04 名前は玖珂子、あだ名はクガコ
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次のシーン『二人語り』
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僕は砂浜で謎の女に出会った。
いきなりお前呼ばわりする女だと、僕はムッと来て言い返したが、いつの間に口喧嘩になった。
その時の描写は思い出すのも嫌だから省くが、とりあえず僕の身に覚えのない悪口まで言ってきた。
と、口喧嘩が収まり、一息を付く事になる。
そこで改めて自己紹介。
どうやら謎の女の名前は『玖珂子』と言うらしい。
「クガコでいいぞ」
「同じじゃん」
「同じではない。玖珂子は名前、クガコはあだ名だ」
「あだ名じゃないだろ、それ」
「私を侮辱する気か、お前。謝れ!」
「え?・・・いや・・・ごめん」
ものすごく怒ったので、謝る。
・・・なんとも変なところに逆鱗を持っている奴だ。
で、次。
クガコは『壁』に手を当てると、質問してきた。
「お前はこの壁がなんだかわかるか?」
「知らん」
「即答だな・・・」
「本当のことさ。僕はこれについてさっぱり分からない」
「これについて研究しているのではないのか?」
何故、僕が研究員だと知っているんだ?教えてないぞ。
ふと疑問に思ったが、考えてみると此処あたりに住んでるのは、ほぼ研究員だ。地元の人も居ることは居るが、とある理由で壁付近に家を構える事がない、この『壁』際でうろちょろしてるのは研究員くらいなものなのだ。別に彼女がそう思っても仕方ない。僕だって彼女が研究員だと思っている。
「確かに研究はしてるけど、分からない事だらけさ。知ってる部分よりも知らない部分の方が絶対的に多い、それでこの『壁』についてわかっていいるつもりになりたくないね」
「なかなか身の程を弁えているな」
「なんで、僕を攻撃するような言葉でいうかな・・・」
「お前と向き合うとこうなる。ムカつくんでな。気分を悪くしたか?それは失礼しない」
「失礼しろよ」
「これだけは変えられん。我慢しろ」
無茶苦茶だな、おい。とりあえず僕が穏健派なことに感謝しやがれ。
なんかこのまま話をしなくてもいい気がする。
でもあれだ。一期一会なんて四文字熟語もある。
これも何かの運命なんだろう。それに最近、玖珂やその居候であるエイボン、そして『壁』の向こうの彼女以外に話した事が此処最近ない。考えたらそれが原因だったのだろう。少し他の刺激が欲しいと思い、僕はクガコに聞き返していた。
「だったら君はわかるのかい?この『壁』について?」
「お前の持論で言えば、わからない。だが、なんだかんだでいろいろと知っている、と云った所か」
「ふ〜〜ん」
やはり彼女は研究員なんだろう。僕達の研究より進んでいるという事は、相沢教授か、ラスコット博士の研究所だろうか。
・・・なにか面白そうな事を聞けるかもしれないな。
しかし相手が簡単に話すだろうか?研究所の奴らは自分達の成果を隠したがる連中だからな。
う〜む、どうやったら聞けるだろうか?
やっぱ話術?・・・いや、僕にそんな力があるかどうか・・・・。
と、僕が勇気の一歩踏み出すのを覚悟する前にクガコは言った。
「どうやら、お前は私の知ってる事について興味があるらしいな」
ふふん、と鼻で笑うように言ってくる。
「むっ・・・」
「顔に書いてある。分かりやすいな」
「よく言われるよ、それ。ところで教えてくれるのか?」
「お前に教えるのは癪だ。だが、情報と引き換えってところで手を打とう。私自身、今後の方針を決めあぐねていたところだ。お前の話が参考になるかもしれん。正直、行き詰っているのだ。お前と話すのは嫌だが、これも仕方ない」
はて、考えたら彼女自身、他の研究所のスパイじゃないだろうか?まぁ、情報と引き換えなら別にいいか。でも、僕達が既に得ている情報なら交渉は決裂だが。
「そんなに嫌なら、なんで僕に声を掛けたのさ?」
「それは私にも分からん。お前を見たら、何故か近づいていた。もしかしたらこの手が、お前を殺せと啼いているのかもしれんな」
怖い事を言うな。
まぁ、私も殺生はしたくないから、殺らんがな、とクガコは言う。
「実は危険な人?」
「お前よりは安全だ」
どう云う意味だよ、それ。
僕の睨む目も気にせず、クガコは話を続ける。
「お前としてはどうだ、この壁壊せるか?」
「それは無理だ。まずこの『壁』がどのようできているかわからないんだ。壊しようがない」
「物理的衝撃で壊そうとは思わんのか?」
「それは無理だと証明されている。昔・・・、米軍が壁に数十発のミサイルを撃った。でも『壁』は壊れはしなかった。それだけの強度なんだ。この浜辺を見て気づかないか?『壁』の向こうと比べてこっちの方が浜の幅がでかいだろ?」
「つまりこの場所にミサイルが撃たれたのか」
「その通り。陸地があった方が調査がしやすいとかの名目さ。だがこれは腹いせに決まっている。『壁』の研究は日本が一番進んでいるからね。この『壁』と接触できる大きな土地は日本とオーストラリアだ。アメリカとしては歯がゆかったんだろうね。それにこれは周知の事実だけど海上では核を使用した噂がある」
「周知の事実である・・・噂」
「アメリカは強大だよ。我侭で凶暴な猫だ。誰も真っ向から歯向かおうとは思えない。皆、あんな猫は嫌いさ。・・・・でも分かったろ?ちょっとやそっとやもっとで破壊不可能なんだよ」
「成る程、それは無理か・・・」
「?」
何でだろう、この『壁』を研究する者ならこれは既に当たり前だ。何故、彼女は初めて知ったかのような反応を示す?
「ではお前ではこの壁は破壊できないのだな?」
「ん?・・・あぁ・・・、そう云う事だ」
僕の思考は途中で引き戻された。
そして僕は少しでクガコへの疑問を晴らすように問いかける。
「で、でも・・・、あんたなら出来るのかよ?」
クガコは少し考え、
「ふむ、実際、破壊してみろ、と云うものは無理だ」
「だろうね・・」
しかし、だが・・・、クガコは続ける。
「私の考えが正しければ、破棄は不可能でも消すことが出来る」
「・・・・・・・・・・・・」
僕はその言葉で驚くことは無かった。
今まで、幾度と無く『壁』を破壊すると豪語した者は出てきたが、全て失敗しているのだ。
僕も何回かその無謀者を見てきた。
そんな僕を見て、クガコは言う。
「まぁ、信じられはしないだろうな。よろしい、指導を始めましょう」
「指導?」
なんか玖珂と同じようなこと言いやがる。似てるのは名前だけじゃないのかよ。
クガコは『壁』をこんこんと叩き。
「この壁は触れる。つまり物理的に存在している。物理的なものは絶対に壊れる」
「でも、壊れないじゃないか」
「・・・いちいち口を挟むな、お前。まぁ、いい。その何故壊れないか?それから話を展開する。では、言ってみろ。物が壊れる原因は何故だ?」
と、僕を指差す。
いきなり指された僕は驚く。
「え?あ・・・そうだな。とりあえず2つ、1つはさっきの話であった物理的な手段。物質には硬さがあるから、壊すなら硬さが勝るものをぶつけるといい。でも、別に硬いものが最強という訳じゃない。物質には脆さがある。硬いものほど、柔軟さがなくなっていくし、実質、ふにゃふにゃなゴムをビルから落としても壊れない。でもゴムよりも硬い花瓶とか落とすと壊れる。それにダイヤモンドだって鉄鎚で砕ける」
「では2つ目を言ってみろ」
「2つ目は、時間だ。物も歳をとっていく。物は朽ちていく。どんなものにも寿命はあり、永久の存在は存在しない」
「その通りだ。では答えは簡単ではないか」
「簡単・・・・どこが・・・。―――――んっ・・・いや、そんなの有り得ない。しかしこの話の流れからすると・・・」
クガコの話し振りから僕は1つの結論を出した。
でも、この結論には致命点がある。
「いや、お前のその考えでいい。やはり、頭の回転はいいな」
「最後の言葉は余計だ。でも、その考え方は駄目だ。それこそ魔法やら超術的なことに頼なければならない。それにそんなもの存在しない」
「何を言うか。超術的な事なら、今お前の前に存在しているではないか?」
クガコは馬鹿にするように『壁』を指す。
「これが現れたこと自体既に超術的だ。この壁が壊れない理由・・・それはこの壁の『時』が止まっているからに他ならない」
「む・・・」
「認めろ、これが現実だ」
にやり、と腕を組み、僕と対峙するクガコ。
この時、僕は彼女がなにかかけ離れた恐ろしい存在だと思った。
私も違う存在だよ、そう言っているかのように・・・。
怖かった。
だが、僕は言葉を放つ。もしかしたら声は震えていたのかもしれない。
「なら、そんな事誰がやったんだよ!?あんな『壁』を作るなんて!」
「さぁね」
クガコはあっさり言い放つ。
しかし続けて、
「因みにこれは魔術とかではなく、まさしく魔法。魔法なんてものを使えるものに私は成り得ない」
「魔法・・・」
「そうだ。そしてこんなことが出来るのは、まさしく限られている」
と、クガコは内陸の方を見た。
そこにはちょっとした林がある。
そしてその林からは1頭の猿のような生き物―――ドジュヒビが僕達を見ていた・・・・・・。
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おやおやおや、いきなり壁の核心に迫ったね。
なんともせっかちな人物だね。あのクガコと云う人物は・・・。
それになにやらこの壁を壊すつもりだね。・・・いや、無くすと言ってもいいかな。
彼女ならやってしまうかな?
まぁ、もう少し動いてもらおうか
おっと、どうやらエイボン君の方でも結構物語が進展してるね。
なになに・・・、ふむ。彼らもまた壁の秘密を知ったかな?
まぁ、あの小さいお譲ちゃんは既に気付いていたみたいだけどね。
では、少し壁の秘密について補正をつける為、次のシーンに行って見ようか。
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道化語りシーンその2「思考道化(エイボン・玖珂)」
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「時間軸?」
私の言葉をエイちゃんは反復する。
「そ、時間軸。エイちゃんがまとめた結果は時間軸を基準にした電子の移動結果。つまりそれから分かる事は、時間が経っても、電子は移動していないって事」
「確か、電子ってのは動くものだったよな・・・」
「そう、完璧な絶縁体でなければ電子を止めておくのは不可能。そしてこれは動いていない。電圧を与えても動かない」
「じゃあ、それってどういうことさ?」
「エイちゃん、訊く前に考えようよ・・・」
「いや、俺も少しは考えたんだぜ。一瞬でさ・・・」
「一瞬じゃ意味ないよ。じっくり考えて」
エイちゃんは前髪を弄り始めた。
一見ふざけて見えるが、これはエイちゃんの熟考スタイルだ。
そして、
「いいや、わからんな。とりあえず回答教えろや」
「エイちゃん、君って本当に私の生徒としての自覚ある?」
「なにを愚問な・・・」
つまり思ってないわけか・・・。
「とても不服だけど、まぁ、教えようか」
「おうおう」
「簡単な事だよ。時間が変化しても電子が動かない。でも電子は動く。なら逆に考えて、電子が動いてないのは時間が動いていない証拠」
「ちょっとまて、時間が動いてないのか?」
「そうそう、そう考えてもいい結果だよね。信じられない?」
「いや・・・、まぁ信じられないというか一般論としては異常論だよな」
「そうだよね。でも、私としてはこんな理論も普通に考えられるのもエイちゃんの影響なんだよ?不思議な力は絶対的に存在する事を私に証明したのはエイちゃん自身」
「確かにそうだが・・・」
「魔法は実在する」
「俺のは魔法じゃない。魔術だ」
エイちゃんは訂正する。
しかし、私にとって魔術も魔法に見える。
エイちゃんが私に見せた魔法は私に衝撃を与えた。
そして見惚れた。
一面を覆いつくす花・・・。
「あまり魔術の所為ばかりにしてはいけないと思うぞ」
「でも、あの『壁』はどう考えても魔法としか考えられないよ」
「魔法じゃなくて魔術な・・・・。ん?―――あれ?」
「どしたの?エイちゃん」
ふと、エイちゃんは前髪を弄り始める。暫くして前髪をぴんっと弾く。
「実際、あれは魔法かもな」
そんな事を言った。
「あわ?なんかさっきと違い肯定的だね」
「ん、別にあれが魔道で創られたのは否定しないさ。それに確かにあの壁は魔法でできている。魔術と違ってな」
「うに・・・、魔法とか魔術なんて関係ないと思うけどね、私」
「大いに関係あるさ!」
エイちゃんは大きく手振りをして訴える。
とりあえず、ここまで。
少しクトゥルフ神話について調べたりしますので、こっちのほうがゆるゆる連載になると思います。
あと、報告書や作文用の原稿やらが溜まっていて、そっちの処理もします。