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第七話 初めての農作業

 家に帰ると、ハンスとボリスがすでに昼食を作っていた。現代の、日本人の家庭に育った哲郎にとって料理は主婦の仕事であった。しかしここではハンスが食事を作っている。まさにリアル中世ヨーロッパだな、と哲郎は思った。

 食事は黒パンとチーズの簡素な食事だった。哲郎は黒パンは地球にいた頃はあまり食べたことがなかった。哲郎は何からパンを作ったかハンナに問うた。ハンナは、


「あの畑で育てていたライ麦です」


 と答えた。


「パンはどこで焼くんです?」


「パン職人に頼んでいます――鍋でやる事もありますが」


「パン職人が焼くんですか」


「いや、違う」と横からハンスが言った。哲郎とハンナはハンスを見た。ハンスは若干(じゃっかん)顔を赤くしながら、


「パン職人は領主の(かまど)で焼くんだぜ」


 と続けた。


「職人の竈じゃ焼けないんですか」


 と哲郎が訊くと、


「職人がそもそも領主の手下――というよりはぐる――で、パンを焼く時は必ず領主の竈を使って、使用料を払わなきゃならないんだ。うざったいったらありゃしない」


 ハンスが苦々しげに答えた。


「なるほど」


「うん、あと敬語はくすぐったいからやめてほしいな」


「分かったよ――ハンス君」


「ハンス、で良いよ、兄貴」


 ハンナがこちらを微笑ましそうに見ている。哲郎も「兄貴」と呼ばれて少し嬉しかった。

 午後からも相変わらず草とりである。昼からはハンスも農作業をするという事なので、今度は3人で畑へと向かった。





 ハンスは、「兄貴、記憶が無いんだって?」と聞いてきた。哲郎は、「うん、まあ…そういうところだ」と曖昧な答え方をした。ハンスは「でも兄貴兵隊だったんだろ、外の事知ってるんだろ」と言って来た。哲郎は逆に「ここは、そんなに閉鎖的な社会なの?」と問い返した。ハンスは答えた。


「うん、だって外に出るのは禁止されてるから」


「じゃあ、一生ここで暮らすのか」


「うん、そうなる。兄貴は幸せだよ」


「そうなのか……」


 やがて二人を呼ぶ声がした。ハンナだ。二人が行くと、


「ハンス、テツロウさんに鶏の世話の仕方を教えてやりなさい」という事らしい。


 行ってみると、鶏は放し飼いにされていた。ハンスが野菜くずを鶏にやっている。ハンスに「やってみなよ」と餌を手渡されたが、はっきり言って大したことはなかった。ハンスは「こうやって一日に二~三回餌をやるんだ」と哲郎に教えた。


 やがて日が傾いてきた。哲郎たちは家に戻った。ボリスがいくつかソラマメや玉ねぎなどの野菜を収穫してくれていた。ハンナとハンス、哲郎はそれを穀物などと一緒に煮込む。湯気が立って食べ物の香りがしてき、やがて完成した。3人はそれを木の器によそった。質素な食事だったが、非常に暖かみのあるものだった。

 そこに、ハンナの夫が帰ってきた。

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