15話。貴人の情報はとても大事
サブタイが思い浮かばんッ!
文章修正の可能性有り
「と、まぁこんな感じでねぇ」
「そうですね。最近は落ち着かれておりますけど、溜まっているものがあるのは、最近坊ちゃんを殴りつけているときの力の入れようを見ればわかります。この分ではいつ前線に飛び出そうとするか不安で不安で……大奥様も気を揉んでおられますね」
「……はぁ。それはまた、なんと言いますか」
マルレーンとルイーザから、お嬢様ことアンネ・フォン・ミュゼルシュヴァイクの話を聞かされた神城はそう答えるしかなかった。
(と言うか、坊ちゃんって侯爵のことだよな? 殴りつけられているのか? 普段から? 家臣の目の前で? 侯爵家の当主であり軍務卿だぞ?)
二人の様子を見遣れば、自分たちがおかしなことを言っているという自覚は見られない。
つまり侯爵家の面々にとって、姉であるアンネが弟であるラインハルトを殴りつけるのは日常茶飯事だということだ。
(こちらから触れるのは悪手か)
この問題は賛成しても反対しても侯爵家に睨まれることになる。
家庭内暴力に晒されているラインハルトの扱いに思うところが無いわけではないが、家庭内のことだからこそ他人が首を突っ込んで良いことでもないし、何より立場上知らないほうが良いこともある。そう判断した神城は、これ以上侯爵家の内情に触れることを止めることにして、話を前に進めることにした。
「公妃殿下については承知しました。では次回ヴァリエール殿らが来た際には、私は公妃殿下が現役を引退していることを告げたうえで、その後継者であるアモー男爵を推せば良いのでしょうか?」
「私としては是非そうしてほしいところです。それはローレン侯爵家だけでなく、お嬢様の嫁ぎ先であるミュゼルシュヴァイク公爵家も同じ気持ちでしょう。しかし、国や軍部としてはどうかと言われると……」
「確かに難しいところですね。いや、アタシとしてもお嬢様の名を出すよりは良いと思いますけど、はっきりとしたことは言えません」
「何か問題でもあるのですか?」
「問題って言うか、外聞の話だね」
「外聞、ですか?」
「そうさ。大事だろう?」
「まぁ、そうですね」
身分制度が常態化している環境では、外聞は大事どころの話ではない。
日本で言えば、武士は外聞を守るためだけに切腹することもあったほど、外聞というのは重要なものだ。
ちなみに、準男爵であるマルレーンの口調がルイーザに対して丁寧語なのは、アンネの親友であり幼馴染として育てられたマルレーンも、幼少の頃からルイーザの薫陶を受けていたからである。
幼少期に厳しく躾けられたうえに、ルイーザ自身がフリーデリンデの側近であり、更に更に彼女の娘も侯爵家に仕えていたり、子爵家に嫁いでいたりすることなどから、侯爵家家中に於けるルイーザの序列は非常に高いので、マルレーンがルイーザに丁寧語を使うのは当然のことと言える。
ちなみのちなみに神城に対してタメ口なのは、神城が「公の場以外では畏まる必要はない」と伝えたことや、彼女自身の気風もあるが、それ以上に「普段から近しく接していたほうが娘のマルグリットも距離を詰めやすいだろう」という打算があってのことである。
閑話休題。
「いいかい? 元々お嬢様は公妃殿下だからこそ王の代理として戦場に立てたし、連合軍の指揮官としても認められていたんだよ? 対してアモー男爵はただの男爵でしかないんだ」
「あぁ。なるほど。つまりアモー男爵には国家を代表する権利が無い。それなのにフェイル=アスト王国最強の騎士を名乗られても、国内外に説得力が生まれませんか」
「そういうことだね」
アンネは個人の実力だけでなく、立場的な強さも備えていたからこそ近衛騎士団長と並ぶ『最強』足り得たのだ。しかしアモー男爵にはそれがない。
そんなアモー男爵のことを、第三国の外交官である神城が勝手に『王国最強』として紹介した場合どうなるか?
直近で考えられる問題としては、アモー男爵がアンネの代わりに魔族の標的にされる可能性だろう。
直近に拘らなければ、アモー男爵の風下に立つことになる王国内の貴族による反発も考えられるし、連合軍に参加している面々が『【女帝】の温存か?』と勘繰ってしまい、結束が乱れる可能性まである。
実際そこまで問題が発展するかどうかは不明だが、少なくとも神城はこれから前線の国家のほとんどが敵視している魔族との交渉を行おうとしているのだ。どれだけ警戒をしても『過ぎる』ということはない。
「で、あれば私は世間話の一環として公妃殿下が引退していることと、現在は『その後継者と目される人間がいる』と言うことだけを伝えたほうがよさそうですね」
「……大して違わない気がするけどねぇ」
「いえいえ。この場合、私が明かすのは『【女帝】の後継者』ではなく『ただの強者の情報』ですからね。誰にも迷惑は掛かりませんよ」
「そんなもんかねぇ? ま、その辺は坊ちゃんと調節してくれれば良いと思うよ」
「了解です」
事が外交の問題となれば、使用人に過ぎないルイーザや、護衛に過ぎないマルレーンには神城に意見することはできなくなる。せめて王国に迷惑が掛からないようにしてくれと頼む程度だ。
「あぁそれと……」
「はい?」
「お嬢様にこの話が伝わらないようにしてほしいねぇ」
「いや、それを私に言われましても……」
現状神城は、ルイーザやマルレーンを介してアンネやフリーデリンデといった女性陣からの注文を受け付けているのであって、彼自身にアンネと直接連絡が取れるパイプは存在していない。
よってこの話が漏れるとしたら神城からではなく、ルイーザやマルレーン。もしくはラインハルトの周囲からという話になる。
そして、もしラインハルトの側から情報が漏れた場合は、神城としても「知らんがな」としか言いようがないわけで。
「あぁ、ちなみに、ちなみにですよ?」
「ん?」
「公妃殿下にこのお話が伝わったらどうなるんです?」
「「…………」」
「……そうですか」
聞くな。
ルイーザとマルレーンから向けられた視線から、神城はアンネという女性がどのような女性なのかを漠然とながら理解することになる。
……そんな姉を持つラインハルトの苦労も理解できたような気がした神城が(早く胃薬を作ろう)と決心したのは、ラインハルトにとって数少ない福音と言えるかもしれない。
取り敢えずこんなところでこの話題は終了の予定です。
後は侯爵家の問題ですからね!(丸投げ)
神城君は取り敢えずの情報収集をすると同時に、今後の話の持って行き方を決定しましたってお話。
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