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第2部 16話 ゲームマスターと籠城戦1

籠城戦!響きが良い…!

過去に類を見ない(小)規模での籠城戦をご覧あれ!


2021/05/17 改稿

◆ニューズ・オンライン ギニーデン東門 ニューズ・オンラインのサービス停止まで後25分◆


 ヘルは暗澹(あんたん)たる思いでギニーデンの東門へ向かって走っていた。ヤジマの采配は全くもってなんという無鉄砲なものだろう。


 ヤジマの提案は、各門ごとに人柱を立てるという、もはや作戦でも何でもない代物(しろもの)であった。そして、そんな愚案に乗ってしまうヘル自身もどうかしているが。


 ヘルにはバレンタイン・オンラインでの戦闘経験がない。しかも装備は初期装備に換装されてしまい、気持ち的にも外見的にも初心者そのものである。そんなヘルを単体で送りこもうとするヤジマには頭が下がる思いだった、皮肉的な意味で。


 ヘルが東門をくぐると、ロックゴーレムは目と鼻の先まで迫っていた。当然ながら増援らしきプレイヤーの影は見当たらない。


 ヘルはため息をつきながらコンソールを開き、自らのステータス、スキル、アイテムを確認していく。


(やはりな……)


 予想通り、スキルやアイテムはバレンタイン・オンラインから引き継がれていない。ニューズ・オンラインにログインした際に、初期装備へ強制的に換装されたことから予想はしていた。しかし、ステータスについては、しっかりと引き継がれていた。


 ヘルは長年バレンタイン・オンラインを担当していたこともあり、ステータスは、攻撃力、回避力に関してはトッププレイヤーに引けを取らない値である。あとは装備さえ整っていれば、単体でもロックゴーレムとさえ渡り合えると自負していた。


(アバターが引き継げているから、俺の予想が正しければ……)


 ヘルは少し前かがみの体勢を取り、身構える。


「獣化、ヘルハウンド!」


 ヘルが言霊を唱えると、背中の筋肉が盛り上がり始める。腕を地面に付けて4足歩行となり、全身の黒毛が体の内側から押し出されるようにして伸びていく。

狼のような(うな)り声と共に、地獄の番犬と呼ぶに相応しい黒犬の姿を現した。


(やはり、アバター付帯の特殊能力は使えたか……)


 獣人などの特殊なアバターは装備アイテムに制限がある代わりに、アバター付帯の特殊能力がある。ヘルはアバター付帯の能力であれば、バレンタイン・オンラインから引き継がれている可能性を予想した。


 獣化した状態であれば、装備がなくてもロックゴーレムに有効打を与えられる可能性は高い。


 ヘルは持ち前の黒犬のスピードを活かして風のように駆け抜ける。ロックゴーレムの振り降ろされる腕がスローモーションのように見える。攻撃がかする気さえしない。呆気なくロックゴーレムの後ろを取った。


 ヘルは跳躍し、右前足の大きな鉤爪でロックゴーレムの背を突き刺す。


 爪はロックゴーレムの体に深く刺さり、ロックゴーレムのHPステータスを大きく削った。ヘルは後方宙返りを決め、4脚で華麗に着地した。得意になって鼻を鳴らす。


 この調子であればロックゴーレムの討伐は思ったほど難しくなさそうであった。そんな状況下で、ヘルに悪知恵が(ひらめ)く。


「ヤジマから搾り取るチャンス――」


 ロックゴーレムの攻撃をひらりと(かわ)しながら、早速ヤジマにDMを送る。


『ヤジマ……。バレンタイン・オンラインのスキルもアイテムも使えず、厳しい戦いになってる。何とか俺を励ましてくれないか……』

『こんなときに何言ってやがる! なんでも奢ってやるから頑張ってくれ』

『じゃあ、お言葉に甘えて……。一体倒すにつきステーキ弁当一つ奢れや』

『もう何でもいいからなんとか粘ってくれ! 頼む!』

『よし、約束だぞ』


 ヘルはDMを終え、口元をニンマリと大きく引き上げる。ヘルの鋭い眼光は、既に次の標的を見据えていた。




◆ニューズ・オンライン ギニーデン オタゴ王宮跡地 ニューズ・オンラインのサービス停止まで後25分◆



 カンナバルは北門へ向かうために、西門からオタゴ王宮跡地に続く大通りを東へ進んでいた。


 カンナバルは魔導士であり、魔法を用いた後方支援が主な戦い方である。支援魔法による味方プレイヤーの強化・回復や、詠唱によりリードタイムが必要となる攻撃魔法を行う。このため、カンナバルが本領を発揮できるのは、パーティーを組んだ状態での戦闘である。ロックゴーレムと一対一で対峙するのは明らかに分が悪い。


 最低でも前衛が3人欲しいと考えていた。しかし、北門に着いたら増援が届いているという状況を期待することは、楽観的すぎると言わざるを得ない。


 カンナバルはオタゴ王宮跡地に差し掛かった。跡地の前は、初心者や中堅と思われるプレイヤー達で(にぎ)わっている。


 三日前から開始している「経験値ブースト」の効果が徐々に現れ、中堅プレイヤーの数が増加してきているのだ。しかし、プレイヤー達はヤジマのECHO(エコー)に答えようとはせず、パーティー毎に固まって雑談を続けている。


 カンナバルは思わずプレイヤー達に疑問を投げかける。


「皆さん、何故ロックゴーレムの討伐に参加しないのですか?」

「ああ……私たちのような初心者を含んだ少人数パーティーでは、ロックゴーレムの討伐は厳しいですよ……」


 中堅と思われる剣士姿のプレイヤーが肩をすくめて答えた。その答えを聞いたカンナバルは絶句してしまった。


 確かにこのプレイヤーの言うことにも一理はある。初心者+中堅で構成される三、四人のパーティーでは全滅は目に見えている。全滅を見越して()えてオタゴ王宮跡地まで避難してきているのだ。しかし、ここにはパーティーが何組もおり、何よりカンナバルがいる。


「皆さん聞いてください! 今現在ギニーデン各門でロックゴーレムが大量発生しています! ここにいる複数のパーティーを一つにして大型パーティーを構成しませんか!? 協力してロックゴーレムを討伐しましょう!」


 カンナバルの提案を聞いたプレイヤー達はパーティー内でヒソヒソと話をするものの、彼らの腰は重かった。提案に乗ってくるパーティーは皆無だ。しかし、この反応はカンナバルとしては想定内だった。リスポーンのリスクと経験値稼ぎを天秤に掛けて、リスクを取ったのだ。それならば天秤が逆側へ大きく傾く材料を投入すればよい。


「皆さんご存知でしょうか?」


 カンナバルの澄んだ声に反応して、プレイヤー達の視線が一斉に集まる。


「今回の経験値ブーストのイベント、“ボスクラス討伐時の経験値ブーストはさらにアップする”という条項があるんですよ。ロックゴーレムはボスクラスに該当するので、通常の経験値の二倍を得ることができます」

「「なに!?」」


 プレイヤーたちの表情が変わる。天秤が徐々に傾いていくのがわかる。カンナバルはさらに天秤を傾ける材料を投入していく。


「さらに、私は上級の支援魔法を使うことができます。攻撃力、防御力、回避力が全て1.5倍! 私のパーティーに加われば皆さん思う存分力を発揮できると思いますよ」


 プレイヤー達がざわつき始める。カンナバルはプレイヤー達の反応に手応えを感じた。天秤にトドメの材料を投入する。


「もしここに避難していたとしても、安全が保証されるわけではありません! ロックゴーレムはギニーデン城下街に侵入することが可能です。大型パーティーに参加しておいた方が安全と言えます」


 カンナバルはハッタリがバレまいと自信に満ちた表情を崩さない。あたかもリスクはないように話したが、ロックゴーレムはあくまでボスクラス。しかも大量発生している状況。カンナバルのパーティーに参加したからといって安全を保証できるものではない。


『うちのパーティーを仲間に入れてください!』


 一人の女性アーチャーが手を上げる。内心ホッとしていたが、カンナバルの余裕を感じさせる表情が変わることはない。


『私達も参加します!』

『うちもお願いします!』


 天秤は完全に傾いた。


――この規模のパーティーであれば、少しは時間稼ぎできるだろう


「皆さんのご協力ありがとうございます! それでは北門へ向かい、ロックゴーレムを討伐しまくりましょう!」


 カンナバルは中堅プレイヤーたちの顔を見渡しながら、(げき)の声を飛ばしたのだった。


ここまで読了いただきありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
あーあ…。 山田の財布に深刻なダメージが…。
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