閑話 魔女との出会い
「この町に、冒険者ギルドはないのか!?」
ある男子が、苛立ち気味に叫んだ。
「ないなんてあり得ないだろ、だって――」
別の男子が答える。
「でも、今日一日見てみた限りではないぞ」
先程の男子が食い気味に言い返した。
「だって、俺達は異世界転移したんだぞ」
二人目の男子が言い切る。
彼らはいずれも突然地球から飛ばされて来た生徒達である。運良く目の前に町があったため入ってみたが、ここはラノベの世界とは違い「冒険者ギルド」などというものはなかったのである。
「魔法とか、ないのか?」
「この町の南の森に、魔女が住んでいるって言う噂はあったぞ」
別の男子が答えた。
「じゃあ、行ってみるか? 魔法を教えてもらえるかも知れないぞ」
「でも、悪い噂しか聞かないし、行かないほうが良いんじゃない?」
この中で唯一の女子が言った。彼女――峰山百恵はクラスいちの美人と言われていて、クラスの男子から欲望のまなざしで見られることも多かった。実際、黒田さえ居なければクラスカーストの最上位にいてもおかしくなかったくらいである。
男子達は、出来るだけ彼女の機嫌を損ねないように反論した(皮肉な事に、これは男子達が黒田に対してとる言動に酷似しているのである)。
「で、でも、峰山さん」
「どうしたの?」
人の話をきちんと聞くという彼女の性格もまた、男子を惹き付けるものとなっていた。
「少なくとも、行ってみる価値はあると思う――そうだ、俺が一人で行ってみるから、大丈夫そうだったらみんなも呼ぶよ」
「分かった。それなら、大丈夫そうね」
百恵はにっこりと笑った。
善は急げとばかりに、彼らは翌日南の森に行ってみることにした。南の森にも洞窟のようなものはあったので、彼らはそこに泊まった。
「これはキイチゴじゃない?」
百恵は実際、非常に役に立った。彼女曰く、「ガールスカウトに行っていた」とのことらしい。
「峰山さんは何でも知ってるんだな」
「そう?」
やがて新たな仮拠点が完成した。
翌日、偵察のための男子――松田正人という名前だった――が、偵察に向かった。
正人がしばらく歩くと、やがて道のようなものが出てきた。獣道かと思ったが、正人は「これは魔女の使う道に違いない」と思い、それに沿って登って行った。
やがて目の前に、掘っ立て小屋が現れた。正人は、これこそが魔女の家だと思った――なぜなら、家の構造が不自然で、一見崩れそうに見えたからだ。きっと何か魔法で固めているに違いない――彼はそう思い、木の扉をノックした。
「もしもし――」
「何だい?」
声が聞こえた。
「もしもし、吉田と申します」
「あんたは、一体何をしに来たんだね?」
「魔法を学びに――」
「何か特別なことがないと、無理だね!」
「ま、待って下さい」
「魔法は、誰かに一回でも掛けてもらわないと使えない。あたしゃそのために魔法を掛けるのはまっぴらごめんだ」
正人はそれを聞いて閃いた。
「魔法を掛けられたことがあるんです!」
しんと静かになり、再び声が聞こえた。
「それは本当かね?」
「はい、あ、あの、とある人に転移魔法を」
とある人、というのは紛れもないあの自称神のことである。
扉が薄く開けられた。中でぎらぎらした目がこちらをみていた。やがて扉は大きく開けられた。魔女は正人に、
「魔法を学ぶのはあんただけかい?」
と訊ねた。正人が、
「まだ、あと三人います」
と答えると魔女は、
「それなら連れて来なさい」
と言った。正人は喜んで駆け出した。魔女はその背中を見て、にやりと嗤った。
一方でこちらは戦いが終わったとある戦場、二人の女子がよろよろと歩いていた。彼女たちも転移させられたクラスメートの一部である。あの自称神は、出来るだけ全員が固まって転移するよう配慮したのだが、それは彼女たちには知るよしも無い。二人がもう少し周りを見ていれば、倒れた哲郎を見つけたであろう――しかし、彼女らはそのようなことはつゆ知らず、森へと迷い込んだ。
半年後、そこをたまたま通りかかった兵士が、並んだ二体の白骨死体を見つけた――。





