第四十四話 黄銅鉱探し
「彼がマキシミリアンだ。マックスと呼んでやってくれ」
哲郎は、ハンスとロレンツォにマックスをそう紹介した。
「マキシミリアン……」
ハンスが昔を思い出したようにぽつりと言った。
「よろしくお願いします」
ロレンツォは礼儀正しく挨拶をしていた。
「よろしく……お願いします」
マックスもそれに何とか応じる。ロレンツォはそれをにっこり笑って見てから、
「それで、誰が何をするかという話ですが」
と言った。
「どういうことで?」
マックスが訊く。
「私達は、役割分担をしようという話をしていたんです」
とロレンツォが答えかけると、
「そこは僕が話そう」
と哲郎が代わった。
「なるほど、つまりはこの村を国にするための計画を進めていたって所か」
「ああ、さしあたってはそのための手伝いをして欲しいんだ。君なら村人たちの心を一つにできるだろう」
「もちろんで」
「そこで、君には石灰岩を切り出す指揮をして欲しいんだ」
「石灰岩というと、あの白い山の事で?」
「ああ、村人達の新しい家を作るためにな」
「すると、それは――あの白い山で家を作ると言うのか!?」
マックスが驚き叫んだ。
「信じられないと言うかも知れないが、そうだ。石灰岩の山と火山灰の山、両方に行ったり村を守るためにもハンスも同行してくれ」
「合点だ」
「そして僕は、ロレンツォと川に行ってくる」
「川に……?」
マックスが首を傾げた。
「兄貴のことだから、また何か考えているんだろ」
ハンスがそれに答えた。
「"金"に関することだ。さあロレンツォ、行くぞ」
「ええ」
「あっ!」
ロレンツォが川を覗き込んで声を上げた。
「これがあの"金"では?」
哲郎もそれを見て、
「ああ、これがあの黄銅鉱だ」
と言った。
「黄銅鉱……?」
「ロレンツォ……」
哲郎は言った。
「何です、いきなり」
「今の貨幣は、ほとんど金貨だろう」
「当たり前ですよ」
「この黄銅鉱からは、銅が取り出せるんだ」
「はあ」
「そして、それを材料にして銅貨を作ろうと考えているんだ」
「銅貨、ですか」
「ああ、この国の中で価値を発揮する銅貨だ」
「でも、それだと価値を失いませんか?」
「え?」
「だから、村人達にとっては銅貨なんて価値を感じませんよ。金貨とは違うんですから」
「そうか?」
十円玉のようなイメージで話していた哲郎だが、ロレンツォにこう言われて首を傾げた。
実は、この時代は、もし仮に発行元の信用がなくなったとしても、金塊としての価値を保ち続けるという理由から金貨での取引が当たり前だったのだが、哲郎はそこまで考えていなかったのだ。
「そうですよ、当たり前でしょう」
「でも、この国の中で扱うなら、僕の信用でも成り立つ」
「でも、将来は他の国と渡り合えるような国にしたいのでしょう?」
「ああ」
「もしこの通貨を使っていれば、行商人達はここにはやって来ませんよ。他の国の通貨と両替できなければ」
「あ」
哲郎は頭を抱えた。
「でもこれは、村人達に、リブラ銀貨と引き換えに銅貨を発行することで解決できるかも知れません。だって、発行した銅貨の分だけ私達の手元にはリブラ銀貨が入る訳ですから」
リブラ銀貨というのは、帝国が発行している貨幣で、レンブルク市民達もこれを使っていたのだ。
「そうか、それでリブラ銀貨と銅貨はいつでも両替可能にして、銅貨の信用を保つんだな」
「ええ、後はとりあえずこの村の中で経済を回し、村人達に慣れて貰いましょう。そして私達は、他の都市との交流を図るのです」
「まずは今日働いて貰った村人達にも給料を約束しよう」
「そして税金を取り立てれば、経済は回ります」
「行商人達がここで物を売ると銀貨が流出するから、新貨幣の信用が固まるまではむしろ買わせるようにしよう」
「そのためには産業の発展も必須ですね」
「だな」
哲郎とロレンツォは、お互いに深く頷いた。
「ところで、この……黄銅鉱は、どこから来たのでしょう?」
「僕はあそこじゃないかと考えている」
哲郎は目の前の山を指した。小さい川がそこから湧き出て、大きな、黄銅鉱が初めて見つかった川に注ぎ込んでいる。
「豪雨で山の土砂と一緒に来たんだろう」
「では、行ってみますか」
二人は山へと分け入って行った。





