる。
長谷部にはそもそも山田に協力する気などさらさらないのだ。山田が反論したところで、長谷部はあれこれ理由を付けて、自身の意見を通そうとするのだろう。議論がヒートアップしたところで、いつも通りオンラインで参加の辻村が口を挟む。
「まあまあ、二人共落ち着いて。グランドクエストはうまくゴエモンの動画に近づけているわね! でも、長谷部くんの言う通り、グランドクエストを実現するための工数がかさみそうなことは確か。そこらへん検討しなおして、もう一回提案してくれる?」
「……グランドクエスト実装にかけられる開発工数ってどのくらいが現実的なんですかね?」
「12人日くらいね!」
「長谷部さんの言った工数の200分の1じゃないですか!?」
「お、計算早いわね!」
「いや、そこじゃなくて!」
コントのようなやり取りでも、ちゃっかり無茶振りしてくるのが辻村らしかった。そしてその無茶振りにも慣れてきてしまっている自分に嫌気がさしてくる。
「わかりました……。まずは一度検討してみます……」
山田は、おずおずと引き下がるしかなかった。
「それはそうとして山田くん、ニューズ・オンラインには花形プレイヤーがいるみたいね。花形プレイヤーを使って、ニューズ・オンラインをプロモーションできないかしら?」
辻村の言葉に山田は首を傾げる。
「花形プレイヤー……ですか?」
「そう! “緋龍の翼”のヒイロっていうプレイヤーなんだけど、ゴエモンの動画でもかなり目立ってたわ。ロックゴーレムをバッタバッタと倒してたのよ。現実でもゲームの世界でも、一流プレイヤーのプレイというのは見ている人たちを魅了するものよ。運営側の宣伝媒体でプレイしているところを紹介したりとか、少しやり方を検討してみてくれる?」
「わかりました!」
いつも無茶ぶりばかりする辻村が、自分である程度下調べをしたようだ。確かにゴエモンの動画で見たロックゴーレムの戦闘は、かなり見ごたえのあるものになっていた。あの動画の中に一流プレイヤーが映り込んでいたのだろう。一流プレイヤーのプレイでゲームのプロモーションをするというのは、今までなかった要素であり、さらにユーザーを増やすことができるかもしれない。
横で話を聞いていた長谷部が、話の腰を折るようにふふんと鼻を鳴らす。
「ニューズ・オンラインでは、プレイヤーの強さは操縦するアバターのステータスと比例するように開発されている。いくらうまいといっても、“操作者の腕”よりも“ステータスの強さ”が物を言う世界さ。花形プレイヤーといっても、たかが知れているだろう」
山田は長谷部の鼻につくしゃべり方にカチンときたものの、話を合わせるようにして長谷部の太鼓を持つ。
「そうなんですね。さすが開発者はよく知ってますね~。花形プレイヤーの代わりに長谷部さんにプレイしてもらった方がいい絵になるかもしれませんね~」
「そりゃそうだろ。ニューズ・オンラインを開発した本人なんだ。宇宙一ニューズ・オンラインに詳しいんだぜ」
長谷部のまんざらでもなさそうな返しに、山田は閉口するしかなかった。
※
会議が終わった後の山田の気持ちは陰鬱だった。
ニューズ・オンライン”ヒモ化”作戦が終了してから、既に二週間が経過していた。ニューズ・オンラインのレビューは5点増の46点、ユーザ数は300人増の2200人まで上昇しており、今までのニューズ・オンラインの不人気さを考えると、夢のような成果であった。
しかし、それでも山田の表情は晴れない。なぜなら、「グランドクエスト」という大風呂敷を広げてしまったためだ。
動画配信サイトに投稿されたゴエモンの動画は30万回まで再生されている。動画の中には、ニューズ・オンラインのグランドクエストに関する推測がいくつも紹介された。このため、RXシステムズ社には動画の真偽を問う問い合わせや取材依頼さえ届いているという。
ニューズ・オンライン内においても同じような状況だった。GMとして面の割れた山田が街を闊歩していると、いきなり声をかけられてグランドクエストに関して質問攻めにされるといったこともあった。
もはや、グランドクエストが存在することは周知の事実となり、GMからの正式発表を待つばかりといったプレイヤー達の期待をひしひしと感じる始末。まさに外堀を埋められた格好となった。
そんな追い詰められた状況下で、チーム・ニューズでグランドクエストについて検討しようとした矢先に、長谷部の大反対を食らってしまったのだった。
山田は正面の席に座る成瀬と小声で話し始めた。
「長谷部さんっていつも”こう”なのか?」
「まあプライドは相当高いな。ニューズ・オンラインの開発担当として、ニューズ・オンラインの全てを知り尽くしているという自負があるんだろう」
「そんなプライドの高い開発担当様が、なんで開発に対して消極的なんだよ?」
「開発担当者は人数をどんどん減らされて、今では長谷部さんがチーム・ニューズのメンバーで唯一の開発担当だ。一人だとサービスの現状維持をしていくために必要な維持開発をしていくだけで精一杯なんだろう」
確かに、開発担当が長谷部一人という状況では、山田の提言したグランドクエストの実装など絵空事ように思えてしまう。辻村の12人日という無茶な工数も、現実的な数値を言ったまでなのかもしれない。グランドクエストのクオリティを優先すれば開発工数が足りず、開発工数を重視すればグランドクエストが陳腐なものになってしまう。「あちらを立てればこちらが立たず」な悩ましい状況だった。
山田は頭を抱えて机の上に突っ伏した。しかし、前方からコンコンと机をノックする音が聞こえたので、すぐに顔を上げる。
「そんな考え込むなって。景気づけに一杯行くか?」
成瀬がくいっと盃を傾ける仕草をした。
「……それ、成瀬があそこに行きたいだけだろう? あそこに業務時間中に一人で行くと、仕事を抜ける言い訳が立たないもんな」
「まあそう言うなって」
山田は毒づきながらも、成瀬と共にチーム・ニューズオフィスを後にした。
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