第四十八話 新通貨レンゲルド
遅れてしまい、申し訳ありません。
「よう、国王さんだな。それにハンスも」
十日ほど経って、哲郎たちが出来上がった硬貨を受けとるために貨幣職人の家の中に入ると、職人が話しかけた。
「ああ、レンゲルド硬貨はどれくらいできているか?」
哲郎が話しかける。職人は、
「全部で二万枚ほどだね」
と答えた。
「現物をいくつか見せてくれるか?」
「ああ、奥に入ってくれ」
哲郎が言うと、職人は頷いて手招きした。
奥には、たくさんの硬貨が保管されていた。職人はそのなかからいくつか哲郎に手渡した。
「おお……」
哲郎は渡されたお金に目を落とした。さすがに日本の十円玉のようにきれいにはいかないが、それでもかろうじて哲郎のものと分かる横顔が刻まれた銅貨が、哲郎の手のなかで光っていた。
「これは素晴らしいな!」
「ああ、これは俺のあらゆる技術の集大成だね」
職人は胸を張って答えた。
「これは報酬をはずまなければな。ざっと七千レンゲルドほどでいいかい?」
哲郎がそう訊ねると、
「七千レンゲルド……だいたい、それはどれくらいの額面なんだね?」
職人が首を傾げた。哲郎が
「四千レンゲルドあれば、一人が一年暮らせるくらいだ」
と言うと、
「そんなに貰っていいのか?」
と職人が訊いた。
「ああ、もちろんだとも。できればあんたを雇って、この貨幣を作る専属の職人にしたいくらいさ」
「ははは、でも俺は町の人たちのための"普通の"職人でもあるからなあ」
哲郎が答えると、職人は笑った。
「それじゃあ、七千レンゲルド取っていってくれ」
「了解だ」
哲郎が言うと、職人が頷く。
「小銭も取っていけよ。両替もするけどな」
「分かってるさ。ほら、七千レンゲルドだ」
職人が彼の取り分を取ったところで、ハンスが外に向かって、
「おーい、入ってこい」
と声をかけた。すぐに公務員たちとその護衛が入ってきた。
「彼らがこの硬貨を運びます。まずは五百レンゲルド硬貨からです」
ロレンツォが職人に言う。職人は口をぽかんと開けていた。
「五百レンゲルド硬貨は数十枚ほどあったはずですが」
「あ、ああ、これだ」
職人が慌てて五百レンゲルド硬貨を差し出した。
五百レンゲルド硬貨はこの国の貨幣のなかで最も高額で、厚ぼったく、重い。縁には飾り模様があった。刻まれた「500」の文字が光る。公務員のうちの一人はそれを袋に入れた。
「ハンス、ついていってやれ」
哲郎が言うと、その公務員とハンス、二人の兵士が連れ立って出ていった。
「次は百レンゲルドだな」
「ええ」
続いて百レンゲルド硬貨が次々と袋に詰められる。百レンゲルドには哲郎の横顔が刻まれている。それらも公務員たちによって運ばれていった。
結局、すべての硬貨を運び終わったのは昼過ぎのことだった。
「兄貴、俺はもう疲れたぜ……」
「体のあちこちが痛いです」
すべての仕事を終えた三人は休んでいた。
「今日の午後には貨幣施行の告知をするよな?」
ハンスが言う。
「その前に、今までの給料の支払いだ。ハンス、マックスたちのところに行って仕事を中止させ、労働者たちを連れてこい」
「分かった」
「ロレンツォは、いつも黄銅鉱を掘っていたメンバーを集めてくれ」
「分かりました」
二人は慌ただしく立ち上がった。
「さあ、君たちには私と一緒に貨幣の総額を数えてもらおう」
哲郎は公務員たちに向かってそう言った。
「なんだ、いきなり集められて」
「いったい、どうしたんだい」
集められた労働者たちは困惑しているようだった。
「今から――」
哲郎は声を張り上げた。
「今から、新通貨を施行しようと思う」
しんと静かになった。
「その前に、公共の労働者であるお前たちに、この新通貨を配布する。これは今までの働きの分の給料だ!」
労働者たちがざわついた。
「一人一日あたり、十五レンゲルドだ。ほぼ全員が二十日働いているから、一人あたり三百レンゲルドになる。静かに受け取れ」
歓喜の声が沸き上がった。ハンス、ロレンツォ、マックスの三人と公務員たちが、三百レンゲルドを配った。
「今日はこれにて解散とする。これから正式に通貨を施行するためだ」
哲郎が解散を宣言し、労働者たちは急いで帰宅した。哲郎たちも広場へと急いだ。
広場に集まった村人たちはすでに労働者たちなどから事情を聞いていたようで、興奮しながら新通貨発表を待っていた。
やがて哲郎が小高いところに上がって、村人たちに向かって大声を出した。
「今日を待ち焦がれていた人は多いに違いない! 私もその一人だ。ついに今日、新たなる通貨、『レンゲルド』を施行する!!!」
村人たちから割れるような拍手が上がった。哲郎は硬貨を掲げた。
「これがレンゲルド硬貨だ。これからは、この通貨を中心に使ってもらう。つまり、その他の通貨は使用禁止になる」
村人たちはざわついた。その声のなかには困惑が多くみられた。
「安心しろ。レンゲルド以外の硬貨は、レンゲルド硬貨といつでも交換可能だ。交換率は……十レンゲルドで一リブラだ」
再び歓声が上がった。主に元レンブルク市民たちからだった。
「また、向こう一年は税は取り立てない。そのかわり、野菜や小麦などを私たちが買い上げる」
元村人陣営からも拍手が上がった。
「それから、これからは私と君たちの仲介役として、マキシミリアンを起用する。マックスと呼んでやれ」
「マックスだ! よろしく!」
哲郎が紹介すると、マックスは手を振った。「よっ、マックス!」などと声が上がる。やはり彼が村人に一番信頼されているのだ。
その時、村人たちの中から声が上がった。
「おい、リブラ銀貨はその通貨と交換できるのか?」
「分かっている、リブラ銀貨との交換を常時私の家で行う。まずは希望者は今夜集まるように」
哲郎はそう答え、もう言うことはないので下に降りた。
その夜、哲郎たちがたくさんのレンブルク市民たちと硬貨を交換し、夜遅くに疲れ果てて眠り込んだのは言うまでもない。
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