第二十五話 毒キノコ
草原に入った哲郎は、やはり歩き続けた。時折、数本の木が集まって生えているのが見える。
草原ではさらに食べ物が少なくなった。哲郎はキイチゴなどが多く採れた時は残して持ち歩いていたが、やがてそれも尽きた。
その時、哲郎はポケットの底にあるマッシュルームもどきの存在を思い出した。
哲郎がポケットに手を入れると、小さいキノコが出てきた。かなり萎びている。空腹でどうしようも無かった哲郎は、それを口に入れた。
……味はごく普通のキノコだった。少し癖があるが、美味しかった。
哲郎はそれ以来、マッシュルームもどきをも食べるようになった。
そして、あの時がやって来たのである。
哲郎はその時、酷い空腹に悩まされていた。ここ数日というもの、食べるものが無かったのである。時折視界の端を走り去る小動物に苛立ちを感じていた。ああ、あれを食べられれば――しかし、彼は血抜きが出来ない。
その時、彼はキノコが生えているのを見付けた。マッシュルームに似ているが少し違う。同じような見た目で、鮮やかな色もしていないため哲郎はそれを口に入れた。そしてまた歩き続けた。
それから一時間程だろうか、とにもかくどれくらいか経った時だった。
哲郎は軽いめまいを覚えた。
初めは少し目の前がぼんやりとし、頭がくらくらとする程度だったが、だんだんそれは酷くなり、やがてめまいと言うよりは幻覚のようなものが見えてきたのだ。
目の前の木が歪んで見える。草が風になびいているのが、地面自体が動いているように見える。頭がガンガン鳴っている。哲郎は思わず地に手を着いた。間違いなく、先程のキノコの毒だ――そう考えると死ぬのではないかと恐ろしくなった。今、自分はどうしようも無い孤独感に包まれている。
哲郎は汗びっしょりだった。もしかすると自分は脱水で死ぬかも知れない――哲郎は川の水を飲んだが、すぐに嘔吐した。自分は何としてでも生きる必要がある。何故かは分からないが、哲郎は謎の信念を持って水を飲み、吐き続けた――――。
哲郎が目覚めたのは、小屋の中だった。少し頭がくらくらするが、それだけだった。どうやら自分はあの後気絶していたようだ。そうすると、ここは? 哲郎は辺りを見回した。
そこに、男が入って来た。
男はこちらを見て、
「生きてるぞ」
と外に声を掛けた。外からは
「ほう」
と声がした。哲郎は身を固くした。まさか、盗賊か?
直ぐに小屋に声の主が入って来た。哲郎を見ると、
「大分顔色が良くなったな」
と言った。哲郎は
「はい」
と少し怯えながらも答えた。男は、
「俺達は悪い奴じゃない」と言ったが、哲郎が信用しないのを見て、
「お前がキノコにやられていたから運んで来たんだ」
と言った。
「それはありがとうございます」
「まあ、あのキノコはよく間違えて食べる奴がよくいるからな」
「そうですか。……ところで、あなた方は誰ですか? ここは何処ですか?」
「ほう、しかし先ずはそちらから自己紹介を頼む」
「分かりました。僕はテツロウ・シノザキという者です」
「何処の領地に居たのだ」
これではまるで尋問では無いか。
「レンバー領です」
「何故このような所に居るのか」
「追放されたからです――新しい農具を開発して」と哲郎は答えた。
「ふうむ。俺達はフォンカー領民の生き残りだ」
「生き残り?」
「昨年、戦争があっただろう、あれの生き残りだ。昨年の冬からここに住んでいる」
「成る程、それで僕は」
「うむ、ここに置いてやる」
「そうですか、ありがとうございます」
「俺がこの村の村長、ロタールだ」
「宜しくお願いします、ロタールさん」
「うむ。……ところで、お前は前の領地で新しい農具を作って追い出されたと聞いたが――」
「それを教えろ、ということですか」
「そうだ」
哲郎は考えた。どうせここに置いてもらうのだ。それなら存分に技術力を上げ、"強い村"を作ろうではないか。
「ええ、良いでしょう。職人を呼んでもらえますか?」
「すぐに呼ぼう」
ロタール村長はそう言うと出て行った。





