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第三十話 村から出掛ける

「それで、お前が付けた目印というのは、一体どのようなものなのか?」


 ロタール村長は、ロレンツォに問い掛けた。

 ロレンツォがやって来てから数日、やっとロタール村長は町への道をロレンツォに聞き出しているのである。


「木に切れ目を入れたものです」


 ロレンツォが答える。


「あなたはそれを見分ける事が出来ますか?」


 哲郎がロレンツォに問うた。彼も当事者の一人としてこの話し合いに参加しているのである。


「ええ、案内出来ます」


「もう一つ、聞きたいことが」


「……はい」


「あなたはどこから出、どこに向かっていたのですか?」


「レンブルクから……フェルトシュタット村までです」


「フェルトシュタット村だと!」


 ロタール村長が叫んだ。ロレンツォは体をびくっと震わせ、哲郎も驚いた。


「ど、どうしたんですか」


「それは……私たちのいた村だ」


「あっ……」


「……すまない、続けてくれ」


「それで、道に迷ったのです」


「なるほど。……フェルトシュタット村の様子はどうだったかね?」


「いいえ、兵士がいたのでそれ以上近付けませんでした。私は兵士がいる所は村ではない、と思いましたから」


「ふうむ……」


「兵士は教皇国のものらしかったです」


「そうか、つまり……」


「占領されている、という事でしょうね」と哲郎が結んだ。「今は、その……何とかブルクとか言う所に行くほうが大事ですが」


「レンブルクです」


「分かった、行こう」とロタールが立ち上がった。


「今からですか?」とロレンツォが言った。「もう暗いですが」


「勿論、明日だ」とロタール。哲郎はそれに、


「でも、もし……レンブルクも陥ちていたら?」


 と問い掛けた。


「明日は様子を見て帰って来るだけだ」


「分かりました」


 哲郎はそれだけ答えた。





 翌朝、哲郎たち三人は村の広場にいた。村人達が総出で見送りに来ている。ロタール村長は昨日の夕に、村の主な人々に少しの間村を留守にする、と知らせておいたのだ。その結果がこれである。村社会とは怖いものだ、と哲郎はつくづく思った。

 哲郎達は皆に向かって手を振った。村人達が沸き立つ――「さようなら、無事に帰って来いよ!」。

 哲郎たちは歩みを進めた。村の外はすぐ森である――隣には開墾途中の畑が見えるが。哲郎はふとレンバー領から追放された時の事を思い出した。あの頃が懐かしいな――哲郎はそう思って、森に足を踏み入れた。

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