第1部 エピローグ このクソゲーをよろしく
第一部完結です!!ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます!
2021/05/17 改稿
◆ニューズ・オンライン ギニーデン オタゴ王宮前◆
雪が止み、雲の境目から太陽が覗き始める。人の掃けた王宮の門前は、太陽の白い光を浴びた雪の絨毯が、キラキラと煌めいていた。
ヤジマは辺りを見回し、カスミの姿を探す。許しては貰えないかもしれない。しかし、カスミが教えてくれた、対話することを諦めない姿勢。このことまで疎かにするわけにはいかなかった。王宮から南へと走る大通りに、見覚えのある後ろ姿を見かける。ヤジマは後を追いかけ、謝罪の言葉を投げかける。
「カスミ! ごめん!」
カスミはヤジマの謝罪の声を聞き、立ち止まった。カスミは振り返り、興味がなさそうにヤシマの言葉の続きを待つ。
「謝って許される問題じゃないかもしれない……。でも俺がGMだってこと、隠しててごめん!」
「ヤジマがGMだったとはね……。呼び出したい相手が自分の目の前にずっといたっていうのに、私はマヌケもいいところね。私が必死にGMを呼ぶ姿を見て、あざ笑っていたんでしょう!?」
カスミの言葉がヤジマに重くのしかかってくる。覚悟はしていたものの、実際に批判を甘んじて受けることになると辛いものがあった。
カスミはヤジマの落ち込む顔を見て、口角を少し上げて笑った。
「――でも、私の意見初めて聞いてくれたね」
「え?」
予想外の言葉に、ヤジマは思わず聞き返してしまった。
「GMって今まで一度も私達プレイヤーの意見を聞いてくれたことなんてなかったでしょ?」
「うん……。でも皆が望む形では解決できなかったよ」
「それは重要じゃないの。私達は声が届いてるとわかれば半分は納得するのよ。GMが私達と対話してくれること、これこそ重要なことなの。だから今回はGMとしてはよくやったと思うよ。私を騙したのは抜きにして……その罪は身をもって償いなさい!」
カスミがヤジマを鋭い目つきで睨む。完全に人殺しの目だった。ヤジマは冷や汗をかきながら謝る。
「スマン……」
ヤジマは辻村が言った言葉を思い出していた。
――GMはゲームの顔として、ユーザの満足のために誠心誠意を尽くすべきだわ
聞いたときはしっくり来なかったものの、身を持って体験した今、その重要性は言うまでもなかった。そして誠意を尽くすということは、対話することを諦めないことだと知った。カスミはヤジマの怯えた反応に満足したのか、ニカッと笑い、胸の内を打ち明ける。
「それにね私、思い出したの……。なんでニューズ・オンラインをプレイしているのか。オタゴ王宮に雪が積もって光り輝く姿、私がニューズ・オンラインを始めた日に見た光景だった……。私はそれに感動しちゃって、また感動するほどの綺麗な景色が見たいって思った。だからニューズ・オンラインをプレイしてたんだよ。でも長くプレイしていくと段々皆から注目されるようになって、私もまんざらでもなくなってきた。そしていつの間にか目的がすり替わってトッププレイヤーとして皆から注目されるためにプレイしてた」
「じゃあ、アバターを凍結されたことは――」
「うん! もう気にしないことにした!」
カスミの目が真っ直ぐにヤジマを捉え、そして叫んだ。
「私には周囲からの注目なんて関係ない。また素晴らしい景色が見たい、それだけなんだ! だから私はこれからもこのクソゲーを続けるよ!」
ヤジマはカスミの屈託のない笑顔を見て、GMに就任して良かったと心の底から思った。
「ありがとう」
ヤジマはニューズ・オンラインの顔として、無意識的にお礼の言葉を口ずさんでいた。
◆縦浜近郊 RXシステムズ本社ビル チーム・ニューズオフィス◆
山田はログアウトすると、事の顛末をチーム・ニューズのメンバーに話した。オタゴ王宮を破壊したことについては、辻村から大目玉かと思いきや、立腹したのは意外にも鎌田だった。
「山田くん! オタゴ王宮を破壊なんて信じられない……酷すぎるよ!」
「す、すいません……」
鎌田の顔が怒りで赤く染まり、ドワーフ顔がオーガ顔に変わっていく。
「どれだけ拘って作った物なのか、君にはわからないだろう!」
「い、いや鎌田さんの拘りはわかってるつもりです!」
「じゃあなんで壊すんだ! 汎用品じゃないんだぞ! 製作に一週間はかかったのに……」
鎌田のオーガ顔がしわくちゃの泣き顔に変わっていく。
「ユーザに信頼してもらうためにはこれしかなかったんです……すみませんでした!」
鎌田は机に伏せたまま泣き始め、起き上がろうとしない。焦った山田が鎌田を励まそうとする。
「でも、オタゴ王宮のクオリティが高いのは本音ですよ! そのビジュアルに感動してニューズ・オンラインを続けてる人もいるくらいですからね」
「ほ、本当?」
鎌田が顔を上げ、泣き顔がみるみる仏の顔に変わっていく。まるでお面を取り替えているような七変化である。
「そんな人がいるんだ! やっぱりわかる人には伝わるものだね〜」
「そうですよ! さすが鎌田さん!」
ハラハラしながらも山田は鎌田の太鼓を持った。その茶番を終わらせるように、辻村が押し殺すような声色でPCから口を挟む。
「山田くんがまた勝手な行動をしてオタゴ王宮を破壊したのは許せませんが……。ニューズ・オンラインのレビューを見て……!」
鎌田がPCでニューズのレビューを検索する。先程まで8点だったレビュー結果が20点まで上がっていた。辻村の喜びが爆発する。
「やったぁあああ! 20点超えなんていつ以来かしら!!」
山田がすかさず反応する。
「え? なんで上がったんですかね!?」
「そりゃ、雪下野菜作戦のお陰でしょう! 大成功ね! 良案を出してくれた成瀬くんを始め、皆特急対応ありがとう!」
成瀬が照れながらもまんざらでもなさそうに自席でふんぞり返っている。辻村が嬉しそうに言葉を続ける。
「と・く・に! 山田くん、レビューのコメント見てごらん?」
チーム・ニューズのメンバーが食い入るように鎌田のPCの画面を覗き込む。鎌田がレビューのコメントを開き、皆その中身に釘付けになった。
『破壊神サイコー』
『GMの対応が神』
『雪害の対応にGMの誠意を感じました』
山田は思わず成瀬と顔を見合わせてしまった。鎌田が興奮したようにレビューのコメントを次々に開いていく。
「山田くん、今回の対応が絶賛されてるよ!」
辻村も山田へ称賛を送る。
「ユーザに誠意を尽くすということ、一朝一夕でできるものではないわ……。しかも今日GMになったばかりなのに……。天性のGMの素質があるのか!?」
山田は、はにかみ笑いながらコメントを隈なく見ていく。その中で気になる一文を見つけた。
『このクソゲーをよろしく』
どこの誰かわからないが、山田と同じようにニューズ・オンラインをクソゲーだと思っている人がいるようだ。しかし、この一文からはニューズ・オンラインへの愛を感じた。
ニューズ・オンラインは確かにクソゲーだ。でもクソゲーだからといって嫌いな人ばかりでもない。クソゲーにはクソゲーなりのいいところがあるということだ。少なくとも、二人はニューズ・オンラインが好きになったのだ。それで今は充分だった。
「改めて、ニューズ・オンラインをよろしくね! 山田GM!」
「はいっ!」
山田は先程とは異なり、張り切って大きな声で返事をした。山田はこれからもしばらく、このクソゲーに付き合ってみるつもりになっていた。
ここまで読了いただき、ありがとうございました!
これで第一部完結です。
率直なご意見、ご感想をいただけますと、作者冥利に尽きます。
もしTakeASeatを応援したい気持ちが少しでもありましたら、評価、ブックマークへの登録をお願いします!
今後ともご声援の程、よろしくお願いいたします!




