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第二十六話 ふるい

 ロタール村長は、眼下に広がる風景に見とれていた。シノザキという男が勧めた「重量有輪犂」というものを実験的に導入してみた所、効率が上がったのだ。

 その時、彼の隣に哲郎がやって来た。


「どうです? これで生産力向上が見込めると思うのですが」


「ふむ、確かによく耕せているな」


「ええ、あれを作った事で教会から文句を言われたんですがね」


「教会、か。……この村にも聖職者が居るから、聞いてみるか」


 哲郎は内心でまずい、と思った。これでまた悪魔に認定されたら堪ったものでは無い。

 しかし彼の心配は杞憂に終わった。聖職者は、「神のお怒りに触れていないようなので大丈夫です」と快諾したのだ。哲郎は安心した。





 そして、哲郎は今は木の枠に布を張っていた。彼は今は村長の所に置いてもらっていたが、少しでも役に立つことをしたいと思って働いていたのだ。それが終わった後、哲郎は村長にこう申し出た。


「小麦からパンを作る時、扇いで藁などを飛ばしていますよね?」


「うむ」


 パンを作る時に藁が入っていてはならないため、そのようにしていたのだった。


「あれをふるいでふるい分けてはどうでしょう」


 哲郎は白パンを作ろう、と考えたのである。

 この世界で主に食べられているのは黒パンである。黒パンはあまり細かくふるい分けをしていないため、ふすま――麦の実の皮の部分――などもパンに入っており、そのため黒くなっている。一方で白パンはほぼ不純物の無くなった状態のため白いのである。黒パンのほうが栄養価は高いが、現代で食べられているのは白パンが多い。要するに玄米と白米の違いのようなものである。


「ふむ、しかしどのような良い事があるのか?」


「今までより、白く、柔らかくなります」


「食べやすくなるな」


「ええ、それに見映えも良くなります。小麦のパンはいつも食べている訳ではありませんし」


 そう、小麦のパンはもともと宴会などでよく出されるのである。


「ふむ、よし、やってみろ」


 ……というわけで今に至るのである。


「ロタールさん、ふるいは完成しました」


「よし、小麦粉をふるい分けよう」


 ふるい分けた後には、かなりの量のふすまなどが残った。ロタールは「これは後で黒パンに混ぜる」ととっておいた。この村ではパンは質より量なのである。

 哲郎達はサラサラの小麦粉をパン職人の所に持って行った。ロタール村長が説明したため、パン職人は了解してパンを焼き始めた。


「これで、白パンが出来るでしょう」


「ふむ。君もなかなか面白いことを考えるな」


「後はひたすら農地開拓ですね」


 哲郎は生産量を上げるには農地の絶対的面積を増やすべきだ、と考えた。もちろん農具や農法の改良も大事ではあるが、そもそも畑が狭ければ話にならない。このため、彼は毎日開墾に(いそ)しんでいるのだ。

 開墾作業は非常に大変である。木を斧で切り倒し、(くわ)で土を堀り起こすのであるが、木の根が曲者(くせもの)だ。鍬で叩き切るようにして取り除く。少しやっただけでも汗びっしょりである。哲郎はもともと運動神経が悪く、体力も無かったのであるが、こちらの世界に来てから一年程経った今ではそこそこにはなっている。そんな哲郎でも苦労する作業なのである。

 やがて同じ村の男がやって来た。哲郎より遥かにムキムキである。


「よう、いつも大変だな」


 哲郎は「ああ」とだけ答えた。


「荒れ地を開墾する事は、そんなに大事なのか?」


「生産量を増やしたいだろう、そのためには土地が必要だ」


「でも、今ある土地で充分じゃないか?」


「僕達はより良い暮らしをすべきだ」と哲郎は答えた。「実際、飢えて死ぬ事もあるだろ」


「うーん」と、男は唸った。「でも、余るだろ」


「売れば良いさ」と、哲郎はその時初めて手を止め、男のほうを向いた。


「……売れるのか? 辺りに村はないだろ?」


「聞いていなかったのか? 僕は別の村から来たんだ――7日程かけて。だから行けるはずだ」


「なるほど、それはそうだ。その話はもう村長にしたのか?」


「いや、まだだ」


「早くしろ」


 そこに村長が「パンが焼けたぞ」とやって来た。

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