第2部 15話 ゲームマスターと開戦
ここから第2部のクライマックス開始です!
あともう少しお付き合いください!
2021/05/17 改稿
◆ニューズ・オンライン ギニーデン西門 ニューズ・オンラインサービス停止まで後40分◆
ニューズ・オンラインのサービス停止時間が迫る中、ギニーデンの西門ではロックゴーレムの大群は目と鼻の先まで迫っていた。野次馬たちは既に逃げおおせており、ヤジマたちの他には人の気配はない。
ヤジマはカスミたちにダンジョンに開けた穴からロックゴーレムが漏れ出していること、穴を塞がないとグラフィックの差し替え作業が完了できず、ニューズ・オンラインのサービスが停止してしまうことを簡単に説明した。
「それで隣にいるインフラ担当のヘルと一緒にダンジョンの穴を塞ごうと思ったところで、西門で足止めを食らったわけだ……」
ヤジマの隣で仁王立ちしているヘルを指さすと、背の低いゴエモンがヘルを見上げながら呟く。
「これって……バレンタイン・オンラインの獣人アバターじゃないっすか?」
ヘルは意表を突かれ、驚きながらも大きく頷いた。
「ふっふっふ、よくわかったな! お前はバレンタイン・オンライン経験者か!?」
「はいっ。リアルではゲームのプレイ動画配信をやってるんで、ゲームはいろいろと経験したことあるっすよ! ニューズ・オンラインでも獣人アバター使えるんすね〜。いいな〜」
羨望の眼差しを受け、ヘルは得意気に鼻を鳴らす。ヤジマは逸れた話を元に戻す。
「四人と一匹でなんとかギニーデンの門を死守しなければいけません! 取り急ぎ各門に散開して、救援を待ちましょう!」
「おい、ヤジマ。一匹はまさか俺のことじゃないだろうな? いつも昼休みにお前の机から人間のいびきの様な鳴き声が聞こえてくるからお前のことか?」
「すまん、ヘル……。一匹はジーモのことなんだ。そもそもヘルのことは数えていなかった。訂正すると四人と一匹と一個な」
「無機物扱い!?」
ヤジマとヘルの軽口を聞き流しながら、カスミは冷静に呟く。
「協力する、と大口叩いたのは良いものの、戦力差は絶望的だぞ。ギニーデンの入口は東西南北に合わせて4箇所ある。4箇所すべてを固めるなんて至難の技だ。この人数では西門を死守することすら危ういんじゃないか?」
「そうですね……。いかんせんロックゴーレムを掃討するにはリソースが足りなさすぎます。増援でもない限り私達だけでいくら討伐したところで焼け石に水ですね」
カンナバルもカスミの意見に賛同した。黒い津波が迫りくる尋常でない景色を背に、皆、腕を組んで考え込む。
「ヤジマさん、救援を呼びましょう」
そういったのはカンナバルだった。救援を呼べるものなら既に呼んでいる。ヤジマはカンナバルの言葉に疑問を呈す。
「呼びたいのは山々ですが、すぐに駆けつけてくれるような知り合いなんていませんよ?」
「ヤジマさんはGMなんです。緊急クエストのフリをしてプレイヤーに招集をかけましょう! ECHO機能を使ってプレイヤー全員に、ギニーデンへ集まるように呼びかけるんです!」
「ECHO機能?」
ヤジマは聞き慣れない言葉をオウム返ししてしまった。ヘルが無知なヤジマに呆れてため息をついた。
「ECHO機能は、ニューズ・オンライン内のプレイヤーへGMが直接地声で情報伝達する機能だ。現実世界でいう地域の防災無線のようなものだな。昔はイベントの宣伝や、メンテナンス時の連絡で使ったようだが、今は電子看板で視覚化して情報伝達することがほとんど。ECHO機能はレガシー機能として残ってるだけで、ほとんど使われることはない機能だな」
なるほど、と思った。確かに緊急性があまりにも高いため、電子看板を使った通常のアナウンスでは遅すぎる。音声を使えばすぐにでも情報伝達できるし、伝えたいことをそのまま言葉にして伝えることができる。ECHOを聞いたプレイヤー達が果たして反応してくれるのかが鍵となるだろう。
「でも、プレイヤー達がギニーデンの近くにいないとすぐに駆けつけることなんてできないんじゃ……」
「それは覚悟の上です。できることは全てやってみましょう!」
「……わかりました! やってみます!」
少しでも可能性があるのであれば、今はその可能性に賭けてみるしかなかった。
※
大きな地響きと共に、ロックゴーレムの波が、ついにギニーデンへと到達する。ロックゴーレムは行先を外壁で阻害されると、外壁に沿うようにしてその波の形を変えていく。
西門はロックゴーレム1体くぐるのが精一杯の大きさである。ヤジマたちは西門の下で待ち受ける形でロックゴーレムと鉢合わせした。
ヤジマは急いでECHOを始める。
『ピンポンパンポン、皆さんこんにちは! GMのヤジマです! 今日はいかがお過ごしでしょうか? 私は――』
「枕言葉はいいから、早く本題へ!!」
カンナバルからのツッコミが入るのも当然の状況。ヤジマのすぐ横では、ロックゴーレムとの激しい戦闘が始まっていた。カスミは動きの鈍いロックゴーレムを速さで翻弄するも、決定打を欠いて西門の内側まで差し込まれている。
見かねたヤジマが、“早歩き”でロックゴーレムの背後を取り、“グーパン”を背面にお見舞いして一撃でトドメを指す。ロックゴーレムの破砕する音がECHOに入らないように踵を返す。
「ヤジマ、ナイス!」
ヤジマはカスミの礼の言葉に手を上げて答えた。カスミ以外は皆”グーパン”は初見だったため、その威力に驚愕している。
「これは完全にチート級の破壊力っすね……」
「オタゴ王宮を破壊したときの光景が思い出されました……」
ゴエモンとカンナバルは呆れ気味に呟いた。
『――失礼しました。現在ギニーデンの西門付近で、ロックゴーレムが大量発生しております。ギニーデンにお越しの際はぜひこの機会に西門までお立ち寄りください。』
「「観光案内か!?」」
すかさずヘルとカンナバルのツッコミが入る。ヤジマ自身、アナウンスなど経験がないのだ。参考にできるのが、よく耳にする観光案内くらいしか思い浮かばなかったため、似ていても仕方がない。
「ちゃんと危機的状況であることを伝えてください! ニューズ・オンラインのサービスが停止するんでしょう!?」
カンナバルの檄にヤジマは気を取り直して、ECHOを初めからやり直す。
『ニューズ・オンラインをプレイする皆さん! ゲームマスターのヤジマです! 皆さんにお願いがあります! 現在、ギニーデン周辺でロックゴーレムが大量発生しています! ロックゴーレムはギニーデンの各門からギニーデンへの侵入を試みており、早急に掃討が必要です! このままではギニーデンが陥落してしまう可能性があります! 皆でロックゴーレムを討伐し、ギニーデンの危機を救いましょう! 至急、ギニーデンの各門に向かってください!』
ヤジマは言い終えるとECHOを終了した。そうしている間にも西門には新たなロックゴーレムが流入してくる。
ヤジマは必死でロックゴーレムと対峙する皆の顔を見渡す。
「皆さん! 他の門へ散開をお願いします! カスミは南門、ヘルは東門、カンナバルさんは北門へ向かってください! 五右衛門はここに残って一緒に西門を守って欲しい!」
「久々の死線になりそうだな。流石にビビるわ」
ヤジマの指示を聞いたカスミが肩をすくめながら言った。
「増援が来るまでの辛抱です。何とか耐えましょう」
そんなカスミを見てカンナバルが慰めの言葉をかける。
ヘルは、「今日の昼飯は奢ってもらうからな」と、面倒くさそうに言った。
ゴエモンもヘルに便乗するように「俺も協力した報酬にリアルで配信するプレイ動画に今日の絵を使わせてもらいますからね!」と冗談めかしく言った。
こんな無茶ぶりにも関わらず、動いてくれる面々には感謝しかない。ヤジマは皆に向かって叫ぶ。
「それでは30分後にオタゴ王宮前で祝杯を上げましょう!」
おそらく西門が最激戦区となる予想から、西門はヤジマが受け持った。しかし、ニューズ・オンラインのサービスを停止させるわけにはいかないため、破損ファイルの修復が最優先事項だ。10分以内に増援が来なかった場合は、西門を捨ててダンジョンへ向かわなければならない。何が何でもそれだけは避けたかった。
ヤジマはロックゴーレムへ”グーパン”を食らわせながら、祈るような思いで皆を送り出した。
ここまで読了いただきありがとうございました!




