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第2部 2話 ゲームマスターとオアシス

羊羹、まんじゅう、アイス、バームクーヘン、シュークリームなどの甘いものとブラックコーヒーが大好きです。

味覚が小学生と言われます。ブラックコーヒー好きの小学生!


2021/05/17 改稿

◆縦浜近郊 RXシステムズ本社ビル カフェテリア・オアシス◆



 山田はカフェテリア「オアシス」の隅っこのカウンターに陣取り、頭を抱えていた。文字通り、カウンターの上に突っ伏し、周囲から見れば、病んでるな、と一発でわかってしまう抱え方である。山田には周りの状況を気にしている余裕はなかった。


 鎌田と成瀬の二人と会話した結果は、散々たるものだった。二人の言い分はわかるものの、グラフィックの改善のために何をすべきかという話が全くできなかった。


 結局のところ、「ユーザ数が増えない」→「お金がない」→「インフラを増強できない」→「グラフィックが改善しない」→「ユーザ数が増えない」→……という無限ループに陥っている。鎌田と成瀬の間で板挟みとなり、どうにも抜けられそうになかった。


 後二ヶ月でニューズ・オンラインのサービスが停止してしまうにもかかわらず、二人とも改善には非協力的である。本気でサービスを継続したいとは考えていないようにすら思える。


 しかし、まずは目先の課題である。辻村へどんなユーザーを増やす策を提案するかだ。グラフィック改善の件は外して、別の案を考えるしかない。だが、提案のためのアイディアも時間も不足している。しかも、誰の助けも得られない状況である。一人でなんとかするしかない。


 山田が両手の拳を握りしめ、机をドンッと叩く。周囲から小声でコソコソと話す声が聞こえ、床に椅子が引きづられる耳障りな音が響く。食器を片付ける雑音が重なり合い、山田の苛立ちに拍車をかけた。その時、誰かが山田の席の隣に、静かに食器トレーを置いた。


 なぜこんな広い店内で狭いカウンター、しかも山田の隣に席を取るのだろうと(わずら)わしく感じた。横にジロッと目を向けると、そこには黒髪の美人さんが羊羹(ようかん)(くわ)えながらこちらを見ていた。


「ほほふわっへも、いい?」

「は、は、はははい!」


 羊羹(ようかん)(くわ)えているせいではっきりと言えていないものの、その意図は明白だった。山田は飛び起き、上ずった声で返事をした。返事をした際に、その美人さんの顔をまじまじと観察する。


(うわあ、顔小さ!)


 顔が山田の半分くらいではないかと思うほど小さく、くりんとした大きな目がキュートだった。顔は可愛い系ではあるものの身長は高い。思わず上から下まで()め回すように見てしまう。


 白のブラウスに黒のロングスカート、黒のパンプスといった、地味めで体の線が出づらい服装だった。しかし、その細さは明白で、清潔感のある雰囲気が山田のどストライクだった。


 その美人さんは山田の粘着質な視線を気にする素振りも見せず、隣に着席する。トレーにはホットコーヒーと、「羊羹(ようかん)(れん)・タピオカ味」なる味が想像できない和菓子が置かれていた。山田の視線が美人さんの顔と羊羹(ようかん)を行ったり来たりしていると、美人さんはトレーの上にあった羊羹(ようかん)を山田に差し出す。


「君も食べる?」


 美人さんの問いに、何が正解かわからず、一旦フリーズする。固まったままの山田を見かねて、美人さんが山田の目の前に羊羹(ようかん)をぶら下げる。


「い、いただきます!」


 山田は美人さんと手が触れ合わないように気をつけながら、羊羹(ようかん)を受け取った。包装を()くのに手間取りながらも羊羹(ようかん)を口にする。味より美人さんのことが気になってしまい、隣をチラチラ見てしまう。何を話せばいいか分からずに黙々と食べた。


「お、おいしいですね!」


 無論、緊張からか味など全く分からなかったが、話題が見つからず感想をシンプルに述べた。


「でしょう? 私、羊羹(ようかん)とコーヒーの組み合わせが好きなんだあ」


 美人さんが羊羹(ようかん)を口にした後にコーヒーをすすり、満足そうにため息をつく。


「このルーティーン無限に繰り返せる……。君、名前は?」

「ち、チーム・ニューズの山田です!」

「あぁ、あのこじんまりとした……。私はチーム・バレンタインの(たまき)です。よろしくねえ」


 「こじんまりとした」に悪意は感じなかったものの、チーム・ニューズは社内的にそういった印象であることを自覚してしまう。また、チーム・バレンタインというと我が社の花形タイトルである「バレンタイン・オンライン」を管理する部署である。ユーザ数はVRMMO業界全体で見ても常にトップ10圏内。ニューズ・オンラインが目指す位置で快走を続けているのがバレンタイン・オンラインである。オフィスもチーム・ニューズのオフィスとエレベータを挟んで反対側にあり、嫌でも意識せざるを得ない。


「よろしくお願いします……」


 格の差を見せつけられる形となり、山田は体を小さくする。環はそんな山田のライバル意識には気づくわけもなく、山田をまじまじと見つめる。


「君があまりにもドラマチックに机を叩くものだから、何があったのか気になっちゃった」


 山田は顔を真赤にし、自分の行いを恥じた。膝の上に手を置いて拳を握りしめる。汗で手の中がじんわりと湿っていくのがわかった。


「いや、大したことじゃないです……」

「そう? だいぶ熱こもってたけど? 熱意がある人は好きだよお。そういう人見てると助けてあげたくなっちゃうの」


 環はそう言うと、山田の方を見てウインクする。山田は環のウインクに胸を撃ち抜かれた。微笑を浮かべたまま、片目の(まぶた)だけが動く完璧なウインク。呼吸をするように自然な動作であった。


 山田は環と目を合わせているのが(こらえ)えられず、目を()らして(うつむ)いてしまう。


(俺のバカ……)


 山田が恥ずかしがっていることが環にバレ、不審に思われないかヒヤヒヤする。環ともっとちゃんとした話がしたいのに何を話していいのか分からない。山田の不出来なところを見せるようで、仕事がうまくいっていないことを話す気にはなれなかった。


『GMコール通知ナ、GMコール通知ナ』


 突然スマホからジーモの声が聞こえた。ニューズ・オンラインのプレイヤーがGMコールを行ったようだった。GMコールがあったら、山田のスマホに通知するようにジーモにお願いしていた。山田はスマホの通知内容を確認する。


『GMコール通知ナ、アバター名”カスミ”よりGMコールナ』


 カスミからということは、また何かあったのだろうか。GMコールには迅速に対応しようと決めたものの、だからといって気乗りするものではない。しかもこんな切羽詰まっているときに限って凶報は届くのだった。山田はスマホの画面を見ながらため息をつく。一連の様子をじっと見ていた環が思わず言葉を漏らした。


「驚いた……。君、GMなんだね」

「そうですけど、なぜですか?」

「ううん、気にしないで。急ぎでしょ?」


 環に(うなが)されるようにして、山田は(うなず)き席を立つ。


羊羹(ようかん)ごちそうさまでした。その……」

「またごちそうするよお」


 環が山田にニコっと笑って手を振る。山田は環の笑顔を見て、思わず舞い上がってしまった。ウインクといい、笑顔といい環の何気ない仕草の破壊力は驚異的だった。


 山田は照れながらも環に向かって手を振り返す。こんなときにGMコールをしてくるカスミを恨んだ。後ろ髪を引かれる思いで、山田はカフェを後にした。

ここまで読了いただき、ありがとうございました!

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