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第2部 4話 ゲームマスターと出張

問題:ゲームマスターが「通常のプレイヤーではできない優越的な行為」を行うことを「チート」と呼ぶのか?


2021/05/17 改稿

◆ニューズ・オンライン ギニーデン 西門◆



 ヤジマ達はダンジョンへ向かう途中、ギニーデンの西門に差し掛かった。


 西門は城下街をぐるっと囲む外壁の東西南北にある計四箇所の門のうちの一つである。門は高さが20メートルほどある外壁をアーチ状にくり抜いたような形になっている。西門のアーチを通過中に見上げてみると、時を経てくすんだ石造りの天井が見える。


 ギニーデンの西門まで来たのはいいものの、今日中にユーザー数を増やす良案を提出するように(あお)る辻村の言葉を思い出す。この初心者支援を視察することによって良案の取っ掛かりとなりそうな気配はある。しかし、いかんせん残された時間があまりに短すぎだ。自席で案をまとめる時間を考慮すると、視察できる時間は長くても後一時間程度だろう。


「カンナバルさん、初心者支援って、いつもどのくらい時間を使ってます?」

「だいたい三時間くらいでしょうか」

「そうですよねー。あと一時間くらいで終わらせることってできませんか? 一時間後にリアルの方で用事がありまして……」

「難しいですね。ゴエモンくんたちと一緒なのでダンジョンまで行って帰ってくるのだけでも一時間くらいかかりますからね……」


 ヤジマは下唇をかむ。ヤジマだけであれば、「早歩き」を使えば、行って帰るのに15分もかからないだろう。しかし、今はパーティーを組んでいるため、「早歩き」を使うわけにもいかない。だからといってここで折角(つか)んだ手がかりを手放すわけにもいかない。困ったときは「強力な支援者」に相談してみるしかない。


「ジーモ、いる?」

「何だナ?」


 ヤジマの横にジーモの姿が煙のように現れる。初心者プレイヤーの一人が思わず叫んだ。


「おばけ!?」

「おばけとは失礼ナ、ジーモナ!」


 西門のアーチ内は光が(さえぎ)られた暗がりのため、ジーモの白い体は際立って見え、おばけを連想させる。登場の仕方も、おばけさながらであった。ヤジマは皆にジーモを紹介する。


「ジーモはGMOと言って、GMを補佐するAIなんだ」

「そうなの!? 幻獣だと思ってた……。だから戦闘中に何もしないのか……」


 カスミがポンッと手を叩き、()に落ちた様子で言った。


「何もしないとは失礼ナ! ジーモは24時間365日仕事中ナ!」


 ジーモの体が赤く染まり始める。どうやら怒っているらしい。ヤジマはジーモを「まあまあ」と(なだ)めながら本題へと移った。


「ジーモ、西部にある遺跡型のダンジョンに行きたいんだけど、早く行く方法はないかな?」

「通常のプレイ方法では存在しないナ」

「”通常”というと、イレギュラーであればできる?」

「できるナ。例えば、近場の扉の移動先を設定変更してダンジョン近くの扉に変更するナ。そうすれば、扉を通るだけでダンジョンの近くに移動できるナ」


 なるほど、とヤジマは納得する。つまりはGM権限を行使して、一般プレイヤーでは変更できない設定を変更してしまおうということであった。


 ヤジマはアーチ下のすみっこにあった目立たない木製の扉に目をつけた。通常であれば、外壁上に登るための内階段に繋がる扉だろう。扉を指差しながらジーモに依頼する。


「ジーモ、あの扉をダンジョンの近くに繋げてくれない?」

「了解ナ」


 扉の目の前に青い光で彩られた紋章が現れ、一瞬で扉に吸い込まれた。扉の見た目は設定変更前のこげ茶色の木製のままで、一切変わってない。


「完了ナ」

「ジーモ、ありがとう!」


 後方でヤジマとジーモのやり取りを見ていたパーティーの面々は、口をあんぐりと開けて唖然(あぜん)としている。眉間を()まんで呆れているカンナバルに向かってカスミが(つぶや)く。


「扉の行き先って変えられるだな……。まるで“どこでもドア”みたいだわ」

「GM権限でドアの設定を変更したようですね。驚きました……」


 カスミが扉を開くと中には木の生い茂る森が広がっていた。建物の内部が見えるはずなのに屋外の景色が見えるため、ドア枠はあたかもスクリーンのように見える。カスミは(いぶか)しげに扉を指差しながら(ささや)く。


「こんなことしていいんだっけ!?」


 ヤジマはカスミからの指摘にきょとんとする。


「え? なんでダメなの?」

「だって一般のプレイヤーができないことをするってことは、チートじゃん!」


 カスミの言い分に対して、カンナバルが眉間にシワを寄せながなも、ヤジマをフォローする。


「まあ、GM自ら設定変更してるのでチートではなさそうですが……」

「ヤジマを(かば)うの、カンナバルさん!?」


 カスミのチートに対する過敏な反応を見て、ヤジマはポリポリと頭をかきながら問いかける。


「じゃあカスミ、チートってなんだと思う?」


 カスミが「うーん」と腕組みしながら考え込んでいるのを横目に、カンナバルが助け舟を出す。


「一言でいえば、”不正な手段を用いて通常のプレイヤーではできない優越的な行為をすること”ですかね」


 カンナバルの言葉にヤジマは(うなず)く。


「その通り! まず、”不正な手段”という点だけど、一般のプレイヤーは規約違反をしたら不正と判断される。でも、ニューズ・オンラインの規約にはGMの行動に対する制限事項は存在しない」

「ほう……。つまり当人の良識に一任されていると?」

「まさしく! 良識という面では、現実世界と照らし合わせれば自ずと答えは出てくるかと。今回の場合は新幹線を利用した出張と同じだ!」

「「出張!?」」


 カンナバルとカスミが素っ頓狂(すっとんきょう)な声を上げた。


「例えば仕事で東京から名古屋まで行くときに、在来線を使うか?」

「……まあ、使わないな」


 カスミがボソリと答えた。


「そう! 新幹線のような早く行く手段があるのに使わない手はないよね?」

「まあ、そうだな」


 カスミが再度(うなず)く。


「今回も同じことだよ。僕は業務中だからどこかに出かけるとしたら出張扱い。出張は最短ルートで目的地へ向かうことが求められる。僕はそのための手段を作っただけってことだ。現実世界で言えば、新幹線の切符を買ったようなものかな」


「な、なるほど……」


 カスミがしみじみと(つぶや)いた。確かに、カスミの戸惑いも(もっと)もな話ではあった。ゲームマスターはニューズ・オンラインの神と言っても過言ではない。神は無闇やたらに手を出すなと言う人もいるかもしれない。


 しかし、ヤジマにとってはこれは“視察”業務であるため、業務効率を優先して良いはずである。辻村からも「手段は選ぶな」と仰せつかっている。結果さえ出れば文句は言わないだろう。ヤジマは扉に手をかけながら皆に言う。


「時間もあまりないので、先を急ぎましょう!」


 カンナバルの言葉を借りると、「不正な手段を用いて通常のプレイヤーではできない優越的な行為をすること」をチートと呼ぶ。しかし、ヤジマはGMであり、通常のプレイヤーとは一線を(かく)すべきである。これは断じて「チート」などというものではない。れっきとした「業務」だ。


解:否。ゲームマスターが「通常のプレイヤーではできない優越的な行為」を行うことは「業務」である。


ここまで読了いただき、ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
なるほど。 確かに。 でも心情的にはどう映るかな?
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