第十六話 承諾
哲郎は突然の展開に面食らっていた。強制的に連れて来られ、懐柔するかのような口ぶりで尋ねられた後に厳しく問い詰められ、そして今度は頼み込むように言われている。これは一体どうやって答えれば良いのか、哲郎には分からなかった。哲郎が困惑した表情をしていると、
「それが出来ないならば、せめて構造について教えてくれないか」
とブルーノが畳み掛けてきた。
「わ、分かりました。少し考える時間を頂けないでしょうか」
「うむ、良いだろう」
哲郎は考えた。ここの領主はどちらかと言うと自分の直営地だけ収穫量が多ければ後はどうでも良い、と考えているように見える。哲郎は領内の皆が幸せに暮らせるようにしたい――少なくとも建前はそう思っている。この領主はそのように権利を独占したりしないだろうか。約束させればどうにかなるかも知れない――哲郎はその希望に賭けた。
「分かりました。僕の挙げる条件を守って下されば重量有輪犂の作り方ばかりか、更に増産する方法もお教えしましょう」
哲郎はこの機に三圃式農業も広めてしまおう、と考えた。領主の力があれば出来るに違いない。
「ほう、してその条件とは何かね」
「それは……このやり方により発生した利益を独占しないので欲しいのです」
「利益を独占、か」
「この方法で税を取ったりせず、領民たちにもその方法を広めて欲しいのです」
「ううむ……なるほど。つまり、この方法は皆で共有すべきであると」
「ええ」
「良いだろう。まずは君のためにこの館に部屋を用意するから――」
「いいえ、結構です」と哲郎は断った。ハンスやハンナ、そしてマキシミリアンたちと共に過ごす生活は決して楽では無いが、楽しいのだ。それに中世ヨーロッパの貴族の料理は冷たく、栄養バランスも良くない。この時代ではむしろ農民・農奴のほうが食事面では健康的なのだ。
「そうか、それは残念だ」とブルーノが答えた。「それと、『さらに増産する方法』というのはいつ教えてくれるのかね」
「この方法は畑の使い方を変えるやり方なので、まだまだ後になるかと」
「ほう、畑の使い方を変えるとな。それは面白そうだ」
「では私はこれで」
「待った、有輪犂はどうする」
「職人を召し抱えておられるのでしょう?」
「うむ」
「では明日作り方をお教えします」
「分かった、では明日またここに来るのだぞ。それと、税は払わんでも良い」
「ありがとうございます」
「今日はこれでな」
哲郎は今までずっと黙っていたルッツと共に退出した。彼は館の門のところで哲郎に耳打ちをした。
「くれぐれも領主様のご機嫌を損ねるな。もし損ねたら、命は無いと思え」
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