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第三十一話 パン屋ギルド

「……あれが、レンブルクです」


 ロレンツォはそう言って、向こうに見える城壁を指差した。哲郎は目の上に手をかざして、くすんだ色の城壁を見つめた。門が開いており人々がまばらに出入りしている。

 哲郎たちはロレンツォの案内により、レンブルグの様子を探りに来ていた。村を出てから五日程、遂に森を出たのである。


「……結構、大きいな」


 ロタールが呟いた。


「ええ、この辺りでは三番目くらいに大きい町です」


「門は、いつ閉じるんだい?」と哲郎は訊ねた。今はまだ午前中なので、時間的に都合が良ければ、今日中に町で色々出来るかも知れない。


「日没と同時です。鐘が鳴るとしばらくして門が閉まるので……」


「行ってみるか」とロタール。彼は張り切っていた。


「ええ、私は貨幣を持っていますから市場にも行けると思います」


「リブラ銀貨ですね」


「行こう」


 彼らは歩き出した。





 町の検問は、哲郎たちにとっては大したことはなく、武器の不所持を確認されると容易に入れた。三人は遂に町に足を踏み入れた。


「ほう、こんなものもあるのか」


 ロタールが指差した先には床屋があり、客の髪を剃っていた。


「床屋ですね、髪を剃ったりおできを取ったりします」


「うむ、そうか」


「市場に行きませんか?」と哲郎は提案した。


「そうですね」





 市場に着いた哲郎達は、その賑やかさに目を見張った。パン屋はパンを売っている。織物職人は建物の中で仕事をしていたが、その誰もが外から見える所で仕事をしていた。少し向こうでは野菜や、香辛料まで売られていた。そして面白い事に、全ての店どうしでの同じ品物の代金が均一――すなわち、パンならパンでどの店で買っても同じ代金を払わなければならないようなのである。哲郎は近くに居たパン屋らしき人に訪ねてみると、こんな答えが帰って来た。


「ギルドのルールで、値段を一定以上上げ下げしてはいけないんだ。破ったら罰則になる」


「そうです」とロレンツォが首を突っ込んで来た。「そして、パンの質も決められていますよね」


「そうだ、よく知ってるな」とパン屋が答えた。「腕によりをかけて作ったパンではなく、普通のパンを作らなくちゃならないんだ――品質管理と独占禁止のためにな」


「……大変なんですね」


「そうなんだ。――買って行くか? ギルドのルールで負けてやることは出来ないが」


「はい、これとこれをお願いします」


「よし分かった」


「ギルドに所属しない、という選択肢はないんですか?」


「ないです」とロレンツォがまた切り捨てた。「圧倒的に不利になります」


「そうなのか」


「私も行商人ですから、ここの商人ギルドに所属が出来ず、苦労しました」


「ここの商人ギルドは駄目だね」とパン屋が口を挟んだ。「この町を私物化してる。俺達同職ギルドの言う事を聞かないんだ」


「……商人ギルドなんて、どこもそんなものですよ」


「同職ギルドとは?」


「パン屋ギルドとか、木工職人ギルドの商人ギルド以外のギルドの組合ですよ」


「そうだ。俺は行商人さんは商人ギルドに属して無いから嫌いじゃないが」


「どうもありがとうございました」


「いやいや。これがパンだ、忘れるなよ」


「はい」


 哲郎はロタールとロレンツォと再び歩き出した。ロレンツォが言った。


「……やはりツンフト闘争は面倒ですね」


「ツンフト闘争って?」


「商人ギルドと同職ギルドで争うんです。商人ギルドが町を動かしていて――」


「その権利を求めて争っている訳か」


「ええ」


 その時、誰かの声が響いた。


「大変だ、襲撃だーーーーっ!!」

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