第四十六話 錫石
その翌日、哲郎は職人とたくさんの働き手達の姿を認めた。
「どうしたんだ、ハンス? こんなにたくさんの人がいて」
「まあ兄貴、聞いてくれよ。昨日俺とマックスは職人から了承を得たから、村人達のなかからコンクリートの材料を掘り出したり固めてブロックを作る人を募ったんだ」
「それでこんなに……」
「給料が出るって言ったからな!」
「ええ……」
哲郎は改めて村人達を見た。彼らの目はみな輝いていて、まさに何かを夢見ているようだった。
「でも、これは少し多すぎやしないか?」
「いいえ、ちょうどいいです」
後ろから声を聞いて、哲郎は振り返った。
「この人達の一部を黄銅鉱掘りに動員しましょう」
ロレンツォがにっこりと笑って言った。
「この黄銅鉱をケイ素……いや、砂と混ぜて加熱すれば、下の部分に硫化銅が溜まる。これに空気を吹き込みつつさらに加熱すれば、銅の出来上がりだ」
哲郎は得意げにロレンツォに話した。
黄銅鉱から銅を取り出すこのやり方は、今の地球でも使われている。もっともこれだけでは純粋な銅は取り出せないのだが、銅貨を作るにはこれで充分である。
「どこでそんなことを……」
ロレンツォが当然の疑問を口にした。
「すまない、忘れてしまった。僕は一種の記憶喪失なんだ」
「そうだったんですか!?」
ロレンツォは驚いて言った。そう言えば話していなかったな、と哲郎は思いながらロレンツォに、自分は記憶喪失であること、前の村からは追い出されて来たことなどを話した。
「そんなことがあったんですか……」
哲郎は、哲郎に同情するロレンツォに少し心を痛めたが、異世界からやって来たなんて言えないから、と自分に言い聞かせた。
「では、この人たちを黄銅鉱掘りに動員しますか」
ロレンツォが後ろを振り返りながら言った。
「どれが黄銅鉱か彼らにレクチャーしなければな」
哲郎が答えた。
「ええ」
二人は、働き手たちに掘り方を教えた。
「おお、これは錫石じゃないか」
掘っている途中で突然、哲郎が声を上げた。
「どうしましたか?」
「これは、錫石――酸化スズだ。炭素粉末と混ぜて加熱することで、単体のスズが得られる」
「つまり?」
「このスズを銅に少量混ぜると硬くなるんだ。しかも、錫石からは木炭と混ぜて加熱するだけでスズがとれる! 良いだろう?」
「いわゆる、青銅というやつですね」
ロレンツォは青銅の存在を知っているようだった。
「この錫石を少し持って帰ろう」
「ええ」
二人は錫石も持ち帰ることにした。
鉱石掘りから帰ったロレンツォは、貨幣職人の家へ錫石を持って向かった。一方哲郎は、彼の家へ帰った。
「ハンス」
哲郎は部屋に入りがけに、そう呼びかけた。
「何だ?」
部屋の中から返事が聞こえる。
「国に必要なものとして、何か重要なものを忘れていないか?」
「何か重要なもの……?」
ハンスは首を傾げた。
「それは、軍隊だ」
「軍隊!」
ハンスは声を上げた。
実は、哲郎は今日帰る時に、ロレンツォとこの話をしていたのである。
「軍隊なら既に、俺たち自警団がいるから……」
ハンスがそう反論しようとするのを、哲郎が押しとどめた。
「何も、すぐに戦わせようって訳じゃない。まずは形だけでも作るんだ。彼らには、一応戦闘訓練はさせるものの、メインはこの国の周りの土地の探索だ」
哲郎の頭の中には、すでにある程度のプランが出来上がっていた。
「とにかく、周りの土地を探せば新たな発見があると思う。それが町であれば良いし、そうでなくたって、石灰岩みたいな新たな鉱石か何かが見つかるかも知れない。将来この国が周りの国と交流を持つようになった時に、少しでも有利になるようにしたいからな」
「分かった」
ハンスが頷いた。
「明日、ロレンツォやマックスとも話し合おう」
哲郎はそう締めくくった。
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