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第三話 神

2020.2.26 少し言語に関する話を付け加えました。

 ある日、哲郎が学校に着いた時、クラスの女子のほとんどがこちらを見てにやにやしていた。男子たちは見て見ぬふりをしていた。教室が異様に静かだった。哲郎は着席しようとして、その理由に気づいた。椅子の天板に画鋲(がびょう)が逆さにして幾つか置いてあるのである。ただ置いてあるだけでは無い。瞬間接着剤でしっかりと固定されている。これでは座りようが無い。仕方なく立っていると、


「よーし、ホームルーム始めるぞー」


 担任が入ってきた。起立、礼、着席、と号令がかけられる。皆が席に座るなか、哲郎だけは立ったままだった。


「篠崎君、どうしたんだね」と担任が問いかける。黒田とその取り巻き数人がにやにやしながらこちらを見ている。


「座れないんです」


 くすくすと笑い声が聞こえる。


「座りなさい」


「いえ、それが」


「座りなさい」


 くすくすがますます大きくなる。しかし、それと同時にキィィィィンという不快な音が聞こえてきた。


「何だこの音は」と男子の一人がぼそりと言った。音はますます大きくなってくる。それだけではなく、空気が(わず)かに黄色っぽく色づいて見える。

 初めに動いたのは他ならぬ担任だった。音と色がますます強くなってくる中、ドアを開けて飛び出そうとした。しかし、何か壁のようなものに阻まれて進めない。教室は混乱に(おちい)った。哲郎はなぜかそれをぼうっと眺めていた。自分をいじめていたクラスの奴らが死ぬなら、どうなってもいい、そういう考えが頭の中にあったからに違いない。クラスの皆は泣き、叫びながら「壁」を通り抜けようとしたり机の下に潜ったりしていた。突如として重力がぐるりと一回転した。胃の内容物をぶちまけそうになるのを何とか哲郎は我慢していたが、突然意識が途切れた。





 哲郎は起き上がった。目の前に白い空間がどこまでも広がっていた。ああ、死んだのだな、と思った。しかし左右を見るとクラスメートが転がっている。その一部は目を覚まし、哲郎のようにあたりを見回している。

 やがてぽつぽつと皆が起き上がって話を始めた。否、始めようとした。しかし口をパクパクさせるばかりで声は出ない。やがて担任を含め全員が意識を取り戻した時、空間の奥のほうからぬっと老人が現れた。老人は皆の前に立つと、しゃべり始めた。


「皆の者、わしはテオスじゃ。お前たちのいた世界で言うところの神じゃな」


 神?確かにそう言われればそうかも知れないと哲郎は思った。このテオス――"自称"神――は世界史の教科書に出てくるような神である。それにこれは声を出しているのでは無く、脳に直接語りかけているようである。テオスは続けた。


「お前たちにはこの世界の惑星のうちの一つを救ってもらいたいのじゃ。

 わしの世界には今までに幾つもの惑星が生まれてきている。お前たちの住む『地球』もそうじゃ。

 わしの、今救ってもらいたい惑星は『コズモス』という惑星なのじゃが、争いが絶えぬ。

 そこでお前たちに解決してもらうのじゃ」


 要するに、哲郎たちはこのテオスにいいように利用されるのである。帰れるかどうかの保証もない。そもそもコズモスがどのような惑星であるかさえ分からないのである。


「安心してくれ。コズモスはちょうど1000年前ほどの地球の『ヨーロッパ』とか言うところに似ておる。それに頑張れば帰れるかも知れぬぞ」


 帰れるかも()()()だって?無責任にもほどがある。しかしコズモスは中世ヨーロッパに似ているようである。ラノベによくある設定だ。所謂(いわゆる)異世界転生とか言う奴だ。いや、この場合は転移か。


「あと、言語に関してじゃが、そこの主力言語は一応お前たちの使っている『日本語』とやらに似ておるので安心せよ」


 ()()言語という事は、主力でない言語もあるに違いない。言葉が通じなければ堪ったものでは無い。


「最後に一つ、お前たちはコズモス上でバラバラの地点に転移する。ある程度は固まっているが、みんな一緒に、という訳では無いのでよろしく」


 それだけ言ってテオスは消え失せた。すぐにあの耳障りなキィィィィンという音と黄色っぽい空気とともに、哲郎たちは気を再び失った。

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