第二十七話 水車
パン職人は「こんな白いパンは見た事が無い」と言いながら白パンをちぎって哲郎とロタールに渡した。
哲郎はパンを口に入れた。黒パンよりは柔らかい。それに酸味が弱くなっていた。まだ現代日本で売られていたパンとは程遠いが、これは紛れもない白パンだった。
「おお、これは柔らかい!」ロタール村長は驚いて声を出した。「普通のパンとは違うな」
パン職人もそれを見て白パンを食べ、「少し甘いようですね」と言った。
「酸味が抑えられていますから」と哲郎が答えると、ロタールは「これは宴会に出すべきだ」と言った。
「では、収穫祭で出しましょう」とパン職人が答えた。哲郎はそんなパン職人を見て、レンバー領のパン屋より遥かに好感度が高いな、と思った。よく考えれば当たり前である。レンバー領のパン屋は領主からパン焼き窯を借りており、かなり領民からは領主の"犬"として見られていたが、ここでは皆が平等なのである。
パン職人は哲郎に、「一体どのような小麦粉を使ったんです?」と問うた。哲郎は「篩でふるい分けたんですよ」と答えた。職人が詳細を知りたがったので哲郎は篩をロタールの家から持って来て、「これです、良ければ差し上げます」と言った。パン職人は喜び、哲郎に礼を言った。哲郎は、
「他に困っている事などはありませんか?」
と聞いた。パン職人は、
「困っている事かどうかは分からないが、最近小麦粉が少なく、それでよく粉屋と争いになる」
とこぼしたので、哲郎は「考えて見ます」と答えておいた。
哲郎は帰る途中で粉挽き小屋を見た。彼の頭の中には早くも考えが浮かんで来た。
翌日、哲郎はロタール村長に「粉屋に会いたい」と伝えた。村長は快諾し、粉挽き小屋まで案内してくれた。二人で中に入ると、薄暗い所で粉挽きが薄いビールを飲んでいた。
ロタールが「おい」と話し掛けると、粉挽きはこちらを向いて「何だ」とだけ答えた。
「こいつが新しい水車を開発したんだ」
粉挽きは哲郎のほうを見た。「この坊主がか」と彼は呟いた。哲郎は、
「開発した、と言うよりは新しいアイディアが浮かんだだけですけれど」
と言い訳するように答えた。 粉挽きは、
「説明しろ」
とだけ短く言った。
「今の水車は川の水面に触れてそのまま回っているものですよね?」
「ああ」
「それだと効率が悪いので、このようにします」
哲郎はそう言って、木切れで地面に図を書いた。
哲郎が考えたのは、「中射式水車」という水車の仕組みである。水車には「上射式」「中射式」「下射式」とあり、この順に威力が大きくなる。上射式が一番効率が良いが、水門などが必要になり大がかりになるが、中射式では堰を設けるだけで済むのだ。
「……という風になります」と哲郎は説明を終え、粉挽きを見上げた。彼は「うむ」と言ったきり黙っている。
「どうでしょうか?」
「やってみたらどうだ、奴が許可しているんだろう」粉挽きは村長のほうに目をやりそれだけ言うと、向こうを向いた。
「……では」
哲郎はどこかもやもやしながらも出て行った。
下射式水車は堰を作れば中射式に改造出来る。哲郎はまずは堰を作るための材料を探す事にした。あの無口な粉挽きが許可を出したんだ、何だってやって良いはずだ、哲郎はそう思っていた。





