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7話。晩餐会の前のお話②

なんやかんやで軽食として出されたのは定番のサンドウィッチっぽいものと少量の葡萄酒だった。葡萄酒はしっかりと寝かせていたところを見ると、確立された酒造の技術もあることはわかった。


問題はこのサンドウィッチだ。


マーガリンやバターはもちろんのこと、パン生地もふっくらとしてるし、挟まれたハムや野菜の味を活かす分だけの香辛料を用いている。その上で見た目も洗練されており、貴族が食していてもおかしくはないくらいの技術が込められているのがわかる。


更に名称もサンドウィッチらしい。


俺はこのパンの存在や調理法もさることながら、サンドウィッチと言う名に注目した。それは何故かと言うと、サンドウィッチと言う名前は元々イギリスの伯爵の名前を(もじ)って作られたものだからだ。


つまりこの料理にこの名前を付けている時点で、俺たちより前にこの世界に召喚された人間がいるってことはほぼ確定したわけだ。(異世界翻訳が勝手な仕事をしていないと言う前提条件があるが)


そうなれば話は早い。あとはその召喚された前任者が生きているか死んでいるか、この世界にどんな情報を残しているかと言うのが重要になる。


とは言え、俺に付けられたメイドさんを見れば、俺の目論見は十中八九上手く行くと思っている。


ちなみに少し見た感じだと、男性にはメイドさんっぽい人が付き、女性には執事さんっぽい人が専属で付けられているようだ。


このことから、向こうの意図するところを考察すると、彼女たちは間違いなくハニトラ要員かと思われる。もし手を出したら責任を取らせる形で囲い込むか、適当な理由をつけて糾弾とか処刑するための口実にするんじゃないか?


こう考えればハニトラと言うよりは美人局(つつもたせ)と言った方が、より危機感を感じることが出来るな。


しかも勇者君や聖女さん、剣聖さん、賢者さんには同性の相手が付いたことから、彼らに対しては単純な手ではなく、慎重な囲い込みを狙っているようだ。


俺は関わる気が無いけどな。


で、俺に付けられたメイドさんも、ハニトラ要員として付けられているだけあって非常に見目麗しい容姿をしている。


身長は160前後、髪の色は黒で長さはセミロングくらいだろうか。それを今は後ろで纏めている感じで、体型はシックなメイド服の上からでもわかるくらいの豊満さと、女性らしい細さを両立させたモデル体型の黒髪美人さんだ。(……ウエストに関してはコルセットで補整しているのかもしれないが、そこには触れないのが男としての常識であろう)


うむ。こんな美人さんに迫られたら、普通の男子高校生なら迷わずルパンダイヴを決め込むことだろう。


しかし俺とてこれまで36年生きてきたのだ。そうそう簡単にハニトラに引っかかってやる気はない。


なので今のところ彼女の本来の仕事については「あきらめろん」としか言えん。


俺とて流石に初手で詰むわけにはいかないからな。つってもあくまでハニトラだの美人局は俺の勝手な憶測だから、現状では何も言えないけど。


そんなこんなでとりあえずの目処がたったので、あとは晩餐会を待つだけとなった俺が向こうの事情などについて色々考えていると、部屋の入口付近に立っていたメイドさんが耳に手を当てて何やら呟いているのが見えた。


思春期の男女が罹患する例の病気……ではないよな。


俺は彼女が魔法かそれに準じた技術による通信を受けているのだろうと予測する。そしてその予測は正しかった。


「晩餐会の準備が整ったようです。これよりお客様を会場へご案内いたします」


通話を終えたメイドさんが、俺に対して一礼をしながらそう伝えてきた。


「よろしくお願いします」


ここで抵抗しても無意味だし、なにより俺にとってこの晩餐会がこれからの異世界生活の全てを決めると言っても過言ではない。


そのため、下手な言質を与えたり妙な注目を集めることが無いよう、無言で、粛々と晩餐会の会場へと向かう彼女の後ろに続く。


少し歩くと、前に召喚された少年少女たちがゾロゾロと列をなして歩いているのが見えた。彼らは意図的に一纏めにされているのだろうか? それともそれぞれのメイドや執事っぽい人たちが示し合わせて集まるように調節したのだろうか?


そんなどうでも良いことが頭をよぎる。


いかんいかん。俺にとって重要なのは『俺がどう生き残るか』であって、彼らのことを気にしている余裕など無いんだ。


もしもここに俺の心を読むことができる人間がいたら『最低なことを考えている』と軽蔑されるかも知れない。


しかし、だ。現状では俺に他人に構っている余裕が無いのは事実だし、そもそも彼らだって今が危険というわけではない。


彼らは普通にしていれば普通に抱え込まれ、普通にレベルアップでもなんでもしてから普通に戦に駆り出されるだけの話だ。そこに俺が介入する余地は無い。


戦うのが嫌だと言うなら、戦わずに済むように動くべきなのだ。それをせずに身内で固まったり、メイドさんや執事っぽい人に(うつつ)を抜かすのなら、その後のことは自業自得と言うべきことでしかないじゃないか。


それなのに、俺になんの責任があるって言うんだ?


ついでに言えば、彼ら少年少女たちを導くのは教師である木之内さんの仕事であって部外者の俺ではない。向こうだって、出入りの業者でしかない俺に意見されたところで素直に聞くはずもないからな。


……誰に言い訳しているのかもわからないが、とにかく俺は己の中にあった後ろめたさを消し、自分が自由に生きるための第一歩を踏み出す決意を固めたのであった。

料理に使われる技術と香辛料で、その国の豊かさの度合いがわかりますよね。ってお話



――――


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