第2部 17話 ゲームマスターと籠城戦2
後から読み直したら完全にフ○ーザ様でした
2021/06/29 改稿
◆ニューズ・オンライン ギニーデン南門 ニューズ・オンラインのサービス停止まで後25分◆
カスミは軽い身のこなしを活かして外壁の上に登り、外壁沿いに南門の上まで辿っていく。外壁の外側に目をやるとロックゴーレムの大群は南門にはまだ到達していないようだった。しかし、カスミにはほっと一息つくような余裕はなかった。
南門の守備を引き受けたのは良いものの、ロックゴーレムの進行を止める手立ては全く思いつかなかった。カスミがロックゴーレムの前に仁王立ちしようとも、ロックゴーレムに軽くあしらわれて、ほぼ素通り状態だろう。
無抵抗にキルされるのも嫌なので、外壁の縁に腰掛けて増援を待つことにする。眼下を見渡すと南門へと押し寄せるロックゴーレムのバーゲンセール状態だ。どこを見渡してもロックゴーレム。こんな状況をよく作り出したものだとヤジマには感心してしまう。
呆然とその光景を眺めていると、一体のロックゴーレムが土煙を上げて倒れ込んでいる。動きが鈍くなかなか起き上がろうとしない。どうやら岩に躓いたようだった。
シュールな出来事に思わず目を奪われていると、ロックゴーレムが倒れ込んでいるところにさらにロックゴーレムが突っ込んできた。突っ込んできたロックゴーレムは見事に躓き、覆いかぶさるようにして倒れ込んだ。
苦しそうなうめき声に同情さえしてしまう。下敷きとなったロックゴーレムはモゾモゾ動くだけで起き上がれないでいる。
その瞬間、カスミの頭に一つのアイディアが閃いた。
――南門の扉を閉めることができないのであれば、代わりを用意するか……
思い立ったら最後、試してみずにはいられない。カスミは外壁の上から飛び降り、南門前に着地する。カスミの元へはロックゴーレムの大群が迫ってくる。目の前を埋め尽くす黒い塊の量に辟易してしまい、思わず後退る。しかし、ギリギリまで引き付けなければならない。
カスミは徐々に門の中へ後退していき、ロックゴーレムが門の入口に差し掛かったところで詠唱を行う。
「ライズロックス!!」
ロックゴーレムを討伐した際に得て、それきりお蔵入りしていたスキルを発動した。このスキルは地面から小机程度の岩を発現させる。
しかし、岩はロックゴーレムの手前で発現してしまい、ロックゴーレムへダメージを与えることはない。しかも、ロックゴーレムの大きさと比べるとゴミのような大きさだった。
ロックゴーレムとカスミの距離は徐々に狭まってきており緊張が走る。次の瞬間、ロックゴーレムが上げた右足が岩に引っかかり、盛大に転倒した。崖崩れでも起こったかのような振動と音がカスミに襲いかかる。
さらに、後続のロックゴーレムも覆いかぶさるように転倒し、さらにその後続が……とドミノ倒しのように被害が広がっていく。ロックゴーレムたちは倒れた込んだままモゾモゾ動くだけで起き上がれない。
「ばーーか!!」
ロックゴーレムが余りにも単純な動きで、カスミの予想通りに動くので、興奮して思わず悪態をついてしまった。
みるみるうちにロックゴーレムの壁は大きくなり、南門を塞いでしまった。これなら討伐はできずとも幾らかの時間稼ぎにはなるだろう。
カスミはヤジマの顔を思い浮かべる。これだけヤジマを助けてやったのだから、後でヤジマに囮をやらせても文句は言えないはずである。しかも、これだけたくさんロックゴーレムがいるのだ。かなりの経験値やドロップアイテムが期待できる。
カスミは下品な笑みを浮かべながら、事の収束を待った。
◆ニューズ・オンライン ギニーデン西門 ニューズ・オンラインのサービス停止まで後20分◆
ヤジマは急に悪寒に襲われ、ブルッと身を震わせた。
皆が各門に散開してから十分程度経過していた。途中、ヘルがDMで弱音を漏らしていたものの、それ以来良い知らせもなければ悪い知らせもない。便りがないのはよい知らせというものか。だとするとこの悪寒はまた別の原因なのか。
タイムリミットまで後20分を切っており、流石にダンジョンに向かわなければならない。しかし増援が来る気配はない。ヤジマは目の前のロックゴーレムに“グーパン”を食らわせながら思考を巡らす。
ヤジマが西門を離れれば、後はゴエモンしかいない。初心者のゴエモン一人に西門を託すのはかなり無理な話だった。
そうすると頼れるのは後一匹しかいない。
「ジーモ……。ロックゴーレムの討伐に協力してくれない?」
「嫌だナ。ヤジマはそもそもGMO使いが荒いナ。この間もヤジマがログアウトしている間にアバターの操作を肩代わりしたナ。あの時はカスミにGMコールを強要されて酷い目にあったナ」
ジーモは語気を荒げてそっぽを向いてしまった。確かにジーモには頼りっぱなしで、配慮が足りなかったのは承知している。しかし、今は緊急事態であり一刻を争う。思うところはあるものの、素直に謝り許しを乞う。
「ジーモ、スマン。ロックゴーレム討伐したら、俺にできることであれば何でもするよ。だから協力してくれないか?」
「……休暇が欲しいナ」
ヤジマは耳を疑った。
「へ? 休暇?」
「ニューズ・オンラインが稼働し始めてから一度も休んでないナ。1日くらい休んでもバチは当たらないナ」
ジーモが休暇を取るという状況は考えたこともなかった。ジーモはAIであり、休ませる肉体があるはずもない。どうすればジーモにとって休暇を取ったことになるのかわからなかった。
「休暇って具体的にはどうすればいいの?」
「バレンタイン・オンラインのGMOと親睦会をしたいナ」
「親睦会!?」
「ニューズ・オンラインがバレンタイン・オンライン上に展開されたら、ジーモはバレンタイン・オンラインに居候することになるナ。居候が家主へ挨拶しないのは失礼ではないナ? ニューズ・オンラインを一日留守にするナ。その間、ヤジマがジーモの代わりに仕事してくれればいいナ」
確かに現実世界であれば、ジーモの言い分はわかる。家主へ挨拶もしない居候を我が家へ置いておきたくはない。
「バレンタイン・オンラインにもGMOがいるの?」
「当たり前ナ。バレンタイン・オンラインのGMOは優秀と有名ナ。しかも……ウサ耳バージョンらしいナ……」
ジーモが小声であたかも重大そうに言った。白い躯体がピンク色に染まる。ウサ耳がジーモの萌えポイントであることに驚きつつ、ヤジマは核心をつく。
「ジーモ、色気づいてる?」
「――バ、バカナナナ! そんなことないナナナ!」
バグったかのように「ナ」を連呼するジーモは明らかに動揺している。ヤジマはニヤニヤしながら、ジーモに言う。
「わかったよ。協力してくれたら休暇取っていいよ」
「本当ナ!? 約束ナ!」
そう言い終わると、ジーモはゴエモンの方へ向き直った。
「ゴエモン、ジーモの前に立つナ」
「え、何すか?」
ゴエモンは不安げな表情で恐る恐るジーモの正面に立った。次の瞬間、ジーモの白い体がゴエモンより一回り大きく引き伸ばされ、ゴエモンに覆いかぶさる。
「うわぁあああ!!」
ゴエモンは叫び声を上げたものの避けられずに、なすがまま飲み込まれる。ゴエモンの叫び声は次第に小さくなり、プツンと途切れた。まるでエイリアンの捕食シーンでも見ているかのようだった。
「ジーモ! 一体何のつもりだ!?」
白い球体は幾重にも波紋を浮かべ、少しすると無機質な人の形を型どった。波紋が収まり、頭の位置に苦悶の表情を浮かべるゴエモンの顔が現れた。まるで白色のウエットスーツでも着ているようだった。お世辞にも格好よいとは言えない。
「何なんすかこれ!?」
ゴエモンが全身を見渡しながら叫ぶ。すると、ゴエモンの額の部分にジーモの目が現れた。
「ジーモは直接自分でモンスターに攻撃することはできないナ。だから武器としてロックゴーレム討伐に協力するナ」
どこからともなく、ジーモの説明が聞こえた。しかし、どう見ても武器があるようには見えない。
「ゴエモン、右腕をロックゴーレムへ向けるナ」
「……こうっすか?」
半信半疑といった表情で、ゴエモンはロックゴーレムへ向けて右腕を構える。片腕で前ならえをしているような格好となった。次の瞬間、前腕に割れ目ができ、鳥の嘴のようにパカッと真っ二つに開口した。腕の開口部分よりノーモーションで閃光が放たれる。一筋の白光はロックゴーレムの胸部に命中し、岩盤のような胸が赤く溶解。そのまま膝をつくようにして倒れ、霧散した。
ゴエモンもヤジマも、エイリアンのように不自然に割れたゴエモンの腕の状態と、放たれた光線の威力に絶句した。
「……な、なんだこれ?」
言葉を振り絞るようにして、ヤジマが呟いた。
「光魔法の最高位、“ホーリーライトニングブラスト”ナ。この状態であればニューズ・オンラインの全ての光魔法がリスクなしで使えるナ」
「それはチートすぎるだろ……」
「止めるナ?」
「いえ、止めません、すみませんでした」
想定以上の威力に驚きはしたものの、西門を任せるに足る実力であることは間違いない。ヤジマはコンソールを開き、時間を確認する。残り時間は15分というところまで迫っていた。
「GMさん、行っちゃうんすか……?」
ゴエモンが心細そうに言った。ジーモに取り込まれた状態で一人にするのは可哀想だったが、致し方ない。
「すぐ戻ってくるから、それまで西門をなんとか守って欲しい!」
「早く帰って来てほしいっす……生命力使い果たしたらジーモに取り込まれちまうかもしれないっす……」
ゴエモンは不安げにぼやいた。放たれる光線がゴエモンの生命力を消費しているという妄想を抱いているようだった。
「だ、大丈夫だから安心して! ジーモ、頼んだよ!」
「約束忘れないでナ? 約束破ったらゴエモンの生命力を使い果たすナ」
「ほら、やっぱり……」
ゴエモンがしくしくと泣きながらロックゴーレムへ“ホーリーライトニングブラスト”を放つ。爆散するロックゴーレムを横目に、ヤジマはジーモを睨みつけて嗜めた。ジーモは悪びれる様子もなく呟く。
「冗談ナ」
「冗談に聞こえないから!」
結局ダンジョンの修復にはヤジマ一人で向かうことになってしまった。もしヤジマが修復作業に失敗した場合、ニューズ・オンラインのサービスは停止してしまう。重要な役回りであることは言わずもがなだった。
ヤジマはダンジョンに通じる扉に手を掛ける。心細さを感じながらも、勇気を振り絞って扉を開いた。
ここまで読了いただきありがとうございました!




