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第三十五話 村長の急逝

 哲郎とロタールは、川に駆けつけた。川底にはキラキラと金色に光るものが転がっていた。例の村人の他に数人が喜んでそれらを拾い集めている。ロタールと哲郎は腰を屈めてそれを見た。


「これは……、金じゃないか!?」


「ええと……」


 哲郎はその金のようなものをよく見た。きれいな立方体の形をした結晶だ。哲郎はいくつか手にのせて、眺め回し、重さを調べた。やがて哲郎は言った。


「大変申し上げにくいのですが……」


 ロタール村長達の顔がぴくりと動いた。哲郎は続けた。


「……これは、金では、ありません」


 金の結晶はこんな立方体をしていない。金、特に砂金はもっと不定形である。


「これは、黄銅鉱だと思います」


 皆がシンと静かになった。哲郎は一抹の罪悪感を感じながら、


「昨日の夜の豪雨で山から流れて来たのでしょう」


 と続けた。


「そ、そんな……」


 村人達は膝を着いた。


「で、ですが!」


 哲郎は慌てて言った。


「これは銅の原料です」


「銅、か」とロタールが呟いた。


「はい。まあ、専用の釜か何かが無いと作れないでしょうが」


「それでは、一応次にロレンツォ君が帰って来た時に知らせよう」


「はい」


 哲郎はそれだけ言うと、あてが外れたことを紛らわすように開墾に向かった。ロタール村長も立ち去った。

 哲郎が開墾に勤しんでいると、いつしかのムキムキの男に会った。


「よう、どうも俺があんたに会う時はいつも開墾してるようだな」


「そう……かも知れないな」


「前会ったのは……確か白パンとかいうのを初めて作った時だよな」


「ああ、その時も耕していたっけ」


「そうだったな。良ければ手伝うが?」


「頼む」と哲郎は言った。「どうしても、畑の面積を増やさなきゃならない」


「当たり前だろ」男はハハッと笑うと、地面に鍬を深々と突き刺した。





 それからまた数日経った。まるであの豪雨が嘘だったかのように晴れていた。哲郎は、ロレンツォが町から戻るのを心待ちにしていた。

 その時、向こうから村人が一人走って来るのが見えた。彼は叫んだ。


「大変だあ、村長が、ロタール村長がぁぁぁ!!!」


「村長がどうしたんだ!?」


「崖から落ちて――」


 哲郎はすぐに走り出した。いつしか雨が降り出していた。





 ロタール村長の遺体は、血だらけになって崖の下にあった。村長と一緒に行動していた村人が涙ながらに話した事によると、山に登る途中でロタール村長は崖で足を踏み外して下に落ちたそうである。女たちがロタール村長の遺体を清めるために川の側に運んで行くのを、哲郎はぼうっと眺めていた。哲郎の視界がぼやけた。彼は涙を手の甲で拭ったが、後から後から涙が溢れ出てきた。

 翌日、葬儀が行われた。たった二人の聖職者が祈りを捧げる。蝋燭が灯され、香炉が焚かれた。啜り泣きが聞こえた。哲郎は、ロタール村長の事を思い出していた。


 ――これは素晴らしい!


 ――良いか、これはこうだ……


 彼は、いつも哲郎を褒め、哲郎に様々な事を教えてくれた。哲郎の様々な努力は、全てロタール村長のおかげで実現に至ったものである。彼なくして、今の自分はない――哲郎はまた涙が出てくるのを感じた。

 いよいよ埋葬となった。墓穴に棺桶が下ろされ、最後の香炉が焚かれた。聖職者のうちの年配のほうが土を一すくいかけ、皆もそれにならった。ロタール村長が死ぬ前も村人たちのうちの一部は死んでいたので、これは哲郎にとって初めての経験ではなかったものの、哲郎はいまだに彼が死んだことを受け入れられなかった。

 やがて葬儀が終わった。村人たちは、村長の突然の死に悲しんでいた。やがて誰かがぼそりと言った。


「新しい村長を、決めにゃならんな」


「そうだな」


 彼らは静かになった。それほどロタール村長は素晴らしい人だったのだ、と哲郎は感じた。彼らはお互いに目を逸らしていた。無理もない――哲郎は、そう思った。この村は政治的にも難しい立場の村であるからだ。しかし、誰がなったものだろうか? 哲郎はそう考え、顔を上げた。すると――

 ほぼ全員が哲郎のほうを向いていた。


「え?」


 気付いたら、そんな声が出ていた。


「テツロウさん、頼む」


 誰かがそう言った。


「あんたしか居ないんだ」


 哲郎は驚いた。


「そんな、他にももっと良い人が――」


 あ。

 哲郎は思い出した。


 ――お前が、次期村長候補だからだ。


 哲郎にとって、この言葉はロタール村長の"遺言"であるのだ。


「――分かりました、()()()()()()。」


 哲郎は虚空に向かって返事をすると、きっぱりと言った。


「分かりました、僕が次の村長になります」


 拍手が起こった。哲郎は、村人達に囲まれた。彼らは確かに前の村長の死を悲しんでいたが、同時に新しい村長の誕生をも祝っていた。死が身近にあるこの世界では仕方がないかもしれない、哲郎はそう思った。

 そこに、突然足音と共に誰かが戻って来た。もう薄暗くなっていたが、哲郎はそこにずぶ濡れのロレンツォの姿を認めた。


「ロレンツォ、実はロタール村長が突然――」


「テツロウさん、それより大変なことが」


「どうしたんですか?」


「レンブルグが陥落しました。避難民が来ています」


「なんだって!」


 哲郎は叫んだ。

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