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第2部 19話 ゲームマスターと懐古

1話増えたので、この話を入れて後3話です(笑)

カスミの話を書くのは楽しいなあ。


2021/05/17 改稿

◆ニューズ・オンライン ギニーデン南門◆



 カスミは唖然としていた。カスミが守備を受け持った南門は、ロックゴーレムが幾重にも重なりあい、絶妙な具合で門を(ふさ)いでいた。しかし、門を(ふさ)いでから十分ほど経過した今、徐々に状況が変わってきた。


 ロックゴーレムたちは、低いうめき声を上げると同時に、体を震わせ始めた。当然の如く、地鳴りが響き渡る。


 すると、南門のアーチを構成する煉瓦(れんが)にヒビが入り始めた。カスミは最初は気に留めていなかったものの、ヒビは当初の1メートル程度の大きさから、徐々にアーチ全体へ広がってゆく。カスミはまさかと思った。まさかそんなことがあるはずない。南門が崩壊するなどあり得ないことだ。


 カスミは徐々に南門から距離を取るようにして後退(あとずさ)る。すると次の瞬間、カスミの懸念は現実のものとなり、南門を形作っていた煉瓦(れんが)は四方へ爆散した。カスミは、降りかかる煉瓦(れんが)の破片をその身軽さで避けていく。


 破片の雨が止むと、カスミはさらに驚愕することとなった。破片が拡散したせいで南門は通ってくださいと言わんばかりの開放的な状況だ。かなり不味(まず)い状況であることは確実であった。


 南門の跡ではロックゴーレムたちが、獲物を見つけた獣のような目でカスミのことを見据えている。今にも突入してきそうな様相だった。これではカスミのスキルでロックゴーレムの行く手を(はば)もうとも、複数体同時に襲いかかられたらひとたまりもない。


不味(まず)い……逃げないと……)


 カスミはさらに後退(あとずさ)る。しかし、ここに来てヤジマたち仲間の顔が思い浮かび、カスミをその場に思い留まらせる。彼らも同じように体を張って門を死守しているのだ。カスミだけが諦めるわけにはいかないだろう。


(当たって砕けろ、だな)


 文字通り「死守」の構えだ。カスミは覚悟を決めて、単身でロックゴーレムたちに向かって走り出す。


「カスミ様を()めんなぁあああ!!」


 カスミは最も手前にいたロックゴーレムの股下を()(くぐ)り、背後を取る。ロックゴーレムの背中に飛び乗り、気合いの雄叫(おたけ)びと共にダガーによる斬撃を幾重にも繰り出す。カスミの怒涛(どとう)の攻撃は、ロックゴーレムのHPステータスを徐々に削っていく。カスミの攻撃を嫌がるようにして、ロックゴーレムが身を振って攻撃を(かわ)そうとする。カスミは背中から振り落とされる前に地面へ飛び降りた。その瞬間、着地する直前に右手側の視界に大質量の塊が見える。


(あ、終わった――)


 着地した瞬間、カスミの背後から迫っていた別のロックゴーレムの腕がカスミの右半身を押しつぶす。電車にでも()かれたかのような衝撃が加わり、そのまま吹き飛ばされた。南門の瓦礫(がれき)の中へと突っ込み、瓦礫(がれき)の崩れる大きな音が響いた。


 辛うじて即死を免れたものの、カスミのHPは0に限りなく近い。重い一撃だった。回復アイテムを使おうと立ち上がろうとした瞬間、カスミを黒い影が覆う。見上げるとロックゴーレム三体が上からカスミを凝視していた。


(ここまでか……)


 ロックゴーレムたちは既に街中へ流入していっている。ついに南門が決壊してしまった。カスミは倒れ込んだまま、手を上げて降参のポーズを作った。できることは全てやったと自分自身を誇ることだけはできた。


 ロックゴーレムが大きな腕を振りかぶる。もう起き上がる気すらしなかった。潔くリスポーンしようと瓦礫(がれき)に背を預けた状態でその時を待つ。


 大きな腕がカスミに迫り、押し潰される直前、カスミの目の前でロックゴーレム3体の背中が一斉に爆音と共に破砕した。3体はその場に崩れ落ちる。


 懐かしい金属の焦げた匂いがカスミの鼻先をかすめる。緋色(ひいろ)の鎧を(まと)う青年の姿が崩れ落ちるロックゴーレムの脇から見えた。その青年は、街へ流入したロックゴーレムたちへ疾風のように駆けていく。そして、あんなにも大量にいたロックゴーレムが、炎を(まと)った大剣の一撃により次々と地面に沈んでいった。辺りにいたロックゴーレムが殲滅されるのに、ものの数分もかからなかった。


「危なかったですね、大丈夫ですか?」


 青年が、倒れたままのカスミに近づき手を差し伸べる。緋色(ひいろ)の短髪、緋色(ひいろ)の瞳、燃えるような笑顔。カスミはこの顔の持ち主を知っていた。


「――ヒイロ?」


 燃えるような笑顔が驚きの表情に変わる。そして徐々に目を見開いた。


「カスミか!?」


 ヒイロはカスミが前のアバター時代に所属していたギルド「緋龍(ひりゅう)の翼」のギルドマスターだった。カスミの前のアバターはニューズ・オンラインのトッププレイヤーとして活躍していた。つまり、「緋龍(ひりゅう)の翼」はニューズ・オンラインのトップギルドだった。ヒイロはそのトップギルドのマスターである。


「助かったよ、ヒイロ」

「久しぶりだな、カスミ。アバターが変わっても、やはり面影は残ってるな」


 カスミはヒイロの手を取り、起き上がりながら頷く。


「ヒイロが何故ここに?」


 カスミは砂埃を払いながら言った。ヒイロのようなトッププレイヤーが始まりの街であるギニーデンに来ることなど滅多にない。「緋龍(ひりゅう)の翼」は大所帯であるため、拠点である街「シーツー」から移動することはほとんどない。そんな遠い場所から移動して来るからには、それなりの理由があるに決まっている。


「初心者支援のイベントが昨日から始まったろ? ギルドのメンバーの大半を連れて、初心者支援をしに来たんだ。そしたらGMさんからロックゴーレムの大量発生イベントの告知があって、急いで駆けつけたんだよ。初心者支援イベントと組み合わせた複合イベントか何かなのかな? 街中までモンスター入れるなんてGMさん大胆なこと考えるなあ」

「あはは……まあイベントというかトラブルというか何というか……」


 カスミは裏事情を知っているため、苦笑いするしかなかった。いずれにせよ、ヤジマの一か八かのアナウンスが功を奏したというわけだ。


「それにカスミのことも気になっていたしね。僕がギニーデンへ行こうと皆に進言したんだよ」


 カスミは恥ずかしさで居たたまれなくなり、赤くなった顔を背ける。


「ば、ばか。ついでみたいに言うんじゃねーよ!」

「ははっ、ごめんごめん」


 ヒイロは片手で(おが)んで見せる。ヒイロは昔から何とも憎めないやつであった。


「他のギルドメンバーたちはどうしたの?」

「ギニーデンの外壁周りを掃除しているよ。すぐ終わると思うからすぐ会えるよ」

「ボスクラスの討伐を掃除扱い……さすがトップギルドは実力が違うわ~」

「いや、カスミも少し前まで所属してたじゃん!」


 カスミはヒイロとの雑談にトップギルドに所属していたころの懐かしさを感じた。共に切磋琢磨した仲間たち。良き思い出が昨日のことのように蘇り、頬が緩む。


 カスミは外壁の外に出て辺りを見回す。まだロックゴーレムの姿は多々あるものの、徐々に駆逐できているようだった。


 そんな中カスミを驚かせたのは、ロックゴーレムと対峙しているのは、明らかに「緋龍(ひりゅう)の翼」以外のプレイヤー達が多いことだった。いくつものパーティーがロックゴーレムを各個撃破している。ここまでたくさんの数のプレイヤーを見たのは、ニューズ・オンラインで初めてかもしれない。


「ニューズ・オンラインのプレイヤーってこんなにいたんだな……」


 思わずカスミは(つぶや)いた。ヒイロもカスミの意見に同調して(うなず)く。


「ギニーデンに来るまでの道のりでは、たくさんのパーティーに出会ったよ。まるで故郷への帰省ラッシュのようだった」


 おそらく、初心者支援イベント、ロックゴーレムの大量発生やGMのECHO(エコー)など偶然に偶然が重なってニューズ・オンライン中のプレイヤーがギニーデンに集結しているのだ。ヤジマはこのことを予想していたのだろうか。カスミは苦笑して首を横に振る。


 次の瞬間、空が端の方から赤く染まっていく。


「なんだ!?」


 ヒイロがその異様な光景に驚きの声を上げる。しかし、カスミにはこの空の色が何を指すのか、なんとなく分かっていた。南門の瓦礫(がれき)にノイズが走り、ポリゴンが地面から隆起して、南門を元通りにしていく。南門が元の姿を取り戻したところで、空の色も元に戻った。


 どうやらヤジマのミッションは成功したようだ。そして、門を守るカスミ達のミッションも辛うじて成功した。最早文句のつけようもないハッピーエンドだった。


 気が付くとカスミは駆け出していた。


「どこに行くんだ!?」


 ヒイロの驚きの声にカスミはニカッと笑顔で叫び返す。


「仲間のところ!」


 そうだ、皆で祝杯を上げなければ。懐かしの焦げた匂いを振り切るように、カスミは西門へと走っていった。


ここまで読了いただき、ありがとうございました!

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