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第三十二話 レンブルクの自警団

「何だとっ!!!」


 近くに居た八百屋が叫び、すぐに店仕舞いを始めた。周りの商人達もそれに続く。哲郎とロタールはロレンツォに「何ごとですか」「何ごとかね?」と異口同音に訊ねた。


「この町は、しばしば教皇国の兵士による襲撃に遭うのです――ですから、その度に私達商人は逃げるのです! 早く!」


 人々が後から後から押し寄せて来る。皆、パニックになっているのである。いつ殺されるかも分からないのだから当然だ。ロタールは哲郎とロレンツォをそのがっちりした体に引き寄せ、人波に揉まれながらも進んで行った。





 哲郎達は程なくして町から出た。教皇国とは反対側、すなわち帝国の中心部のほうへと人々は畑の中を縫って逃げて行った。哲郎はロレンツォに、


「この襲撃とやらは、何時まで続くんですか?」


 と訊ねた。ロレンツォは、


「およそ、今から数えると――太陽が真上に来る時位までですね。ここで見ていても問題無いでしょう」


 と答えた。彼らは小高い丘の上に居たのだ。哲郎は成る程、と独りごちた。


「一時間程か」


「一時間? 何のことですか?」


「いや、こっちの話だ。――それより、こんな風にずっと略奪され続けるのか?」


「いえ、自警団が出てくる筈です――ほら」


 哲郎はロレンツォが指差した方向を見た。確かに、武装した屈強な男達が居る。


「ここら辺は教皇国とも隣接しているため、よく襲撃を受けるので自警団が発達している――らしいです」


 彼はあくまでも人から聞いた話ですが、と言った。


「兵士よりも自警団のほうが立派な装備だな」とロタールが口を挟んだ。


「ええ、だってあちらはやる気の無い雑兵ですから」


「ふむ」


 自警団は文字通り兵士達を蹴散らした。彼らからすれば町の存亡が懸かっているのだから本気になるのも当たり前だ。兵士達の士気も低く、直ぐに敗走した。

 哲郎達は戦いが終わったので立ち上がった。周りの商人達も同様で、彼らは安全になった町へと入って行った。





 町に入ると、自警団達は商人や住民達から沢山の差し入れを貰っていた。農民も商人も、そして大工やパン屋までもが全て彼らに感謝していた。哲郎達三人も一応感謝の念を表すために自警団員達の所に向かった。団員達は皆笑い、汗を拭っていた。

 一通り差し入れが終わると、彼らは差し入れの嵐から解放された。彼らの多くは本来は農民や大工等であるため、仕事に向かったのだ。


「自警団というのは、普段は別の仕事をしているのか」


「ええ、副業で自警団をやっているのがかなりの数を占めていますね」


「かなり、と言うことは――」


「一部は自警団が本来の仕事で、副業で大工の力仕事のようなことをしている場合もあります」


「なるほど」


「彼らは『専門自警団』と呼ばれています」


「あの人たちかな」


「ええ」


 哲郎はもう一度彼らを眺めた。若年層が圧倒的に多いのは、やはり若いほうが運動能力が高いからだろうか。リーダーらしき男は中年といった出で立ちだったが、それ以外はほぼ実力順らしかった。哲郎はその中でも若めの男――と言うよりは少年――の顔に見覚えがある気がした。


「さあ、今日はここら辺にして帰りましょう。それとも宿屋に泊まりますか?」


 ロレンツォが哲郎に声を掛け、哲郎は踵を返して歩き出した。

 その時、


「もしかして――兄貴か!?」


 後ろから声がした。

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