第三十六話 レンブルク陥落
「避難民とは、どういう訳ですか!?」と、哲郎は降りしきる雨の中を走りながらロレンツォに訊ねた。
「そのままですよ、教皇国軍がレンブルクを攻め、陥落したのです!」
「じゃあ、自警団は――」
「半分滅亡です」
「それは大変だな、ハンスは?」
「ハンスさんが、元レンブルク市民たちを連れて来たんです!」
「どういうことですか?」
「さあ、着きました! ハンスさんたちがいますから聞いて下さい」
哲郎はハンスに駆け寄った。
「ハンス、これはどういうことだ?」
「兄貴、許してくれ」
ハンスはなんと、謝った。
「何が起こっているか説明してくれないと――」
「とりあえず、彼らを村に入れていいですか?」と、ロレンツォが哲郎に訊ねた。
「ああ、村長の家を提供してくれ。あと、実は――ロタール村長が亡くなったから、今の村長は僕だ」
「ああ、それは、おめでとうございます」
ロレンツォはそう言うと駆けて行った。哲郎は首を傾げたが、納得した。この世界では死は身近である。人が死んでも、それをあまり悲しまないのかも死れない。
「それでハンス、僕達も村長の家に行こう」
「良いのか?」
「ああ、きっと大変なことがあったんだろ?」
「ああ、なら行こう」
哲郎は、村長の家の自室に案内した。
村長の家はたまに集会なども開くため、大きい部屋がいくつかあり、それに加えて村長の家族のための部屋もあるのだ。
ハンスは部屋に入ると、すぐに話し始めた。
「兄貴、俺達は教皇国軍に襲撃されたんだ」
「前とは違って、人数が多かったといった所か」
「ああ、理解が速くて助かる。俺達はこの先行くあてもないんだ、出来れば助けてくれるとありがたい」
「助ける、という事は僕たちと共同生活することになるのか」
「……そうなるな。頼む」
哲郎は考えた。この村は、存在が秘匿されている。もし仮に近くに新しい村や町が見つかったら、どうなるだろうか? 口外する者が現れるのでは無いだろうか?
「ハンス」
「何だい」
「この村のことは絶対に口外するな」
「ああ、それはロレンツォさんも言っていたな」
「それで、もしこの村で暮らすなら、今のところはこの村の中だけで暮らし、原則として外に出てはいけない、ということにするならいてもいい」
「なるほど。俺が元レンブルク市民たちと話してみる」
「ああ、頼んだ。僕は元フェルトシュタイン村の村人達と――」
「了解した。あと兄貴」
「何だい?」
「自警団長が亡くなった。だから、俺が元レンブルク市民の事実上の統率者なんだ」
「……それは奇遇だな、僕もロタール村長が亡くなったから村長なんだ」
哲郎はそれだけ言うと、村人たちの集まっている所に駆け付けた。彼らは哲郎が帰って来たのを見て万歳と叫んだが、哲郎はそれを静まらせた。
「みんな、大変だ」
「どうしたんだ、急に出て行ったりして」
村人の一人が言う。
「みんな、レンブルクは知っているか?」
村人達は顔を見合わせた。
「近くにある、僕がロタール元村長とロレンツォさんと三人で行った町だ」
村人達は静かに聞いていた。哲郎は続けて、
「あそこの人達が逃げてきたんだ――教皇国の軍隊に町を襲撃されて」
と説明した。
村人たちはざわつき始めた。それらはいずれも、「あの教皇国め」というような内容だった。哲郎はそれを聞き、逆にこれを利用すべきだ、と考えた。ハンスがレンブルク市民を説得するのはそんなに大変では無いだろう――なぜなら、彼らは命の危険に晒されているからだ。しかし、村人達の説得はある程度の説得力が必要である。哲郎は個人的にもハンスを助けたかった。哲郎はここが正念場だと思い、大声を出した。
「そうだ、奴らは卑劣な事に、レンブルクを襲ったのだ、許せるか!?」
教皇国側にも、何らかの理由があったのかも知れない。しかし、群衆を煽動するにはこれが一番だ。
「許せない! 絶対に許せない!」
誰かが叫んでいるのでそちらを見ると、何と哲郎が開墾で出会う筋肉ムキムキの男だった。
「そうだろう!?」
「「「そうだ!!!」」」
哲郎は一番大事なことを言った。
「そのためには、団結しなければならない!」
「「「そうだ!!!」」」
皆が叫ぶ。
「よく言った。向こうさえ良ければ、直ぐに合併だ!」
その時、ロレンツォが近寄って来た。哲郎は、
「どうしたんですか?」
と問うた。ロレンツォが、
「向こうも合併が決まりました。どうしましょうか?」
と聞いてきたので、哲郎は、
「とりあえず、それぞれの村人の家に散らばってもらう。ハンスは僕の家に来るということで」
と答えた。ロレンツォは、
「分かりました、ハンスにそう伝えておきます」
と言って去った。哲郎は村人たちに、
「今日はもう遅いから帰って良い。これからしばらくの間は元レンブルク市民と暮らすことになったので、仲良く"団結"するように」
と伝えた。哲郎も帰ろうとした時、立ち去り際に例のムキムキ男が話し掛けて来た。
「村長さん、あの場では一人称は"僕"じゃなくて"俺"か"私"だぞ」
そういうものなのか、と哲郎は思った。





