第十話 有輪犂
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ドアのない入口からかすかに光が差している。哲郎は藁のベッドから床へと降り立った。今日は有輪犂を受け取りに行く日だ、そう考えただけでもワクワクする。
マキシミリアンを始め、他の家族も起きてきた。珍しく早起きな哲郎に皆が目を見張る。マキシミリアンは苦笑いした。
朝食の後、哲郎はマキシミリアンと有輪犂を取りに行った。
哲郎は、道を歩いている間、物思いにふけっていた。有輪犂で増産しても、貧乏から脱出する事は出来てもそこから更に発展して行く事は領主の協力なしには難しい。一方領主が新参の哲郎に気を許すか考えてみると、答えはノーでしか無い。農奴に権力を持たせるのは、奴隷に武器を持たせるのと同じで危ないからである。そもそも領主は哲郎と面識がない。結局のところ、マイナスをゼロにする事は出来てもゼロからプラスへと転向させる事は無理なのではないか――哲郎の頭の中でそのような考えが鎌首をもたげた。
やがて職人の家に着いた。職人は中で有輪犂を手にしている。哲郎は頭の中の重い考えを振り払って、有輪犂を見た。
「これが注文の犂だ」
「ありがとう」とマキシミリアンは言い、パンを手渡す。ここでは貨幣の代わりにパンが使われているのだ。哲郎は以前見た、電力供給が一切ストップしライフラインが停止する映画を思い出した。そこではお金に全く価値は無く、全て物々交換だったのだ。
哲郎とマキシミリアンは犂を引いて家へと戻った。家に着くと早速牛に付けてみる。牛は季節外の仕事にとまどった――少なくともそう見えた――が、犂を引き始めた。今までのガタガタとした引き具合ではなく、ゴロゴロと動いていく様子にマキシミリアンは舌を巻いた。彼は急いで牛の後を追って行った。
マキシミリアンはこの結果に喜んだ。哲郎ももちろん嬉しく思ったが、もっと改良が必要だ、と考えた。やるからには最後までやり遂げなければならない。哲郎は次の犂の案――重量有輪犂について考えていた。
有輪犂を作ってから1週間ほど経った。哲郎が夕暮れ時に家の外を眺めていると、ハンスが隣に来て座った。ハンスは哲郎と同じ方向を向きながら、哲郎に話しかけた。
「兄貴、あの犂作ってくれてありがとな」
哲郎はそう言われると嬉しくなって、「どういたしまして」と返した。
「兄貴のお陰で耕すのが楽になりそうだ」
「それは良かった」
「兄貴」とハンスが話しかける。
「どうした」
「この方法を皆にも教えないか」
要するに、領内の農奴たちにも教える、という事である。哲郎は少し考えて、言った。
「いいんじゃないか、教えても」
この事で領主に目を付けられる恐れもあるが、どうせ遅かれ早かれ目は付けられる。なら領内の村人たちに広めても良いはずだ。
「ありがとう、兄貴」
「いやいや。それより、どうやって教えるんだい?」
「普通に――まずは隣のスピラ家の連中に」
「なるほど、良いんじゃないか」
哲郎はそう短く答えると、家に戻った。ハンナたちが食事を作って待っていた。





