第三十八話 東西南北
地面に立てた柱の影が東に長く延びている。哲郎はそれを見てニヤリと笑った。
この世界では日没とともに眠る。哲郎は既に夕食を済ませ、ここに来ていた。
柱を立てるのは割と大変だった。穴を掘り、そこに柱となる棒を入れて埋め戻す。柱が大きかった事も相まって、作業には村人や元レンブルク市民達と力を合わせても一週間を要した。
だが、その結果がこれである。
柱は特別に大きいものを使った。太めの木の枝を使ったのだ。そのままでも良かったのだが、折角なので分かりやすいよう大工に頼んで先を尖らせて貰った。彼はこれが初仕事と乗り気だった。哲郎はこんな仕事でもやる気が出るのか、と疑問に思ってロレンツォに聞いたところ、「当たり前ですよ」と言われた。
「皆、テツロウさんに恩を感じているんですよ」
それもそうかも知れない、と哲郎は思った。自分からしてみれば逃げ込んで来た人達を、それも私情から受け入れただけなのに……。しかし、ロレンツォはそう言い切ったのだ。考えてみれば、彼もまた哲郎に恩を感じている人間の一人である。
哲郎は、そこまで考えるとにっこりと笑って、地面に印を付けた。
翌朝は早起きだった。まだ暗いうちから哲郎は外に出て、柱の所へと向かった。事情を聞いていた一部の村人や元市民達が既に集まっていた。哲郎は寝起きの頭を振って、彼らに挨拶した。
「兄貴、もうそろそろ日が昇るぞ」
「ああ、そうだな」
やがて地平線から光が差し始める。
前日の日の入りの時と影の長さが同じになった時を見計らって、哲郎は地面に印を付けた。
そして、昨日の印と今日の印の間を線で結び、木の棒で尺を取りながら中間地点を探す。
その点と棒を真っ直ぐに結んだ。
「遂に出来たぞ!」
誰かが叫ぶ。
「でも、これが何の役に立つんだい?」
別の誰かが問い掛けた。どうも村人らしい。
「新しい町を作る基準にするんだとさ!」
オオオ、と声が上がる。
「新しい町、万歳!!!」
彼らは、早くも新しい町が出来たかのように喜んでいた。
その後、早速哲郎は、昨日引いた線を村長の家の所まで延長した。そして、そこに基準点を作る。
作った基準点からは、南北の線と垂直に交わるように東西の線を引いた。中学校で垂線の作図をやらされた時は何の役にも立たないと思ったが、案外こんな所で役に立つものだ、と思った。
「よう兄貴、精が出るな」
「ああ、雨が降ったらおじゃんだからな」
ハンスはそれを聞いて笑った。
「兄貴は必死だな。しかし、一体どれくらいの幅の道を作るつもりなんだい?」
「一番広い所では――人が手を広げて十人並んで歩けるほどかな、狭い所でもその規格で二人分ほどは確保したい」
「……それは、広いな。でも一体そんなに広げて、何の役に立つんだ?」
「考えてみろ。この周りにはレンブルグのような町や村もたくさんある。将来この町が発展して、交通の要所になった時、馬車が通りやすくなるし、見映えも良くなる」
ハンスはなるほど、と深く頷いた。
「分かったら、頑張って広い道路を作るんだ。まあ、最初は土を踏み固めるだけだけどな」
今は冬で、大きな農作業も無い。工事に適している季節だと哲郎は考えたのだ。





