第十四話 新たな動き
神聖ロム教皇国にあるレンバー領の六代領主、ブルーノ・レンバーは近頃農奴たちが新しい農具を使うようになったという噂を聞いた。領主直営地で賦役労働をする時は使っていないが、彼ら自身の畑ではその農具を使い、非常に効率よく畑を耕しているらしい。
ブルーノは怪訝に思った。彼の農奴たちは完全にこの領内だけで暮らしており、ここから出ることはない。つまり彼が農奴たちに新しい情報や道具を提供してやらなければ、農奴たちは"無知なまま"生きていくはずなのである。
彼は新しい農具というものをまだ見たことがない。実際彼はその農具の存在すら知らなかったのだ。彼ですら知らないことを、どうして農奴たちが知るであろうか。
彼は彼の臣下のひとりである、ルッツという男を呼んだ。ルッツはやって来て、
「どうなさいましたでしょうか」
とブルーノに問いかけた。ブルーノは答えた。
「いや、最近新しい農具を農奴どもが使っておると聞いてな、それに関して聞きたいことがあるのだ」
「はい」
「農具の名前は何と呼ぶのか」
「私の記憶が正しければ、有輪犂、などと称していたはずですが」
「ふむ。して、それはどの者が開発したのか? もし外から情報が伝わって来ているのなら、領地の門の警備が足りておらぬ事になる」
「確か、農奴のうちの何者かが作り出したしたとの事です。名前など詳しい事は存じません」
「なるほど、下がって良いぞ」
ルッツは退出した。ブルーノはこの事態を重く見ていた。今までは農奴たちは自分たちの畑でも領主直営地でも同じ農具を使って耕していたが、今では自分たちの畑でのみ便利な農具を使っている。効率が違うのだ。
ブルーノは日頃から賦役労働に関して頭を悩ませていた。賦役労働は領主にとって利点だらけだが、農奴たちにとっては利点がまるで無いため、農奴たちは賦役をサボる事も多かった。遅刻して来たり、言う事を聞かなかったり、なかには半日穴を掘り、残りの半日でその穴を埋めて一日の賦役労働の時間を過ごすものたちもいた。
ブルーノは、この新たに出てきた「有輪犂」とやらが賦役の問題を少しは改善してくれるかも知れない、と思った。思い立ったが吉日、彼はすぐにルッツを呼び戻し、有輪犂の開発者を出来るだけ優しくここに連れて来るよう命じた。
「出来るだけ優しく、ですか」
「うむ、下手に暴力を働いて機嫌を損ねると良くないかも知れぬ――何しろこのような犂を生み出すのだからな」
「分かりました、行って参ります」
こう短く言うと、ルッツは彼の主人のもとを去った。





