第十八話 三圃制
投稿を忘れていたようです、すみません。割り込み投稿とさせて頂きます。
「三圃制?」ブルーノはおうむ返しに繰り返した。
「ええ」哲郎は答えた。「今までと少し畑の使い方が違います」
「ほう」
「今までは二圃制――つまり、耕地と休耕地を毎年ごとに入れ替えて使う方法ですよね」
「うむ」
「三圃制というのは、秋耕地、春耕地、休耕地の二つを毎年ごとに入れ替えて使う方法なのです」
秋耕地は春に種蒔きをする土地、春耕地は秋にに種蒔きをする土地である。
「ふむ、なるほど。して、その三圃制というものにはどのような利点があるのかね」
「ええと、まず秋耕地では普通に小麦などを育てるのですが、春耕地では今まで菜園などで育ててきた燕麦を育てるのです」
「燕麦は確かに家畜の餌にはなるが、それ以外に利点はあるのかね?」
「はい、あります。燕麦は育てるのにあまり栄養を必要としません」
「栄養とは?」
こう問われて、哲郎は返答に窮した。栄養とは、などと尋ねられて的確に答えられる人は一体どれくらいいるだろうか。
「……要するに、土が元気になる、という事です」
「元気になる、か」
「栄養の少ない土地は痩せています」
「ううむ……なるほど。だいたい分かった」
「さらに、休耕地では増えた家畜を放牧します」
「ほう、よく考えているな」
実際には哲郎では無く昔のヨーロッパ人が考え出したやり方なのであるが、やはりこれを言われて哲郎は少し嬉しくなった。
「さらに、土地を今までより細長くします」
「なぜだ」
「重量有輪犂は方向を変えるのが大変なため、土地を細長くして一回の耕運の時間を長くするためです」
「確かに、それは合理的だ」
「ええ」
「よし。この方法は実践してみるとしよう。先ずは私の直営地からだ」
その時、「よろしいのですか? このような男の言う事を信じても」とルッツが領主に進言した。領主は、
「うむ、もしこのやり方で問題があったとしても、私の直営地が被害を受けるだけで済む。その分税を釣り上げれば良いだろう」とにやりとして言った。そして哲郎のほうを向いて、
「従って、来年の税の高い低いはお前にかかっている。他の領民に迷惑を掛けたく無ければ、真剣に取り組め」と命令した。哲郎は「分かりました」と答えておいた。
哲郎は帰宅してから、マキシミリアン達に三圃制に関して説明した。マキシミリアンは、
「お前の言っていた『土地の再区画』というのもこれかい?」と哲郎に問い掛けた。哲郎ははいと答えて、
「これからは耕し方も領主の命令によって変わって行くと思います」
と付け加えた。
マキシミリアンは、
「これで生産量が増えるのかね」
と哲郎に訊ねた。哲郎は肯首して、
「燕麦は育てていますよね?」
と問うた。マキシミリアンは頷き、哲郎は、
「それは良かった」
と安堵した。





