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第2部 18話 ゲームマスターと作戦の結末

2部完結まで残り3話です!

最後までお付き合いください!


2021/05/17 改稿

◆ニューズ・オンライン ギニーデン西部 遺跡型ダンジョン ニューズ・オンラインのサービス停止まで後15分◆



 扉を抜けると、ヤジマはダンジョンの根元部分に開いている穴へ向かって走った。穴からは丁度ロックゴーレムが顔を出したところだった。やはりダンジョンが無尽蔵にロックゴーレムを生成してはこの穴から送り出しているのだ。ヤジマはロックゴーレムの出鼻をくじくように、真正面へ”グーパン”を食らわせてロックゴーレムの体を爆散させる。


 穴を前にして、早速コンソールを開き、ファイル修復コマンドを入力して実行する。


Repair( Dungeon(0x5448780452454144494E47, W) )

TRYING...


 画面に文字列が表示され、リペアコマンドが無事実行される。ヤジマはホッとひと息ついた。しかし、次の瞬間、コンソールに表示されたのは予期せぬ文字列であった。


ERROR...RETRY…ERROR…ERROR…ERROR…ERROR…ERROR…ERROR…ERROR…ERROR…ERROR…ERROR...


 ビープ音が響き渡り、ヤジマの心臓が握りつぶされたように大きく脈打つのがわかった。心拍数が急上昇し、呼吸が苦しくなる。


 ヘルが言った通りにコマンドを入力したはずだった。コマンドを確認するが、入力ミスはないように見える。そんなことはない、と一行しかないコマンドにもかかわらず、何度も何度も確認する。しかし、誤りは見つからなかった。


 ヤジマは両手で頭を抱えて(うつむ)いた。焦燥感が募る。対策を考えようとするも、焦って考えがまとまらない。


「タイムリミットは後10分しかない」「コマンドには本当に誤りはないのか」「ヘルにDMしようか」「南門へ行ってジーモを呼んでこようか」「他のコマンドを試してみるか」「ギニーデンの状況はどうなってるんだ」


 様々な考えが浮かんでは消え、浮かんでは消える。落ち着こう、と思ったものの、頭の中が何者かに占領されたかのように何も考えられない。


 すると突然、耳元で電話の呼出音が聞こえた。ジリリリリッという古めかしい、黒電話の音だった。


 ヤジマは驚いて顔を上げ、開きっぱなしとなっていたコンソールに視線を移す。右下に入電のマークが点滅していた。こんな機能があることをヤジマは初めて知った。電話に出る余裕などあるはずもなく、無視しようと思ったが、呼出音は止むことなく続く。ヤジマはこみ上げる怒りを抑えながら呼出に応じた。


「はい、ヤジマです!」

「あ、山田くん?」


 声を聞いて話し相手が誰かすぐにわかった。辻村だった。現実世界と連絡を取る方法があることをヤジマは知らなかった。


「後10分しかないけど状況どう?」

「あの! もう時間なくて! でもERRORって出て! ギニーデンも大変なことになってて!」


 ヤジマは息も絶え絶えに、支離滅裂な回答をしてしまう。


「山田くん!!」


 耳を(つんざ)くような辻村の声が響き渡った。ヤジマは驚いて背筋を伸ばす。


「落ち着け! 深呼吸。一回息はき切ってから大きく吸って」


 ヤジマは辻村の言う通り、深く呼吸を繰り返す。焦りによりちゃんと呼吸できていなかったことに気づくと、自然と呼吸ができるようになっていく。傍若無人(ぼうじゃくぶじん)に振舞っていた心臓の鼓動が少しおさまった気がした。


「さて、山田くん。手短に状況を説明してくれる?」


 ヤジマは、ギニーデンでロックゴーレムの大量発生により、ダンジョンへの到着が遅れた旨、そしてファイル修復コマンドが成功しない旨を伝えた。


『長谷部くん、ファイル修復コマンドが成功しない原因わかる?』

『ログを調べてみないことには何とも……。すぐには難しいですね……』


 現実世界での辻村と長谷部の会話の内容が聞こえてくるが、解決策は見つかりそうにない。


『調べる時間もない。となると私達に残された手段は唯一つ。ダンジョン丸ごと削除しよう』

『えぇぇぇぇ!?』


 メンバーの絶叫が聞こえた。環の「鎌田さんしっかり!」と鎌田の状態を気遣う声が聞こえた。鎌田の作ったダンジョンが削除されると聞き、鎌田が卒倒したようだ。辻村はメンバーの反応を気にせずに続ける。


『破損ファイルがなくなればよいのだから、削除も一つの手段でしょう?』

『それは理にかなってはいますけど、サービスの稼働中にオブジェクトの削除なんて前代未聞ですよ!? しかもダンジョンほど大きな物体が消失したら、いくらなんでもプレイヤーたちが黙っていないでしょう!?』


 長谷部の大反対する声が聞こえた。


『サービスが停止するよりはマシでしょ? プレイヤー達は後で山田君に(なだ)めてもらいましょう。いいわね、山田くん?』

「わかりました……」


 選択肢は他にはないことはわかっていた。ヤジマは急いで、かつ慎重にコンソールへコマンドを打ち込む。


Delete( Dungeon(0x5448780452454144494E47, W) )


 残された時間は後3分もない。これが最後のチャンスだった。意を決して、コマンドを実行する。


TRYING…


 ヤジマはコンソールを固唾を飲んで見守る。実行時間は10秒程度のはずだが、待ち時間が永遠と思えるほど長く感じた。


SUCCESS


 SUCCESS(成功)と表示された瞬間、ヤジマは思わずガッツポーズしてしまった。 


『どうなったの、山田君!?』


 喜びのあまり、辻村への報告を忘れてしまうほどだった。慌ててヤジマは辻村へ結果を報告する。


「成功しました!!」

『よしっ!!』


 電話越しに皆の歓声が聞こえる。次の瞬間、目の前にそびえ立つ巨大なダンジョンが上部からポリゴン化し霧散していく。まるで、蛍の群れが飛び立っていくような、そんな美しい光景だった。


『ニューズ・オンラインの移動、再開しました!』


 環の凛々しい声が聞こえた。


『5、4、3、2、1、移動完了です!』


 再度メンバーの歓喜が聞こえると同時に、空の色が端の方から青から赤へと塗り替えられていく。空が全て赤く染まったタイミングで、ヤジマの裏手に生えていた木々に変化が発生した。一瞬、陳腐な木のビジュアルにノイズが乗ったかと思うと、葉の一枚一枚まで鮮明に描かれた、精巧な針葉樹に変化した。そよぐ風に枝葉が揺れ、その様子は現実と相変わらないものである。


 ビジュアルの更新が終わると、赤く染まっていた空が、ロウソクの火を吹き消したかの如く、ふっと青に戻った。


 ヤジマは安堵から思わず尻もちを付いてへたれこんだ。本当にギリギリの勝負だった。もし辻村があのタイミングで電話をかけてこなかったら、失敗していただろう。


「辻村さん! ありがとうございました!」

『お礼を言うなら、後でメンバー一人一人に言いなさい! 皆の協力があってこその成功よ。それよりも、山田くんはギニーデンでまだ仕事が残ってるでしょ? いってらっしゃいな』

「はい、決着をつけてきます!」


 ヤジマはそう言うと、電話を切った。


 ダンジョンが消えた跡は、土がむき出しになった状態でクレーターのように大きく陥没していた。そして、ダンジョンが消えると共に、ヤジマが通ってきた扉も消失してしまったことに気づく。


 各門で奮闘を続けているだろう仲間たちのことを思うと、すぐにでも戻って参戦したかった。


(徒歩で戻るのか……)


 ヤジマはダンジョンを消した思わぬ弊害に辟易(へきえき)するのだった。


ここまで読了いただきありがとうございました!

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