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閑話 黒田の場合

前話がそのまま投稿されていました。すみません。

 黒田(くろだ)真実(まみ)は、あの謎の自称神に対して悪態をついていた。

 彼女を含むクラスメートのうちの十人ほどは、まとまって転移した。彼女らは、とある都市の中のどこかに突然転移したのである。幸い夜中だったので、人の目は無かった。彼女らは口論した。


「僕たちには一体何が起こっているんだ」と細縁の眼鏡をかけた男子が言う。


「どうせあの『神』とやらにいろいろされた結果がこれなんだろ」と別の男子が答えた。


「どうやったら帰れるの?」と女子の一人が不安そうに言った。


「ここは地球じゃないぜ」とさっきの男子が吐き捨てるように言った。「何だか、ラノベみたいな展開だな――」


「うん、これはラノベだ」と別の男子が答える。本人は否定しているものの、彼は典型的なオタクであった。


「じゃあ仮にこの世界が『ラノベ』とやらだとしよう。でも、僕たちはどうすれば良いんだ?」と細縁眼鏡が苛立ったように言う。


「決まってるだろ、冒険者ギルドに行くんだ」とオタクが答えた。


「冒険者ギルドか、確かに名案だな」と先ほどの男子も加勢した。


「何だって――」


「ねえ、もう不毛な争いはやめて」と女子が彼らを止めた。「冒険者ギルドがあるなら、一体どこにあるの?」


 これには誰も答えられなかった。

 この時、今まで黙っていた真実が口を開いた。


「あんたたちはバカなの? 教会に行けば何かあるでしょ」


「そうだな」と何も言わなかった男子のうちの一人が言った。そうだ、黒田が正しい、と他のクラスメートも加勢する。しまいには男子三人も折れて、


「仕方無いな、先ずは教会に行こう」


 と合意した。





 しかし、教会では彼女らは、門前払いされてしまった。そこには司祭の他に司祭の一つ上の立場である司教が滞在していたが、司祭は司教と話し込んでいた。何故かずっしりと重い袋を持っていたが……詳しく追及はしないでおこう。ともかく、彼らは教会においてもらえる事にはなった。

 その日、彼女らは街に出掛けた。教会の菜園などで手伝いをするだけでも良かったのだが、もっと良い仕事がないか――そう思ってのことである。

 しかし、そこで彼女らは恐ろしい光景を目にした。





「水が落ちるぞ!」


 少し離れたほうから声がしたのである。彼女らがそちらを見ると、


 ジャバアァァァ!


 何やら茶色いものが家の窓から捨てられていた。通行人は避けて歩いているが、不運な事にそのうちの一人にそれがかかってしまう。しかし彼や他の通行人は「運が悪かったな」程度の反応だった。真実たちはそれを見て絶句した。


「あれは……あれは、()()じゃないか」


 男子のうちの一人が声を絞り出した。細縁眼鏡が目を見開いて頷く。一瞬遅れて、


「うわあぁぁぁ! 何なのこれ!」


 女子のうちの一人が叫んだ。真実も、


「臭っさ!」


 と叫んだ。

 オタクが身を翻してもと来た方向に駆け出した。他の皆もそれに続く。細縁眼鏡はしばらくその光景を見つめていたが、逃げ出した。真実も最後に走り出した。信じられない。あんな汚い事をするなんて。これじゃ、仕事どころの話じゃない――。





 教会に帰ると、皆が突然の出来事に顔面蒼白で震えていた。先ほどの男子が彼らを落ち着けている。真実たちも到着し、全員が集まると、細縁眼鏡の男子が口を開いた。


「みんな、今回の事は大変だった。転移してから今までで起こった事を見るに、」男子はここで口を切って皆を見回した。彼は勤勉なほうだった――「今までで起こった事を見るに、この世界は、地球でのいわゆる"中世ヨーロッパ"では無いか、と思うんだ」


 誰も反論しない。この世界は世界史の授業で聞いた内容がおおむねそのまま反映されていた。やがて別の男子が言った。


「じゃあ、俺らはどうすればええんや」


 これには真実が答えた――と言うよりは、皆に呼び掛けた。


「みんな、この状態から脱するべきでしょ?」


 これには全員が同意した。


「じゃあ、私たちでこの状況を何とかすれば良いんじゃ?」


「あっ」


「私がここの領主に掛け合ってみるから、――そうだ、あんたが良い」


 と真実はある女子を指差した。


「え?」


 呼ばれた女子――長谷部(はせべ)(あき)と言う名前だった――は面食らった。


「あんたは可愛いから、領主の所に行って、お願いして来て」


「でも、長谷部さんに、何かあったら……」と細縁眼鏡が言い淀んだ。


「そうなるかも知れないけど、みんなのためなの。お願い」


 と真実は懇願するような表情を顔に貼り付けて言った。


「は、はい……」


「ありがと」


 かくして一人の女子が領主のもとに向かう事になった。真実はそれを見て、上手く行った、と独り嗤った。

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