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第九話 犂の欠陥

 収穫作業も全て終わり、時は八月頃、まさに暑い時期だった。麦に関しては十月に種蒔(たねま)きするので、それまでは何もしなくて良い、とマキシミリアンは言った。しかし哲郎はそれに疑問を覚えた。哲郎の考えが間違っていなければ、耕し方に一つ問題点がある筈なのだ。

 そこで哲郎は、マキシミリアンに畑を耕す方法を訊ねた。マキシミリアンは家の裏にある(すき)を見せてくれた。


 「これは……」


 哲郎はやはりそうかと納得した。

 どういうことかと言うと、マキシミリアンの使っていた犂、もっと言うならこの領内で使われていた犂は、牛にそのまま引きずらせるタイプの、無輪犂と呼ばれるものだったのだ。これではよく耕せない訳である。


 「マキシミリアンさん、この犂はあまり効率が良くないですよ」


 「効率が悪い?そんな馬鹿な」


 「いいえ、これを引くのは大変でしょう」


 確かに、とマキシミリアンは口の中で(つぶや)いた。


 「車輪を付けてはどうでしょう」


 「車輪……?」


 「荷車のようにするんですよ」


 「ああ、そういう事か」


 マキシミリアンは納得した。しかし、哲郎はすでに別のことを考えていた。


 「組み立てるための釘などはどうすれば……」


 「木と木を組み合わせるんだろ?職人に頼めば何とかなる筈だ」


 成る程、と哲郎は思った。さすがは連帯感の強い人たちだ。


 「家族にもこの事は言わんとな……」


 「はい」と哲郎は答えた。少なくとも今は家族にはこのことは言っておいた方が良い。二人はさっそくその日のうちに家族に話した。ハンナ、ハンスともに賛成した。もっとも、たぶん父親がそう言っているから、というのが主な理由であろう。

 翌日は賦役があるから、という理由で翌々日に職人の所に行くことになった。哲郎はその日が待ち遠しかった。





 ついにその日がやって来た。哲郎とマキシミリアンは朝食を食べると(ただ)ちに出掛けた。

 職人の家には程なくして着いた。マキシミリアンが職人の家に入る。しばらくして哲郎も呼ばれて入って行った。

 職人は鍛冶屋であるようで、それらしい道具もいくつかあった。マキシミリアンは職人に、「こちらがその犂を考案した者です」と哲郎を紹介した。

 ほう、と職人は哲郎を目を細めて見た。哲郎は職人に、


 「出来そうですか?」


 と問うた。職人は、


 「車輪を付けるだけなら三日とかからず出来るぞ」


 と答えた。哲郎はありがとうございますと礼を述べた。

 職人は、哲郎に対して有輪犂の有用性について訊ねた。哲郎はマキシミリアンにしたのと同じ答え方をした。またそれに加えて、


 「犂の刃など、要所々々を鉄で作ればより深く耕せるようになりますよ」


 とも答えた。これには職人のみならずマキシミリアンも得心した。


 「それでは、三日後に受け取りに行くのでどうぞよろしく」


 「分かった、それまでに作っておこう」


 こうして、哲郎は荘園という閉鎖社会に有輪犂を広める第一歩を歩みだしたのだった。

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