第十一話 さらなる改造
翌日、ハンスと哲郎はマキシミリアンに有輪犂を広めることに関して相談した。マキシミリアンはもちろんと答え、スピラ家に一緒に向かった。
スピラ家には主が居た。マキシミリアンは彼に、
「犂に車輪を付ける気は無いかい?」
と唐突に話しかけた。スピラ主人は面食らって、
「それはまた、どういう風の吹き回しだね?」
と問いかけた。マキシミリアンは有輪犂を見せて、
「これを使うのさ」
「ほう、どこにそんな物が」
「うちの小僧が考えたのさ」とマキシミリアンは自慢気に哲郎を指さした。スピラ主人は「こんな若造か」と言った。マキシミリアンは笑って、
「この犂は非常に便利だぞ。俺も使ってみたが、耕しやすかった」
スピラ主人はほう、と言った。哲郎は「もっと改良する事も出来ますが」と付け加えた。マキシミリアンは、
「それなら改良してくれないか」と言った。哲郎は答えた。
「分かりました、仕組みとしては、ここに縦向きに並んだ刃、ここに横向きの刃、ここに撥土板……」
「いや、君から職人に説明してくれないか」
「分かりました、それでこの有輪犂は」
「取り敢えず使ってみてくれ」とマキシミリアンは有輪犂をスピラ主人に渡した。スピラ主人は奥に入って行った。しばらくしてから出てきて、
「少しは耕しやすくなったかも知れんな」と答えた。マキシミリアンは、
「よし、ならまた職人が暇になってから頼め。俺はこの小僧を職人の所に連れていく」
スピラ主人は家の中に入って行った。哲郎はマキシミリアンと共に有輪犂を持って職人の家に向かった。マキシミリアンは、
「あいつ――スピラの奴――は少し気難しい。根は良い奴だからな、あれは良い反応だった。これをお前の思うように改良したいならすれば良いと思うぞ」と哲郎に話しかけた。哲郎は頷き、二人は職人の家に向かって行った。
職人は二人の来訪を知ると、すぐに招き入れた。マキシミリアンは職人にこの有輪犂を本格的に領内に広めることとともに、哲郎が有輪犂を更に改良すると言っていることをも教えた。職人はそれを聞いて、
「なるほど、面白そうだな。俺としても興味がある。だが問題は暇があるかだな……」
と答えた。
「これを作れば増産に繋がるんだぞ。重苦しい十分の一税や領主への地代に喘ぐ必要も無くなるんだぞ」とマキシミリアンは煽りたてる。そうしつつ片方の目では哲郎の方を向いて「そうだよな?」と圧を掛けている。哲郎は「は、はい」と答えるしか無かった。
職人からしてみれば、魅力的な条件だった。今まで足枷となって来ていた税が楽に納められるようになるのである。最終的に彼は引き受けた。
哲郎は職人の所に残って、有輪犂の作り方を教えた。犂にはナイフと呼ばれる刃の部分、シェアと呼ばれる刃の部分、モールドボードと呼ばれる撥土板がある。ナイフは犂が進むと共に引きずられ土に縦向きに切れ込みを入れる。シェアは逆に横向きに切れ込みを入れる。こうして寸断された土壌をモールドボードがひっくり返す事により、深い所まで耕せるのである。といった事を職人に教えると、「よくそんな事を知っているな」と驚かれた。
職人が急いで作ったので、鉄が必要な一部を除いて完成した。鉄が必要な刃の部分は職人が一人で作るというので、哲郎は帰宅した。
家にはマキシミリアンがおり、哲郎にそろそろ種蒔きをする季節だ、と哲郎に教えた。哲郎はにんまりと笑った。





