第2部 エピローグ ニューズ・オンラインのゴール
祝!2部完結!
2021/05/17 改稿
◆縦浜近郊 RXシステムズ本社ビル チーム・ニューズオフィス◆
ヒモ化作戦翌日の朝、山田は眠気まなこを擦りながら、チーム・ニューズのオフィスへ出勤した。作戦終了後にニューズ・オンラインの動作に問題がないか確認作業を行い、作業は結局深夜までかかってしまった。連日の長時間勤務となり、かなりお疲れモードだった。
オフィスには既に成瀬と鎌田が出社していた。二人は眉間にシワを寄せながら、鎌田のPCを食い入るように見ている。山田は訝しげに思いながら、二人に向かって挨拶をする。
「おはようございます。成瀬、どうしたんだ?」
「いや、ニューズ・オンラインのレビューの得点が異常なんだ。見てくれ」
成瀬に促されるまま、山田は二人の脇から覗き込むようにしてPCの画面を見る。すると、レビューの点数が「41/100点」と記載されていた。昨日見た時は「22/100点」だったはずである。確かに初心者支援のイベントを行ったり、グラフィックを改善したりしたものの、一日経過した程度でレビューが急上昇するはずもない。
「バグか何かですかね?」
山田は純粋な疑問を投げかける。
「まあ、そうだろうなあ……。いくらなんでもこの点数は現実的ではない」
鎌田がボヤいた。レビューの得点は、総獲得点数をレビュー人数で割った平均点方式で算出される。ニューズ・オンラインのレビュー者人数は100人程度のため、単純計算でも満点を50人が付与する必要である。鎌田の現実的ではないという意見は尤もだった。
全員で渋い顔をしていると、突然オフィスの入口の扉が勢いよく開いた。入口には環が息を切らしながらヤジマたちの方を見据えている。
「先輩、どうしたんですか!?」
成瀬が席を立ちながら、環に尋ねた。
「どうしたんですか、じゃないよ。今、ニューズ・オンラインは大変なことになってるよ……」
環はそう言いながら、懐に抱えていたタブレット端末を差し出す。画面に映し出されたのは、有名動画配信サイトに投稿された一つの動画であった。
「有名なゲーマーのニューズ・オンラインのプレイ動画が拡散しているの」
「「本当ですか!?」」
成瀬と山田は食い入るようにして環のタブレットを見る。タイトルは「ニューズ・オンラインプレイ後記 ギニーデン滅亡危機! グランドクエスト発生か!?」であった。
「グランドクエストって何だ!?」
山田は成瀬に尋ねた。成瀬はため息をつきながらも答える。
「ゲームのメインストーリーを攻略するためのクエストだ。例えばラスボスを倒すとか、グランドクエストをクリアすれば、そのゲームのメインストーリーは終わりということだ」
ヤジマは、なるほどと頷いた。
「じゃあ、ニューズ・オンラインのグランドクエストは何だ?」
「いや、知らんわ。本来であれば、GMのお前が知っておくべきなのだが?」
成瀬に痛いところを突かれた。山田は「ぬぐっ」と肺から空気を漏らすだけで、返す言葉が出てこない。
環がタブレットにタッチして動画を再生する。動画にはロックゴーレム大量発生の一部始終が記録されていた。
ロックゴーレムの大群がギニーデンへ襲い掛かり、外壁の外でたくさんのプレイヤーが、ギニーデン防衛戦とでも言えるようなバトルを繰り広げている。
昨日はギニーデンへの侵攻をどうやって止めるか考えることに必死で気に留める暇もなかった。しかし、改めて映像として見ると戦争映画のような迫力があり見ごたえ抜群であった。さらに、動画にはご丁寧なことに、一連の事象に対する考察までもが添えられている。
『ギニーデン西部でロックゴーレムが大量発生しています! 先程、GMよりギニーデン滅亡の危機とアナウンスがあり、討伐クエストが開始された模様です! このクエストは――グランドクエストなのでしょうか!? 公式ではニューズ・オンラインのグランドクエストは未発表でしたが……。真相の行方は!?』
場面が切り替わり、ギニーデンの街中に視点が移る。浄化されていくかの如く、ギニーデンの建物から無数の粒子が気泡のように立ち昇り、グラフィックが差し替えられていく。
『ロックゴーレムの掃討が終わると、グラフィックのクオリティーが改善しました! 何故でしょうか!? この動画ではなんと、クオリティー改善の真相を予想しました! 公式を確認すると、実はロックゴーレムの英名は岩の「ROCK」ではなく、鍵の「LOCK」となっているんです……。この「LOCK」の意味は、ロックゴーレムがギニーデン西部の遺跡型ダンジョンで呪具を守護していたからと推測されます。』
場面が再度切り替わり、遺跡型ダンジョンを映し出す。さらに、呪具の禍々しいイメージ図、それを守護するロックゴーレムの凛々しい姿も紹介された。
『呪具はグラフィックのクオリティ低下を引き起こしていた弱体化の呪いを引き起こしていた可能性が高いです! 今回のクエストでは攻略組が別動隊として動いており、呪具は攻略組により破壊されたと推測されます! 驚くことに呪具が破壊されたためか、呪具を守護してしたダンジョンは消失しました!』
遺跡型ダンジョンの消失前、消失後をBEFORE・AFTERの文字とともに紹介する。そして、最後に――とプレゼンテーターが続ける。
『運営側からグランドクエスト開始の公式発表はないものの、グランドクエストである可能性は非常に高いと思われます! 突発でイベントやクエストが発生する可能性があり、今後も目が離せない展開となりそうです! また、弱体化の呪いが解けたことで、ギニーデンを含むニューズ・オンライン全体のグラフィックが秀逸な見ごたえのあるものとなりました! これを機にニューズ・オンラインをプレイしてみては如何でしょうか!?』
「「「なんじゃこれぇえええ!?!?」」」
動画を見終わると、皆が絶叫した。最後に動画の配信者の名前を見てさらに驚愕する。
『配信者:ゴエモン』
山田は成瀬と顔を見合わせる。ゴエモンは確かに動画配信を行っているとは言っていた。しかし、有名なゲーマーであったことは予想外だった。
そして、ゴエモンは今回の騒動の裏事情を飲み込めているはずである。しかし、あることないこと付け加えて一連の事象をうまく繋げてストーリー化していていた。さらに、動画はプロモーションビデオのように迫力のある映像と音声をかけ合わせている。
ゴエモンは裏事情を承知の上で、ニューズ・オンラインをプロモーションしようとしているのだ。山田は放心状態のまま、呟くように言った。
「成瀬……。鍵の”LOCK”って……呪具を封印しているという意味だったのか?」
「いや、ただの誤記だろ……」
「……だよな」
そんな絶句状態の山田と成瀬の前で、環は珍しく興奮気味に語る。
「ゴエモンから高評価でプロモーションしてもらえるなんて滅多に無いことだよ? すごいなあ。この動画は昨日アップロードされたみたいだけど、再生数は既に十万回超えてるよ?」
「十万回」という数字に現実味が沸かなかった。そんな数値を叩き出すとどのような影響があるのか、想像がつかなかった。そして、ふと急上昇していたレビューの点数を思い出す。
「――じゃあ、あのレビューの点数もバグではないのか!?」
山田が叫んだ瞬間、辻村からの着信が鎌田のPCに入る。辻村の声は意気揚々としており、明らかにニューズ・オンラインがバズってる状況を知っているようだった。
「皆、オフィスにいる!?」
「長谷部くん以外はいますよ。環さんも」
鎌田が簡潔に答えた。
「よし、心して聞くが良い。な・ん・と! ニューズ・オンラインの新規ユーザ数が昨日と今日で1000人を超えました!」
パンパーン、と辻村がクラッカーと思われる破裂音をたてる。かなり陽気であることが伺えた。1000人増という言葉に山田も興奮する。
「すごい! じゃあトータルのユーザー数は――2000人以上じゃないですか!?」
「そうなの! まだ目標の5000人には届かないけど、昨日今日の成果としては上出来でしょう! ”ヒモ化作戦”大成功! 皆よく頑張ったわね!」
辻村はうっとりとした声を上げた。辻村の褒め言葉に、成瀬や鎌田もまんざらでもなさそうであった。しかし、ここにきて山田は一石を投じる。
「ゴエモンの動画配信のお陰で新規ユーザ数が伸びたんでしょうが、事実ではないことばかりが表に出てますよ? 信用問題にはならないでしょうか?」
「ゴエモンの動画の内容は一個人の推測に過ぎないから、問題ないでしょう!」
しかし、山田はどうにも腑に落ちない。
「でも、動画の内容と異なると、期待していたプレイヤーが幻滅して、ニューズ・オンラインから離れていってしまうんじゃ……」
「プレイヤーが離れていくかどうかは、山田くんの手腕が試されるところじゃない!? グランドクエストを発表するとか、動画の内容へ歩み寄りの姿勢を見せればいいじゃない」
山田は唖然としてしまった。またいつもの辻村の無茶振りが始まった。まさか辻村の言う一個人の推測に、運営側が合わせにいくなど思いもよらなかった。
しかし、辻村の言葉には一理ある。ゴエモンの動画の内容は事実と異なることが多かったが、どんな形であれグランドクエストを進めることができれば、プレイヤーたちがニューズ・オンラインに留まってくれるかもしれない。山田は辻村であればグランドクエストについて知っているだろうと思い、尋ねてみる。
「ニューズ・オンラインのグランドクエストってどんな内容なんですか?」
「は? そんなのないけど?」
「ないんですか!?」
山田は思わず天を仰いだ。成瀬も絶句して目を見開いている。メインストーリーのないゲームがあるとは考えもしなかった。ではニューズ・オンラインのゴールとは何なのか。山田は今まで考えもしなかった課題に直面する。
「じゃ、山田くん。この調子でこれからもニューズ・オンラインをよろしくね! グランドクエストの企画、早めに提案して頂戴」
運営側が一個人の推測に合わせるという逆流が発生。さらにグランドクエストというニューズ・オンラインのメインストーリーまで企画することになってしまった。
辻村との電話が切れると、山田は迷子になった子犬のように周囲を見渡して助けを求める。環が山田の肩をぽんっと叩き、同情を示す。成瀬に至っては山田と目を合わせようとせず、鎌田はヨーホーヨーホーと聞き覚えのある陽気な鼻歌を歌いながら我関せずといった様子だ。
山田は深くため息をついた。胃が体内で浮遊しているかのようにむず痒くなる。先のことを考えると頭が痛かった。
しかし、ニューズ・オンラインにはまだまだやるべきことがあるという事実が、山田のことをワクワクさせるのだった。
――ニューズ・オンラインのゴール
山田は新たな課題を胸に、手のかかる子供を見るような目で前を見据えていた。
ここまで読了いただきありがとうございます!
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山田はニューズ・オンラインをプレイヤーと運営の垣根を越えて協力することでニューズ・オンラインを良くしようとしています。私も読者様から頂く評価、ブックマーク、感想、さらには1PVですらも、作品へよい影響を与えていると思っています。よりよい作品にしていきたいと思いますので、今後ともお付き合い頂けますと幸いです。
次は閑話をいくつか挟んだあと、3部に移りたいと思っています。
予定している閑話は現状以下ですが、気分により増減したりします笑
・ジーモの休暇
・辻村の交渉術
・環の食レポ
第3部の開始は恐らく1か月半後くらいになるのではと思います、それまで気長にお待ちいただければと思います!それでは後ほど!




