第2部 6話 ゲームマスターとニューズ・オンラインの魅力
実地調査のためにMMORPGやってみようかと思ったり……
でも時間がたりんのだよなあ……
2021/06/29 改稿
◆ニューズ・オンライン ギニーデン 西門◆
「ホンッッットにごめんなさい!!」
ヤジマはパーティーの面々に向かって叫んだ。ロックゴーレムの攻撃をもろにくらい、ダンジョンからギニーデンのオタゴ王宮跡前に戻ってきた。再度ダンジョンに向かおうと、西門まで来たところで戻ってきたカスミ達に出くわす格好となった。
カスミが恐る恐るといった面持ちで尋ねてくる。
「ヤジマ……ステータス下げてたみたいだけど、いくつにしたんだ?」
「え? ニューズ・オンラインに初めてログインしたときのステータスに変えたんだけど……」
「初期値!? それはないぞ! せめてレベル5程度のステータスにしないと……」
カスミが天を仰いだ。カンナバルが申し訳なさそうに謝る。
「すみません、私がもう少し詳しく説明していれば……」
「いやいや、ヤジマがGMの癖に無知すぎるんだよ。しかも、あの動きはないぞ? ロックゴーレムの足の下で行ったり来たりしてるから、盆踊りでも踊ってるのかと思ったわ」
カスミが呆れながら言った。カスミの言う通り、ヤジマとしても情けないほど呆気なくゲームオーバーとなった。ヤジマ自身のステータスに慣れていなかったということもあるが、今までどれだけ高いステータスに助けられていたのか理解できた。初心者プレイヤーはこんなにも難しいアバターの操作を求められていたのかと思うと、頭が下がる思いだった。
ゴエモンがクスクスと笑いながら、ヤジマに話しかける。
「GMさんがリスポーンするゲームなんて見たことないっす! GMでも一般のプレイヤーと同じようにリスポーンするんすね! びっくりっす!」
「リ、リスポーン?」
聞きなれぬ言葉にカンナバルが横から説明を加える。
「HPステータスが0になると、プレイヤーは死亡したことになります。死亡すると直近で出発した街にデスペナルティ付きで送り返されるんです。これをリスポーンと言います」
「GMさん、そんなことも知らないんすか!?」
「うぅ……。痛いところを突くね……」
おかしそうに話すゴエモンに対して、ヤジマは冗談めかしく胸を押さえる。
「ところで、カンナバルさん。ロックゴーレムは討伐できたんですか?」
「できましたよ、カスミさんがトドメを刺しました」
「お陰様で謎のスキルを習得したよ」
カスミはそう言うと、目の前の空きスペース目がけて詠唱を開始する。
「ライズロックス!」
目の前の地面が隆起し、小机程度の大きさの岩が現れた。
「消費MP少ないからアサシンの私でも使えるけど、使用用途を教えてほしいわ」
ヤジマは頭に真っ先に思い浮かんだ使用用途を口にする。
「高いところに置いてある物を取るのに便利そう……」
「バカ! 椅子とか使うわ! というかニューズ・オンラインにそんなシチュエーションある!?」
カンナバルがカスミとヤジマのコントのようなやり取りを見て微笑んだ。
「まあ、初心者支援の目的は果たせたかと思うので、良いのでは? 皆さんいかがでしたか?」
カンナバルが背後にいる初心者プレイヤーたちに尋ねると、みな嬉々として答える。
『楽しかったです! 戦闘は迫力満点でした!』
『いろいろとVRMMOやってきたけど、ここまで迫力のあるVRMMOは初めてでした!』
皆の意外な感想にヤジマは不意打ちにあったような気分だった。カンナバルはヤジマの驚いている様子を見て説明する。
「ロックゴーレムのグラフィックは芸術レベルなんですよ。ここまでレベルの高いグラフィックは、その他のVRMMOには中々ありません。さらに、これだけ高密度のグラフィックを処理すると通常は物理的な動作が重くなったりしますが、戦闘中に激しい動作を行っても重くなりません。これがニューズ・オンラインの強みですよ」
ヤジマはカンナバルの説明を聞いて驚嘆した。
初心者支援の目的は、慣れない初心者プレイヤーたちにプレイ方法を教えること、そして、レベルを上げて独り立ちさせることだと考えていた。しかし、最も重要な目的は、ニューズ・オンラインの魅力を伝えるということだったのだ。全くもって考えもしなかった。
初心者プレイヤーたちの喜ぶ姿を見て、カンナバルが目的を果たせたといった意味がようやく理解できた。ロックゴーレムの討伐を体験し、ニューズ・オンラインの魅力に触れることができて満足したのだ。これこそが今のニューズ・オンラインに必要なことである。カンナバルは、嬉々とする初心者プレイヤーの背後で何か言いたそうにしているゴエモンへ意地悪く感想を求める。
「先ほどまでは最悪、と言っていたゴエモンさんの評価はいかがですか?」
「まあ、悪くなかったっす……」
ゴエモンはバツが悪そうに伏し目がちに呟いた。ヤジマはゴエモンの手を握りしめてお礼を言う。
「ありがとう、ゴエモン! そう言ってくれてうれしいよ!」
「い、いや、どういたしまして?」
ゴエモンの感想はヤジマに勇気を与えるものだった。初心者支援こそがニューズ・オンラインの活路となる可能性があると感じた。
「カンナバルさん、今日はとても参考になりました。今日ご一緒させていただいて、初心者支援の重要性を痛感しました。今までは個人間での初心者支援しかなかったかと思いますが、初心者支援の仕組みをGM側で作れないか考えてみたいと思います」
「初心者支援をニューズ・オンラインの運営側で行うということですか……。なるほど、それはいい考えですね。運営側での初心者支援がうまく機能すれば、ニューズ・オンラインの魅力がより多くのプレイヤーに伝わるかもしれませんね……」
「へー運営側で初心者支援かあ。初心者はいいなあ……。初心者を支援をした中堅プレイヤーにも見返りがあったりしねえかなあ」
カスミが口を尖らせながら言った。それを聞いたヤジマが苦笑する。
「例えば、初心者支援を行ってるパーティーメンバー全員に報酬がある、とかそういうこと?」
「お、“経験値ブースト”とかか? いいな、それ!」
「“経験値ブースト”?」
ヤジマは首を傾げる。
「“経験値ブースト”はある条件を満たした場合にモンスターを討伐したときの経験値が増加するイベントのことを指します。例えば、十五夜の日に月見団子を使った状態でモンスター討伐を行うと経験値が2倍となる、といった感じですね」
――“経験値ブースト”を使うことで中堅プレイヤーたちからより多くの協力が得られるかもしれない
カンナバルの説明に、ヤジマは一筋の光明を見た気がした。
「なるほど……。初心者支援を行っているパーティーに“経験値ブースト”……参考になりました! ちょっと考えてみます!」
「ヤジマさんだけで大丈夫ですか? 私たちも手伝いましょうか?」
カスミやゴエモンも興味津々といった風に話に耳を傾けている。カンナバルの提案は本当にありがたいことだった。チーム・ニューズに手伝ってくれそうな人がいない中、カンナバルらと初心者支援の草案を作成すれば、さらにいいものができることは間違いない。
しかし、本当に手伝ってもらうことが正解なのだろうか。カンナバルらはプレイヤーであり、お金を払ってゲームを楽しむ側の人間である。対して、ヤジマはお金をもらって業務としてプレイヤーを楽しませる側の人間である。完全に立場が違うのだ。
そんな彼らに業務まがいのことをさせてしまって良いはずもない。ヤジマには草案作りに協力してもらうことは厚かましいように思えてならなかった。ヤジマはヤジマは申し訳ない気持ちと共にカンナバルへ断りを入れる。
「お心遣いありがとうございます。でも大丈夫です。なんとか私だけの力でやってみます!」
「そうですか……。がんばってください! 応援しています!」
カンナバルは少し残念そうな顔をしたものの、これ以上ごり押しすることはなかった。
ヤジマは、今回カンナバルの初心者支援を体験して3つの目的を理解した。
①基本的な戦闘方法を伝授する
②経験値取得を支援し、レベルアップを促進する
③ニューズ・オンラインの魅力を伝える
これで何とか辻村にユーザー数を増やす提案ができそうだ――ヤジマには”初心者支援”がニューズ・オンラインのかすかな光に思えてならなかった。
ここまで読了いただき、ありがとうございました!




