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第2部 20話 ゲームマスターと夢

皆さんの夢は何でしょうか?

本話は夢を見たい筆者の願望です笑


2021/06/29 改稿

◆ニューズ・オンライン ギニーデン西門◆



 ヤジマの前方にはギニーデンの外壁が姿を現した。先ほどのロックゴーレム大量発生が嘘のように、辺りは静けさを取り戻している。仲間たちが各門を死守することができなかったのではと不安がよぎる。


 もし門が突破され、ロックゴーレムが城下街へ流入していたらどうなるか。ロックゴーレムは、ダンジョンのボスクラスのモンスターである。街中にいる初心者プレイヤーは蹂躙(じゅうりん)され、リスポーンを繰り返すことになる。中堅プレイヤーですら一対一では瞬殺されるだろう。


 そんな不具合とも言えるようなロックゴーレムの流入に出くわしたとしても、リスポーンによるデスペナルティーの補償はできない。ゲームを続けてくれるプレイヤーなど皆無だろう。


 ヤジマは、焦る気持ち抑えて”早歩き”を続ける。


 西門に近づくと、ヤジマは違和感を感じ取った。ロックゴーレムの地鳴りは聞こえてこない。しかし、静か過ぎる。ヤジマがギニーデンを留守にしたのはほんの40分程度である。そんな短時間の間にあれだけいたロックゴーレムを殲滅できるとは到底思えない。


 西門のアーチ下の暗がりには、幾人かの人影が見える。目を凝らすと、その人影は見覚えのあるものだった。カスミ、カンナバル、ヘル、そしてジーモに取り込まれたままのゴエモンが待ち受けていた。ヤジマは思わず叫んだ。


「ロックゴーレムはどうしたんだ!? 全て討伐できたのか!?」

「おいおい、早速だな。いろいろあったが、全て討伐したぞ!」


 カスミがどうだと言わんばかりにサムズアップする。カスミの言葉を聞いてヤジマはほっと胸をなでおろした。しかし、どうやって討伐したのか疑問は残る。


「それにしても、あれだけの数をよく討伐できたな……」

「いや、実際のところ、ここにいるメンバーだけでは足止めが精いっぱいだったんだが……。あっちを見てみろよ」


 カスミはアーチを抜けた先の城下街を(あご)で指した。ヤジマは光が遮られた薄暗さの中、目を凝らす。アーチの先で(ほの)かに輝く光に目を細めながら、歩みを進めた。


 アーチを抜けた先の光景にヤジマは目を疑った。


 西門から城下街中心部まで続く大通りは、たくさんのプレイヤーでごった返していた。幾重にも重なる石畳を踏みしめる足音、装備がガチャガチャとぶつかり合う金属音、プレイヤー達の談笑。今までギニーデンでは聞くことのなかった雑音が大音量で聞こえてくる。


 そして、街並みも見違えていた。汎用品を使って低クオリティーだった大通り沿いの家屋は、精巧な石造りのデザインに置き換えられ、西洋的な街並みがリアルに再現されている。大通りの奥には、ギニーデンのシンボルであるオタゴ王宮が、復元された荘厳(そうごん)な姿で(たたず)んでいた。


「これは……どういうこと?」


 デザインのクオリティーが上がったのは予定通りであるものの、ギニーデンにいるプレイヤーの数が明らかに増えていた。街中は今までに見たことのないほどの活気で溢れていた。


「初心者支援イベントやECHO(エコー)でロックゴーレム討伐の増援要請したことが影響したんだろう。ニューズ・オンライン中のプレイヤーがギニーデンに集結したんだよ。これだけのプレイヤー達がロックゴーレム討伐に参加したんだ。殲滅するのはあっという間だったよ。本当はヤジマを(おとり)にして、じっくりレベル上げしたかったんだが……」


 カスミの言葉に同意するように、ヘルも話し始める。


「俺も、もっとたくさん討伐してステーキ弁当をヤジマから(おご)ってもらう予定だったんだが、自力で五体倒したところで全て討伐し終えてしまった」


 ヘルの言葉を聞き、ヤジマはげんなりした。


「俺へのDMで、討伐するのはかなり難しいって言ってただろ!? どういうこと!?」

「ほら、VRMMO経験者だからな。案外いけた。弁当×5よろしくなっ!」

「初心者と経験者の間で行き来してますが!? ……じゃあヤジマ手作りの外国産豚ステーキ弁当×5、楽しみにしててな」

「まさかの手料理!? デパ地下で気軽に買えるA×5ランク国産牛ステーキ弁当推奨」

「俺の気持ちが気軽じゃないから却下」


 いつもの軽口を叩いた後に、ヤジマはカンナバルの方を見る。


「カンナバルさんは大丈夫でしたか?」

「運良く大規模なパーティーを組めたので、問題ありませんでした。粘ってる最中に増援が来たので、北門は死守できました。しかし……」


 カンナバルはうつむき加減のゴエモンに目をやる。ゴエモンはしくしくと泣きながら、ヤジマに助けを求める。


「GMさん! ジーモが俺のこと解放してくれないんすよ!」


 切実な表情のゴエモンだが、見た目は白タイツ姿である。ヤジマは思わず吹き出してしまう。


「あー! 笑うなんて酷いっす!! もう絶対協力しませんからね!!」


 ゴエモンは頬を膨らまして見せた。ヤジマは笑いを隠すようにして謝る。


「ごめんね、ゴエモン。ジーモ、そろそろ解放してくれないかな?」


 ゴエモンの額にジーモの目が現れ、ヤジマを見据える。


「約束忘れてないナ? ゴエモンは人質ナ」


 そういえば、とジーモの休暇要望のことを思い出す。まさか休暇の取得に人質を取られるとは思わなかった。ヤジマは忘れていたことを隠すように慌てて答える。


「わ、忘れてないよ! 明日休暇取っていいから解放してあげて!」

「やったナーーー!!」


 ジーモは喜びの雄叫びと共に、ゴエモンの頭上に白色の小さな水玉を作った。水玉はゴエモンの全身から白色の液体を吸い上げるようにして徐々に大きくなっていく。ゴエモンが元の状態に戻ると、水玉はジーモの姿に変形した。


 ゴエモンはその場に尻もちをついて安堵の表情を浮かべる。ジーモは機嫌良さそうに八の字を書きながら飛び回っている。


 ヤジマは再度街の方に目を移す。きれいなグラフィックの街並みにプレイヤーがあふれかえっている。プレイヤー達は笑顔で談笑し、会話していると相手の声が聞こえなくなるくらいに騒がしい。


 バレンタイン・オンラインで見たヤジマが理想とする光景に近かった。バレンタイン・オンラインに近づけたという事実がヤジマを感極まらせる。


 今日は偶然にもヤジマの理想を再現できただけかもしれない。しかし、ヤジマにとっては大きな一歩だった。


 胸からあふれ出すこの思いを伝えたい。ヤジマは思わずECHO(エコー)を始めて、ニューズ・オンライン全体に語りかける。


『ニューズ・オンラインのプレイヤーの皆さん、GMのヤジマです! 今日はロックゴーレムの討伐にご参加いただいて本当にありがとうございました! お陰様でギニーデンは滅亡の危機を脱することができました!』


 辺りにいたプレイヤーがヤジマを取り囲むようにして徐々に人だかりの輪を作る。皆がヤジマを注目し始め、周囲から歓声が飛ぶ。


『楽しかったぞー!!』

『経験値ブーストのイベントと重なって良いレベル上げができたよ!』

『たまにこういうイベントがあってもいいんじゃないか?』

『クエスト報酬に期待』


 ECHO(エコー)に対するプレイヤー達の反応が各所から聞こえてきて嬉しくなり、さらに言葉を続ける。


『ニューズ・オンラインはまだクソゲーの域を脱していないかもしれません』


 ヤジマは辺りを見回す。カスミ達顔見知りの仲間を始め、見知らぬ顔までがヤジマに注目している。ヤジマは今気づいてしまった。


『私は皆さんの助けを借りて、ニューズ・オンラインを、必ず神ゲーにまで育てたいと思っています! これからも皆さんの力を貸してください!』


 ニューズ・オンラインを神ゲーにすることがヤジマ自身の夢になったのだと。


 ニューズ・オンラインをやったことがない人には、ニューズ・オンラインの良いところを知ってほしい。ニューズ・オンラインが好きな人にはニューズ・オンラインをもっと好きになってほしい。ニューズ・オンラインが嫌いな人には、ニューズ・オンラインにまた興味を持ってもらえるように努力したい。これらの思いがヤジマの情熱の源となり、夢へと昇華した。


 今日一日を通して、ニューズ・オンラインでも現実世界でもたくさんの人に助けてもらった。ヤジマの情熱に呼応するかのように、皆それぞれの役割の垣根を越えて、ヤジマを助けてくれた。ヤジマ一人ではギニーデンの夢のような光景を実現することはなかっただろう。


 ヤジマの夢は、一人で成し得ることはない。ここにいるプレイヤー、そして現実世界にいるチーム・ニューズのメンバー全員の助力があってこそ成し得るのだ。


 ニューズ・オンラインのサービス終了はもちろん回避したい。しかし最も大事なことは、ニューズ・オンラインをもっと良いゲームにしていくということだ。


『皆でニューズ・オンラインをもっと良いゲームにしましょう!』


 ヤジマは拳を天に突き上げる。「おおー!!」という掛け声とともに、プレイヤー達も拳を突き上げ、辺り一帯はお祭り騒ぎとなる。騒ぎは日が暮れてからも収まる気配はなかった。

次話がエピローグとなり、第2部完結です!

最後までお付き合いください!

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