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02 壁と2人と魔王

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 始まり語りのシーンその1『鎖守・??の視点』

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 僕―――名前は鎖守。鎖守とは名前だ。苗字はなんか僕が名前負けしてる所為で語りたくないのだ―――はいつもの日課として研究所での仕事を終わらせると、近くにある海岸へと足を向けた。

 少し乾燥した地面、しかし海と面する浜はさらさらな砂だ。

 僕は黄昏がかる地平線を見ながら、そして海沿いに歩き始める。

 時計を見ると、そろそろ時間だ。

 いそがなければ、彼女が待っている。

 彼女は『待つ』のが嫌いだ。

 怒らせたら、機嫌を直してもらうのに一苦労する。

 

 歩きながら、その向こうを見る。

 そこには晴れた空。

 だが、空は分かたれている。

 雲は途中で斬られたかの如く、空中で綺麗に無くなっている。

 まるでそこに壁があるかの如く、それ以上進めないでいるのだ。

 

 いや、壁があるかの如く―――ではない、そこに在るのだ。

 

 『断たれているようで断たれていない世界』(イフ・インヴァイティング・イズ・ワールド)


 赤道と直交するかのように存在する透明な『壁』

 材質は不明。しかしガラスではなく、アクリルに近いものがある。厚さは約5m、高さは大体地球の大気圏を付き抜ける位、よって登って向こう側に渡ることは不可能。

 あちらへ行くには宇宙へと上がるしかないが、幾度とそれに試みた者は壁を越えようとした瞬間、行方不明になっている。

 この壁が発生したのは約500年前の1500年頃だ。

 

 僕はこの壁を調査する研究チームの一員として来ていた。

 といっても、僕が助手をしている玖珂教授に連れて来られたのだが・・・。

 玖珂は量子力学専攻でかなりの権威であるが、そこ事が学会からは毛嫌いをされている理由にもなっていた。

 若いながらにして博士号を複数取ったことから『神童』と呼ばれている所為でもあるが、問題は玖珂の興味を引くモノにある。

 玖珂は時空を超える研究をやっているのだ。

 空間を裂き、時間をも越える研究をしている。

 つまるところタイムワープをする研究だ。

 そりゃ嫌われる。

 学会の異端児なのだ。

 そんな奴になぜ僕が助手をしているかって?

 そりゃ・・・アレだ。

 

 クジ運が悪かった。

 

 僕が大学の研究室に入る時、倍率の高い研究室を選び、それに敗れた。

 そして他の研究室にも応募を出したが、すべて外れた。

 残ったのは玖珂の研究室だけだった。

 他の連中はすべて他の研究室に入ったので、僕一人だけ玖珂の下へ行く事へとなったのだ。

 これが始まりだった。

 僕自身、頭がいいと自負できる。というか、大学トップ?主席?なんで僕は優遇されないんだ?

 僕が研究室に入ってから、何故か玖珂に気に入られた。

 話が分かる奴とでも思われたのだろうか?

 確かに、僕としての持論を言ったりし、それが玖珂には面白かったらしい。

『ユニーク・・・・そう、変なのよ!なのよ!』

 あんたに言われたくない。

 僕はその言葉を自分の腹に留めず言ってやった。

 叩かれた。

 別に痛くは無かった。

 非力だった。

 研究チームはつい最近、僕より年下でまだ高校生くらいの少年がメンバーに入った。

 玖珂が連れて来たのだ。

 どこかで拾ったのだろう。

 あまり深くは追求しないが、何かしら秀でたものがあると信じたい。

 

 と、歩いている内に『壁』に来たようだ。

 壁の向こうを見る。

 そこにはいつ見ても不思議といえる光景があった。

 向こうの地面は白く覆われているのだ。

 そう、雪だ。

 いつ、いかなる時もあちら側は冬なのである。

 これはまだ学術的に解明されていない。

 だが、あちら側はいつも冬であり、雪が定期的に振るのだ。

 僕の居るこちら側はちゃんと春夏秋冬があるのに・・・。

 と、あちら側から誰か歩いてくる。

 目を細めて確認する。

 分厚いコートで身体を覆っている人影。

 その人物の口からは白い息が出ている。

 雪が降っていないので、頭までは覆っていない。故にその人物の顔を確認できた。

 彼女だ。

「どうやら僕の方が早かったらしいな」

 と、僕はカバンの中からいつものものを取り出す。

 スケッチブックとマジックだ。

 僕はなれた手つきで文字を書く。

 そして書き終わり、彼女が壁際まで来たのを確認、スケッチブックを見せた。

『こんばんわ』

 彼女はふ〜ん、と言うような顔で同じくスケッチブックとマジックを取り出し、

『・・・』

 返事した。

 手抜きだ。

 そして彼女は手早く続きを書く。

『べ、別にめんどくさかったわけじゃないんだからね!・・・ちょっと貴方を困らせたかっただけなの!!』

「・・・・・・」

 僕はしばらく黙り込み、またスケッチブックに書く。

『そんな無理矢理なツンデレは期待してないよ』

『そう?』

 彼女は即効で言葉を返す。

 大体の言葉はスケッチブックに書き置きしている。そうした方が会話が少しでも円滑に進むからだ。

 一年以上の付き合いで培った知恵。

 そういえば、僕は彼女と出会ってからもう一年か・・・。

 しばらく僕達はたわいも無い筆談をした。

 そしてその後は壁にもたれ、ただぼ〜と空が暗くなるのを見るだけだ。

 僕達は何も言わない、ただ、二人が背をあわせて座るように壁を挟んで空を見る。

 僕は暖かい風を感じながら、

 彼女は冷たい風を感じながら、

 ただただ見る。

 この時、僕は何度も彼女の手を握ろうとする。

 だが壁に阻まれる。

 この壁は僕と彼女との物理的な距離でもあり、心理的な距離でもあるかのように遮る。

 『なるようにならない壁』(イフ・ナッシング・イズ・ウォール)

 僕はこの壁にそう命名したい。

 いつかこの壁を無くし、そして彼女と触れ合いたい。

 考えれば、それこそ未だに玖珂の後に付いている理由なのかもしれない。

 僕は立ち上がる。

 空が暗くなったからだ。

 振り向くと彼女も立ち上がる。

 これは合図。

 僕達は『さようなら』と書いてあるページまで捲り、彼女に見せる。

 そして僕は彼女の小さくなる背を見えなくなるまで見送るのだ。

 これが僕の日課。

 後は帰って寝るだけ。

 そして明日は始まる。

 いつもの日常。

 変わりない日常。

 変わらないからこその日常。

 打破したい日常。

 壁のある世界・・・・・・それが日常。

 そして日常が今日も終わる。

 

 

 だが、今日は終わらなかった・・・・・・・・・・。

「お前、飽きないな」

 一人の女性が僕に声を掛けて来た瞬間、日常は、非日常へと変わる。


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 始まり語りのシーンその2『玖珂子の視点』

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 林の中を歩く。

 その横には不自然な壁が立っていた。

 私は透明な壁に手を当てながら思考する。

 この世界はやはり異常である。

 最初、この壁を見たとき核心した。

 こんなものは普通、存在しないものだ。

 自然にできるものではない。

「だとしたら誰かが作り出した・・・と考えるべきなのでしょう」

 始めにあいつとの関係を疑った。

 だが、あいつにこのような能力はない。

 ガサッ

 突然、木の陰から動物が出てきた。

 大きさは大体子供程度の猿のような生き物だ。

 その背中にはまるで翼になろうとするかのような肩甲骨が飛び出ている。

 『ドジュヒビ』

 この生物の名前である。

 しかし、このような生物、普通は生息していない。

 ・・・生態系も変わっている・・・。

「これは『世界』ではない。ただの『はさみ板』だ。だがこれが在るお陰で世界が2つの世界を造ってしまっている。・・・こんな高度な魔法は初めて・・・、いったい誰が?」

 魔術ではなく魔法・・・、これはその域だ。

 データにある人物からそれができるような者を検索。

 2人該当

「丸々・罰と丸々・丸・・・・」

 しかしこの2人はこのような世界矛盾を拒む。

 これは絶対世界基準だ。

 どんなに分岐しようとも変わらない事実。

 むしろこの壁を無くす活動をするはず。

 それに第一、丸々・罰はこの世界に存在しない。

 これは確実。

 丸々・罰がいる世界はこのようにはならないのだから・・・・。

 また隣接する世界との同調具合が可笑しい。

 まるっきり同調していないのだ。

 sinやcosのような非同調ではない、まるでtanのようだ。

 つまり、そこから考えれるのは―――、

「この世界に分岐は存在しない・・・」

 私の生まれた世界と同じだ。

 この世界に『もしも』は存在しない。

「さて・・・どうしたものか」

 此処に居る私の標的は既に標的ではなくなっていた。

 長居する必要はない。

 直にこの世界から立ち去り、任務を続行するだけなのだ。

 だが、私の何かが訴える。

 これは放って置くな・・・と。

 今までに感じたことのない不快感。

 そして禍々しいが目に見えるほどに存在する壁。

 この世界は正常に戻すべきだ・・・。

 既に戻したところでtanは元のsinにもcosにもならないが、新たなsin、cosにはなる。

 可能性が生み出される。

 やらなければ・・・。

 後ろから押されるような使命感ではなく、中から出てくる決意。

 気が付くと、歩き始めていた。

 そして海岸へと出る。

 目に広がるのは、分かたれた海と砂浜。

 そして・・・、壁を見つめる一人の青年。

「あいつは・・・まだあそこに居たのか」

 知っている。

 いつも一人の女性に会いに来る男だ。

 私がここに来てはや21日、毎日此処に居る。

 私は歩く。

 その青年に向かって歩く。

 関係ないと無視しようと思っていたのだが、無意識に足を進めていた。

 本当はただの興味本位なのかもしれない。

 壁の向こうの女性を想う青年への興味。

 そして、

「お前、飽きないな・・・」

 声を掛けた。

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