第三十四話 次期村長
「それじゃ、商売慣れしているロレンツォに頼みますよ」と哲郎は言った。
彼らはレンブルク襲撃の後、すぐにレンブルクを出て村まで戻って来たのだ。
「ええ、分かりました。売るのは小麦ですね」
「はい――白パンはギルドに目を付けられると厄介ですからね」
「うむ、行って来い」
ロレンツォは、村に戻るとすぐにまた商売用の小麦を持って出発する事になった。
「それでは」
哲郎はロレンツォが行ってしまうと、伸びをしてからロタールに、
「やはり畑の面積を広げ続けるべきですね」
と言った。
「うむ、確かに――ただ、一部地面が固い」
「ああ、やっぱりそうですか……」
「何とか対策は無いものだろうか?」
「今の鍬はこれですよね」と、哲郎はロタールに確認した。
「ああ、そうだが」
「ふうむ……」
哲郎は考えた。鍬を回して良く見た。
「あ」
「何か解決策があるのか!?」
「この刃を厚く、重くすれば……」
哲郎が提示した鍬の案は、唐鍬と呼ばれるもので、木の根などが簡単に切れるものである。
「成る程、それで鍬を重くして、土を掘り起こし易くするのだな」
「ええ、部分的に使うだけなので数は要りません。一つか二つで良いでしょう」
「分かった、鍛冶屋に言っておこう」
ロタール村長はそれだけ言って、出て行った。哲郎も畑仕事をしに家を出た。
しばらく畑仕事をしていると、雨が降って来たので哲郎はやむなく帰宅した。
ロレンツォは雨の降る中、森を進んでいた。彼の経験によると、この先に洞窟がある。そこまで行こう、と考えたのだ。
やがて洞窟に着いた。彼は火をおこした。運良く洞窟の奥に木切れが転がっていたからだ。湿ってなかなか火が着かなかったが、彼はこれから先は洞窟の中に木切れを置いておくべきだ、と考えた。
彼は程なくして眠りに就いた。
哲郎はいつにない大雨に不安になっていた。この村に来てから経験した一番の大雨である。しかし彼もまた寝返りを打ち、眠りに落ちた。
翌朝、哲郎は目覚めた。朝の日差しが戸口から射し込んでいる。彼は伸びを一つして、目をぱちぱちさせながら出た。外にはロタールが向こうを向いて立っていた。
「おはよう」
「おはようございます」
「昨日は物凄い大雨だったな」
「こんな雨は初めてです」
「ああ、村がこの場所に引っ越してからも初めてだ」
「そうですか」
「村の見回りもしなければならない」
「え、なぜですか?」
「また迷い人が流れ込んで来るかも知れん」
「確かに……」
「いいか、テツロウ」とロタール村長はこちらを向いた。
「何ですか、いきなり」
「お前も将来はこのような問題に対処せねばならない」
「どうしてですか?」
哲郎は不思議に思った。なぜ自分なのか?
「それは――お前が、次期村長候補だからだ」
「え!?」
哲郎は心底驚いた。ロタールは続けた。
「見ての通り、俺ももう若くない」
「で、でも、他にも村人が居るでしょう……」
「他の村人は、皆お前を慕っているのだ」
「嘘だ!」
「……いや、本当だ。お前は色々と役に立つ発明をした。皆はお前こそが次期村長にふさわしいと考えているぞ」
哲郎はこう言われると反論が出来なかった。確かに、そうなるのも無理はないのだ。
「この村の将来は、お前が担って行くものなのだぞ」
哲郎は黙った。今、自分の両肩には重い負担が乗っているのだ。
とその時、一人の村人が駆け込んで来た。
「おーい村長! 金が川底にあるぞ!」





