第三十三話 ハンスか?
哲郎が振り返って見ると、先ほどの少年が哲郎を見ていた。哲郎が呆気にとられていると、
「兄貴……だろ?」
彼が言った。
「もしかして、ハンスか?」
彼はこくりと頷いた。
「それで、一体どうしてここに居るんだ?」と、哲郎はビールを頼んでから問うた。
「兄貴は知らないだろうな――あの後、領主が兄貴の発明品を全て壊したんだ、『穢れる』と言って」
「そしたら――」
「そしたら、不作に襲われたんだ。俺達農奴は兄貴を一時期は崇めるまでになったんだぜ」
「でも、それは偶然だろう」と、哲郎は言った。哲郎の、ロタールの村での初めての収穫の時も、ロタールは「昨年は凶作だった」とずっと言っていたのだ。
「でも実際彼らは兄貴を崇めてたのさ。でも、飢えはどうにもならない。俺達は口減らしのために追放されたんだ」
「まさか……」
「そうだ。うちでは母さんとボリスが最初に口減らしに遭った。その次が俺さ」
ビールが運ばれて来た。ハンスはそれに口をつけた。哲郎はどう言葉を掛けて良いか分からなかった。ハンスは続けた。
「俺は幸いなことに狼や山賊にも襲われずにこの町に出られたんだ」
「それは幸運だったな」
「それで、町に出たからにはどうにかして食い扶持を稼いでいかないといけない。その時に元盗賊の専門自警団員に会ったんだ」
ハンスによると、その後彼は専門自警団に入団して、訓練したらしい。
「団長が元々騎士団に居たらしいから、兵法なども教えて貰ったんだ」
「へえ」
「……それで、兄貴のほうはどうなんだ?」
「僕は――」
哲郎はハンスに追放されてからの出来事を話した。ロタールが止めなかったので、哲郎は村の話もした。
「そうか、兄貴も大変だったんだな」
「ああ、でも再会できて良かった」
「とても仲が良いんですね」と、ロレンツォが二人が口を閉ざした時に言った。
「昔の、僕が追放された領地での知り合いでね」
「そういうことですか、納得しました」
「そう言えばハンス」と哲郎は向き直った。
「この町での最高権力者って誰なんだろう?」
「それは……」
「やっぱり、領主とか居るのか?」
「……多分、俺達だろうな」
「へ?」
「自分で言うのも何だが、俺達は日頃からこの町の安全に貢献しているからな」
「あー……」
「まあ、表面上は商人ギルドに任せているけど俺達が一番発言力が大きいかな」
ハンスは半分呆れたような顔をして見せた。
「ところで」
「何だい、兄貴」
「この町にものを売りに来る時、許可は必要なのか?」
その時、今まで会話を聞いているだけだったロレンツォがぴくりと反応し、こちらを向いた。ロタールも身を乗り出してきた。ハンスはたじろぎながらも、
「あ、ああ――許可が必要だ。あと利用料を支払わないと」
と答えた。
「成る程、ありがとう。今夜はもう宿に泊まる事にするよ」
「もうすぐ城門が閉まるからな、それまでに出ろよ。俺は夜警だけど」
「ご苦労様」
哲郎はそう言って席を立った。既にロタールは支払いを済ませていた。哲郎はロタール、ロレンツォと共に出て行った。
下の☆を押してポイント評価が出来ます。ブックマーク・ポイント評価よろしくお願いいたします。





