第三十七話 条坊制
「さて、どうしたものか」
哲郎は悩んでいた。
昨夜元レンブルク市民を迎えた時は村人と同居させたものの、やはり新たな家が必要だ。家や道をどう作るべきか――前ならロタール村長が居たから相談出来ただろうが、今は哲郎がトップである。
悩んだ哲郎は、ハンスに相談する事にした。
「ハンス、ハンス」
哲郎は隣で寝ているハンスを小突き起こした。
余談だが、実はこの世界のベッドは、裸で寝るものである。初めてこの世界で寝た時はなかなか寝付けなかったものの、一年以上も暮らしていれば段々慣れてくる。
昨日は暗くて分からなかったが、ハンスはレンバー領で畑仕事をしていた時よりずっと体格が良くなっている。
「どうした兄貴、変な方向にでも目覚めたのか?」
気付くと、ハンスがにやにやしながらこちらを見ている。
「い、いや、町を作ろうと思ったんだけどさ」
「町がどうかしたのか?」
「どう道を引いたら良いか分からないんだよ」
一度引いたら修正は不可能だし、と哲郎は言った。
「うーん、俺の経験だと……」
「経験だと?」
「俺の経験だと、道は全て平行に、体系的に作るべきだと思う。後からどんどん不規則に広げると――レンブルクみたいになるな」
なるほど、と哲郎は感心した。さすがは町暮らしだけある。
「そのためには、まず基準となる方角を決めないとな」
「兄貴の言う通りだ」
哲郎は考えた。やはりここは日本の平安京や平城京、藤原京のような条坊制――すなわち、縦横に道が走っているやり方を採用すべきだ(最も、実際には必ずしも縦横に道が走っているからと言って条坊制であるという訳ではない)。平安京のメインストリートとも言える朱雀大路は南北に走っていた。という事は、やはりここでもそれを再現すべきである。
「どうしたんだ兄貴、いきなり黙りこくって」
「やはり東西南北に道を引くのが一番だな」
「東西? 南北? 何のことなのか、俺には分からねえ」
「最近、商人の間で聞くやつですね」と、ロレンツォが口を挟んだ。
「そうなんですか」
「ええ、テツロウさんはよくご存知ですね」
「それで、その東西南北とやらを知るためには、一体どうしたら良いんだ兄貴?」
哲郎はこう言われると困った。この世界には、羅針盤はないのだ。
「確か、太陽が――」
そうだ!
日時計を作れば良いのか。
「太陽が一番高いのが、南ですね」
「じゃあ、日の出と日の入りのちょうど真ん中だな」
「一体どうやって測るんだ?」
ハンスがもっともらしい疑問を口にした。
「地面に柱を立てて、日の出と日の入りの時の影の跡を印しておき、その影の先どうしの中間地点と柱の根元を結べば出来るぞ」
「それは名案ですね」
ロレンツォも頷いた。





