表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

96/130

17話。侯爵は言い忘れた。内密にな、と

文章修正の可能性あり

神城から報告を受けたラインハルト。そしてラインハルトから報告を受けた王や宰相にとって驚愕の出来事が発生した日の翌日。


アモー男爵はラインハルトに伝えたように、先輩ことアンネに挨拶をするため、ローレン侯爵家を訪れていた。


「どーも先輩。ご無沙汰しております」


「久しいなアヴェ。しかし……」


「しかし?」


「勇者の召喚に合わせて貴様も帰還したとは聞いていた。にもかかわらず今頃の挨拶とは、随分つれないのではないか?」


「ハハッ。いくら王都に戻されたと言っても、男爵に過ぎない俺がそう簡単に公妃殿下である先輩に御目通りできるはずないじゃないですか」


「む。それはそうか」


王都に居ながら、今まで自分に挨拶をしにこなかった理由を問いかけたアンネに対し、アモー男爵はあっさりとその理由を明かす。


実際問題、アンネが軍の司令官として王都に帰還していたのなら、アモー男爵も引き継ぎや報告という形でアンネに挨拶をすることができただろう。


しかし、彼女は公妃としての振る舞いを求められて王都へ帰還しているのだ。

つまり、今のアンネの立場は連合軍の指揮官ではなく、公妃、つまり公爵の妻という、王国でも指折りの貴人である。


よってアモー男爵の立場では『現場指揮官として帰還の挨拶をすることもできなければ、貴族としての挨拶も難しい』というわけだ。 


今回の挨拶はラインハルトから許可を得たからこそ実現したものであり、そうでなければ、アンネがアモー男爵を呼び出すか、自分からアモー男爵を訪ねなければ顔を合わせることもできなかったであろう。


貴族とは、かくも面倒で回りくどい生き物なのである。


そんな面倒な生活習慣はさておくとして、アモー男爵がアンネを訪れたのはこのような面倒な手順を踏まされた愚痴を垂れるためでもなければ、アンネの愚痴を聞くためでもない。


「ま、挨拶はこんなもんでいいでしょう。それで? 単刀直入に聞きますが、先輩はどうするおつもりなんです?」


「ん? 何がだ?」


「いや、惚けなくていいですよ。俺が知る先輩なら、たとえ軍務卿が何をお考えだろうと自分が蚊帳の外に置かれて黙っているとは思えない」


「???」


アモー男爵が確認をしているのは、当然昨日ラインハルトから告知を受けた『魔族との一騎打ちについて、アンネはどう動くのか?』ということである。


彼が知る限りアンネという女性は歳だの現役を引退しただのといった理由で一騎打ちから逃げるような性格はしていない。


第一、今のアンネは若いころのアンネよりも強いのだ。


確かに単純な勢いは衰えたかもしれない。しかしそれ以上に経験と落ち着きを得たアンネは、個人としても将帥としても間違いなく王国最強の騎士なのである。


よってアンネがその気なら、アモー男爵が自分の名代として魔族の武闘派と一騎打ちをすることなど絶対に認めないはず。


だが、それではアモー男爵の立場が無い。


「でもね? もし先輩に動くつもりがあったとしても、俺の出番を奪ってほしくないんです。と言ってもどうせ聞いてもらえないでしょう? だからせめて先輩が動く前に俺にも連絡を入れてもらって、前座でも良いから一枚噛ませてほしいんですよ。そう思ってこうしてお願いに上がった次第でして」


軽薄そうに見えてアモー男爵も一人の騎士である。ラインハルトに語った『王国の騎士はいつまでもアンネ一人ではない』という気持ちに嘘はないのだ。


「? まてまてまて」


「はい?」


本気で「自分にも出番をくれ」と嘆願するアモー男爵。しかしアンネにはなんのことかわからない。

それも当然と言えば当然である。


なにせ元々が昨日偶発的に判明したことであるうえに、神城も、ルイーザも、マルレーンも、ラインハルトも、アンネにこの件を教える気がないのだから、この時点でアンネが知っているほうがおかしい。


「アヴェ、貴様なんの話をしている? ラインハルトが私を蚊帳の外に置いている、だと? アイツはまた神城殿の作る薬を隠匿していたのか?」


「は? 薬? ……そう言えば、少し前に中々いい感じのブツを軍務卿の配下の方から頂きましたが、アレは先輩向けじゃないでしょう? それとも先輩もお目覚めになられたんですか?」


「……私は貴様の趣味にどうこう言うつもりはない。賛同するつもりも、な」


「そりゃ残念」


アモー男爵が言う『いい感じのブツ』を彼に提供したラインハルトの配下とはマルレーンのことであり、その内容についても報告を受けていたアンネは、眉を顰めながらアモー男爵の意見を否定する。


そもそもアンネが己の後継者としてアモー男爵を認めたのは、その腕っぷしの強さと自分に対しても態度を変えないふてぶてしさを買ってのこと。彼の、私生活については一切関与していないし、する気もない。


良い意味でも悪い意味でも、だ。


自分の言葉を聞いて肩を竦めるアモー男爵を見て、アンネは更に問いかける。


「で、ラインハルトが私を蚊帳の外にしているとはなんだ? あいつがお前の趣味に賛同していると言うなら別に止めんし関わる気もないが、貴様はそれに私が関わると確信しているだろう? ……私が貴様の出番を奪うとはなんのことだ?」


四〇を過ぎた弟がアモー男爵と同じ世界に行くことには多少思うところもあるが、すでに後継者であるルードルフも居る以上、アンネとしても個人の趣味に五月蠅く言うつもりはない。


まぁ妻であるヒルダがどう思うかは知らないが、その辺は夫婦の問題だ。


だが、アンネがアモー男爵の言い分を聞く限りでは、どうもアモー男爵は自分が積極的に前に出ようとすることを疑っていないのである。


事情を一切聞かされていないアンネからすれば「なんの話をしている?」と、アモー男爵を問い詰めるのも当然と言えよう。


「ん? あれ? 先輩、もしかして本気で聞いてます?」


「あぁ。先ほどから貴様が何を言わんとしているのかさっぱりわからん。私が関わらん軍事機密なら聞こうとも思わんかったが、どうも様子が違うようだな?」


ここでラインハルトが犯した失策が表面化してしまう。


問い詰められているアモー男爵も、アンネが本気で自分に問いかけていることを理解すると共に、ようやく『アンネがこの情報を知らない』という意味に気付き、その表情を曇らせる。


ラインハルトの失策。それはアモー男爵に口止めを行わなかったことだ。


「(……もしかして軍務卿は本気で先輩を蚊帳の外に置く気だった?)これは、拙いことしちまったかもしれんなぁ」


普通ならアモーとて軍事機密に相当する物事をペラペラと吹聴したりはしない。だが相手は己の前任者であり、軍務卿の姉である。


その彼女が『軍事に関わることで知らないことがある』などと、想像するほうが無理というものだろう。


そう自己弁護をしながらポリポリと頭を掻くアモー男爵を見て、アンネは自分の知らないところで『何か』が起こっていることを確信した。


「なるほど」


同時に、ラインハルトがその『何か』から自分を遠ざけようとしていることも、だ。


そこまで理解すれば話は早い。


ガシッ。


「え?」


アンネはアモー男爵の意識の隙をつき、まず最初に彼が逃げられないように肩を掴むと、ここ最近の手入れによってツヤとハリを取り戻しつつある表情に満面の笑みを浮かべながら、アモー男爵へ優しく語り掛ける。


「さて。それでは詳しい話を聞かせてもらおうか。あぁ、無論私は無理やり貴様から軍事機密を聞き出そうとは思ってはおらんぞ? なにせ今の私は一介の公妃にすぎんのだからな。……故に、貴様が、快く、話してくれることを、切に、願うだけ、だッ」


「あ、アハハハ。一介の公妃なんて言葉、初めて聞きましたよ(おいおいおい。軍務卿、死んだな。 つーかよぉ先輩に話されて困るってんなら、しっかり口止めしろよな!)」


「そうかそうか。私が初めての相手でよかったな。ではその調子で情報提供を頼むぞ。なに、時間はいくらでもあるからな。共に朝を迎えようではないか」


知りたいことが有るなら聞けば良い。なにせその『何か』を知る人間は今、己の目の前にいるのだから。


「じ、情熱的なお誘いですね」


流石の青薔薇も、薔薇を踏みにじる力を持った女帝を相手にしては分が悪い。


自分の肩を掴んで、ニ゛ッ゛ゴリ゛とほほ笑み、徐々に握力と圧力を強めてくるアンネの貌を見たアモー男爵は、これからアンネに吹っ飛ばされることになるラインハルトに心中で謝罪するとともに、己に口止めをしなかったラインハルトの迂闊さを呪うのであった。



関係者一同が内密にしようとしていたことが翌日にバレるの図。


侯爵「このことは内密にな」

男爵「内密、です」

↑上記のような会話がなければ、男爵が話しても仕方ないね!ってお話







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
>同じ作者の作品になります、宜しければ閲覧お願いします
偽典・演義
風神天翔記
鉱山(やま)の氏理
異世界アール奮闘記
書籍版1巻、発売中です!
★Web版との違い★
約二万字の加筆・修正の他、ご購入者様限定のSSなどありますので、お手にとって確認頂ければ幸いです
書影

ツギクルバナー
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ