第2部 13話 ゲームマスターと作戦の行方
ダン! ダン!ダン!ドン!ドン!
エヴァに憧れ、○○作戦なるものを描いてみたかったんです…
(実際の現場はもっと静かです)
2021/06/29 改稿
◆縦浜近郊 RXシステムズ本社ビル データセンター◆
8時50分、データセンターには”ヒモ化作戦”に参加するメンバーが集結していた。メインでヒモ化作業を担当する成瀬は、サーバラックの前でコンソールを開き、ニューズ・オンラインのヘルスチェックを行っている。作業への協力を依頼された環もまた、サーバラックに張り付いていた。
今日こそ辻村の顔を拝めるかとも思ったが、辻村は本日もオンラインでの参戦。スピーカーよりいつも通り覇気のある声が飛ぶ。
「成瀬くん、環さん! ヒモ化作業開始まで後10分よ! ヘルスチェック急いで!」
「「了解です!」」
鎌田はグラフィックの差し替え、長谷部はグラフィックを含めたデータや機能のプラグイン化を担当するため、各々ノートPCを開いて待機している。山田のみ作業がないためお気楽な立場だったが、ヒモ化作業中に何かトラブルが発生した場合のために待機していた。
「ニューズ・オンライン側、準備完了です!」
「バレンタイン・オンライン側も完了です!」
成瀬と環がサーバの駆動音に負けないように大きな声で言った。
「ご苦労! 皆聞こえているかな? これからニューズ・オンライン”ヒモ化”作戦を開始します! この作戦はニューズ・オンラインの命運を握っていると言っても過言ではありません! この作戦が成功すればニューズ・オンラインは多くのユーザを獲得できるチャンスがあります! 何としても作戦を成功させ、皆で祝杯を上げましょう!」
「はいっ」と、緊張感のある声で皆が一斉に返事をした。
「それでは作業開始! サーバ起動!」
環が辻村の指示に呼応するかのようにコンソールを叩く。
「サーバ電源ON――5、10、15、20台、全てのサーバに電源入りました! OS起動中――20、50、80、100%! バレンタイン・オンライン、サービス展開開始――全てのサービスが正常に展開完了しました!」
環は、いつもの抑揚のない声とは異なる凛々しい声で作業の完了を伝えた。完了報告を受け、辻村が次の指示を出す。
「了解! 次は成瀬くん! セカンダリイメージの作成に取りかかって!」
「ニューズ・オンラインのセカンダリイメージ作成開始――30、60、90%、完了! 同時にプライマリとの同期処理も正常に開始しています!」
成瀬の作業も問題なく完了する。辻村は息つく間もなく次の指示を出す。
「長谷部くん! セカンダリイメージを基にプラグイン化をよろしく! 鎌田さんはセカンダリイメージへのグラフィックのアップロードを開始して!」
「「了解!」」
辻村のリーダーシップにより順調に作業が進行していく。環との連携も即席とは思えないほどのチームワークだった。各々癖の強いメンバーであるにも関わらず、これほどまでに一つのチームとしてまとめ上げる力は、このチームを長く引っ張ってきた辻村の経験が成せる技だろう。
「プラグイン化完了でーす」
「グラフィックのアップロードも終わりましたよ」
長谷部と鎌田が作業完了を報告する。
「了解、いよいよね……」
後はプラグイン化したセカンダリイメージを、環から譲ってもらった機器へ移動すれば作業完了となる。山田は固唾を呑んで作業の行方を見守る。
「セカンダリイメージの移動開始!」
辻村が叫ぶと同時に、成瀬がコンソールを操作する。
「セカンダリイメージの移動開始――20、40、60……ん? 60%から進捗が進まない!?」
山田が成瀬のコンソールを覗き込むと、進捗ゲージが固まった状態で動かなくなっていた。メンバー全員が天を仰ぐ。何事もなく終わるように思えたヒモ化作業は、佳境を迎えたところで躓いてしまった。
「原因の特定、急いで!」
辻村の檄が飛ぶのと同時に、成瀬と環がコンソールの画面を食い入るようにして見つめる。少しすると環が顔を上げて成瀬の方を見た。
「バレンタイン・オンライン側には、特に異常は見つからないなあ。何かが引っかかっているような動きに見えるけど?」
「ちょっと待ってください――グラフィックの中にどうやら破損ファイルがあるようです……。破損ファイルを移動できずに糞詰まっている状態です……」
皆が一斉に鎌田の方を見る。
「濡れ衣だよー。一応調べるけどさ……」
鎌田が酸っぱいものでも食べたような顔をしながら、膝の上のノートPCをカタカタと操作する。
「なんだこれ……? 確かに破損があるな。ギニーデン西のダンジョンのグラフィックが破損しているみたいだな……」
ギニーデン西のダンジョンと言えば、山田が昨日カスミやカンナバルたちと初心者支援を行った場所である。山田は昨日の記憶を辿っていく。
「――ああああああああ!!!!」
皆が首を傾げる中、山田は素っ頓狂な声を上げてしまった。皆の視線が山田の方へと集まる。
山田はショートカットのためにシステムコマンドを使ってダンジョンに光の通路を作ったことを思い出す。その後、リスポーンしたため、ダンジョンを元に戻していない。山田は恐る恐る鎌田に尋ねる。
「ダンジョンにシステムコマンド使って穴を開けたんですけど、それってファイル破損を引き起こす可能性ありますかね……?」
「……うん、破損するね。山田ぁあああ!! お前はまた壊したのかぁあああ!?」
鎌田の顔が鬼の形相に変化し、山田に掴みかかる。般若のお面でも被っているかのような形相であった。成瀬と長谷部が鎌田の背後から羽交い締めにしてなんとか取り抑える。
「あいつ! あいつ! オタゴ王宮だけでは飽き足らず、ダンジョンにまで手を出しやがって! 許さんんんんんん!!」
「すいません、鎌田さん。わざとじゃないんです……。時短のために一時的に穴を開けるつもりだったのですが、リスポーンしてしまって……」
「時短のためだぁあああ!? 俺がダンジョン作るのにかけた時間はどうなるんだぁあああ!?」
山田は謝罪を繰り返すも、鎌田が収まる気配はない。
「やめなさい!!」
スピーカーから大音量で辻村の声が響き渡った。一瞬の静粛の後、辻村は冷静に話し始める。
「成瀬くん、このまま糞詰まった状態が続くとどうなるの?」
「セカンダリイメージの移動操作が1時間でタイムアウトします。タイムアウトすると自動的にシステムシャットダウンがかかるので、ニューズ・オンラインのサービスが停止します……」
辻村がため息をついた。
「絶体絶命ね。タイムアウトを回避するための案は?」
「破損ファイルを修復するしかないですね……。ただ、サービスは動いている状態なので、外部からの修復作業はできません。ニューズ・オンラインにログインして直接行う必要があります」
辻村は考え込んでいるのか、無言のままで成瀬の言葉への返答はなかった。少し間を置いてから静粛を破って話し始める。
「山田くん、出番よ。今から修復作業に取りかかれば充分間に合うはずよ! 制限時間は一時間! それまでに必ず戻ってくること!」
失敗したらサービス停止。失敗の許されない責任の重い任務を任されてしまい、胃がキリキリと痛んでくる。そんな山田を見かねたのか、成瀬が辻村に提案する。
「山田だけでは心配なので、俺も行ってきます。山田はニューズ・オンライン初心者なので判断できないこともあるかもしれません……」
辻村は少し考え込み、案を了承する。意外な成瀬の優しさに山田は不意を突かれる形となった。
後一時間で戻ってくるということは、ニューズ・オンラインの滞在時間は30分程度だろう。その短い間に破損ファイルの修復を行わないとならない。油を売っている暇はなかった。限りなく迅速に対処する必要がある。
「二人とも頼んだわよ!」
辻村からの激励を受け、山田と成瀬はダイブ室へと走った。
ここまで読了いただき、ありがとうございました!




