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2話。王国上層部の動き

文章修正の可能性あり

「……なるほど、それで、神城は『魔法による戦闘を主体とする部隊を差し向けるべきだ』と言ったのだな?」


『えぇ。魔法も使える勇者はさて置くとしても、間違っても剣聖やクレーン技師は出すなって話でした』


「……そうか」


(まさか魔王軍の狙いがそんなところにあったとは)


神城との話を終えたマルレーンからの緊急連絡で、神城の『魔王軍の目的と対策についての考察』を聞いたラインハルトは、その内容に反論の余地を見いだすことができなかった。


元々勇者の戦争利用に消極的な彼個人としては、現時点で勇者一行の心が折れようが勇者一行に嫌われようが別にかまわないのだが、国家の威信という観点で見れば、そうも言ってられないのが現実である。


(流石に、お披露目を行ったばかりの勇者が早々に脱落するのはまずい。いや、脱落ならまだしも亡命されては、な)


最悪、勇者が戦闘に敗れて死ぬのは良いのだ。


その場合は周辺国から「勇者を成長させる前に殺した」と批難されるかもしれないが、そういったケースはこれまでもあったことだし、元々勇者を召喚するのに使われたのはフェイル=アスト王国の大地の力なので「王国が阿呆な真似をして勝手に弱体化しただけの話」として纏めることもできるだろう。


だが勇者が逆恨みして王家に牙を向けるのは頂けない。


それも、直接的に暗殺に来るのならそのまま殺せば良いだけの話だが、周辺国に亡命した場合は非常に困ることになる。


亡命された国は喜んで勇者を迎え入れるだろう。そうして彼らの敵意を助長させたうえで抱き込んで自国の戦力にしたり、こちらに残った勇者一行の引き抜き工作を行う際の交渉材料として利用してくるはずだ。


なにが悲しくて多大な労力と大地の力を使ってまで異世界から召喚した勇者を周辺国にくれてやらねばならないのか。


さらに問題なのが、それを画策しているのが魔王軍であるという事実であった。


彼らが単なる威力偵察ではなく、離間の計を併せた複合的な策を練ってくるなど、フェイル=アスト王国だけでなく、人類が統べる国家にとって完全に想定外の事案だ。


「報告ご苦労。神城は他になにか気になることは言っていたか?」


『いや、話を聞いてすぐに報告に来ましたんで、なにか追加があるようなら連絡します』


「うむ。そうしてくれ。私はこれから陛下に報告に上がる。不在の際は秘書官に……いや、私以外には絶対に伝えるな。緊急の場合は陛下との会議中でも構わんから私を呼ぶように言え」


いくら秘書官が信用できる人間とは言え、脅されるなり魔法で無理やり情報を引き出されることもあるのだ。故に、軍事機密に関する事柄を早々に広めるような真似は控えるべき。


軍人としての常識に則った命令を下すラインハルトにマルレーンは一言『はいよ』と答え、通信を終えた。


……もしラインハルトが「秘書官に伝えるように」などと言っていたら、マルレーンは間違いなくアンネにその旨を報告していただろう。


そして報告を受けて弟の迂闊さを知ったアンネは『この、ど阿呆がぁぁぁぁ!』と拳を握り締め、ラインハルトに折檻を加えていたはずだ。


元々は神城を試す意味でマルレーンを通じて魔王軍の行動を伝えたラインハルト。しかし、常に周囲から試されているのは彼も同様なのであった。




~~~



「……ほう。つまり、此度の魔王軍の狙いは我々の戦力調査や教会勢力との不和を招くだけでなく『勇者の心』を攻めること、だと?」


「はっ。神城が言うには『今の勇者には【苦戦する強敵】よりも【弱いがただひたすら汚い雑魚】を宛てがうのが最も効果的』とのことでした。私には今までその視点はありませんでしたが、それを教えられた今となっては私もその策が非常に有効だと考えます」


自分とて腐肉の処理などしたくはない。なにより、あの、ラインハルトをして『地上で最も危険な生物』こと、アンネですらアンデッドの相手は嫌がるのである。


それが戦闘の心構えもできていない少年少女なら、尚更心にクるものがあるのは確実だろう。また、初陣の戦闘の際や、戦闘の後に兵士の心が折れるというのはよくある話だ。


加えて、ただでさえ被害者意識が強い子供が、その戦場に己を差し向けたことを逆恨みする可能性は決して低くない。


そんな神城の考察はフェイル=アスト王国の軍人の意表を突いたものであるが、紛れもなく的を射た意見であると、ラインハルトは認めざるを得なかった。


「……騎士団長はどう思う?」


「はっ。確かに未熟な騎士や民兵の中には、アンデッドという存在に感じる生理的な嫌悪感だけでなく、毒や病気、さらにその臭いなどが原因で心を病む者もいます。さらに初陣は心を病みやすいものです。よって初陣にアンデッドと戦うこととなった勇者一行が心を病む恐れは確かにあります。また、軍務卿が懸念するように『汚い敵と戦わされた』と感じた彼らが我々を逆恨みする危険性も少なくはないかと存じます」


「なるほど……なるほどなぁ」


元々彼らは召喚という名の誘拐をされた身である。よって王家に対して不信感を抱くのは当然のことではある。


王家とてそれは自覚している。


故にこれまで王家はその不信感を解消させるために異性を与えたり、各種特別待遇をして懐柔してきたのだ。


しかし、命懸けの実戦の中で己が置かれている状況を知ったとき、その不信感が振り返す危険性があることも懸念はしていた。


よって王や騎士たちの考えでは「暫くは少年少女たちに安全な場所で簡単な敵と戦わせることで、徐々に戦争に慣れてもらおう」と画策していた。


その最初の相手が、おあつらえ向きに向こうが差し向けてきた、偵察要員とも言えるアンデッドであった。


確かにアンデッドは物理的にかなり汚い。病気や毒の温床だ。だが、よほど高位のアンデッドでなければ、討伐方法が判明している分、ただ汚いだけの存在でしかないことも確かであった。


故に、これまで王の中では(王だけではなく、この世界の関係者全般に言えることだが)アンデッドは『人型で、ダンジョンとは違い死体が残る相手との戦闘を経験するにはもってこいの相手』という認識しかなかった。


しかし、ここに来て軍政の専門家であるローレンと、実戦の専門家である騎士団長から『それが向こうの仕掛けた罠である可能性』を示唆されてしまう。


「……ふむ」


「恐れながら陛下。軍務卿や騎士団長の言うことにも一理あるかと存じます」


「宰相もそう思うか?」


「はっ。それにもし穿ちすぎであったとしても、可能性があるのであれば警戒して備えることは無意味ではありませんし、現状勇者を出さねばならないような状況でもございません。また、勇者やクレーン技師を温存する意味もございます。関係者には『アンデッド退治は聖女の舞台である』とでも言えば納得しましょう」


「それは……そうだな」


無論、王の中には「勇者を実戦で使いたい」という気持ちや「その程度で心が折れるなら元々使えんだろう」という気持ちもあれば、ローレンの意見を「考えすぎではないか?」と(たしな)めたい気持ちもある。


だが為政者は常に最悪を想定し、そうならぬように動くもの。しかも政務を担当する宰相からも「資源は有効に使うべきだ」と言われれば「その通りだ」と認めるしかない。


さらに言えば、ここでラインハルトからの忠告を無視して己の我儘を通したとして、何が得られるであろう?


大貴族であるラインハルトの気を悪くしてまで選択した結果、得られるものが『勇者たちの心情を悪化させるだけ』とあっては、意味がない。それどころかマイナスだ。


(わざわざ魔王軍の仕掛けた罠に乗る局面でもないしな)


「よかろう。今回は軍務卿の意見を取り入れ、勇者の出陣を見合わせよう」


「はっ! ありがとうございます!」


とにもかくにも、フェイル=アスト王国の首脳部は、魔王軍の狙いを避けるため今回の騒動に於いて勇者の出陣を見合わせることを決定する。


こうして自分たちの知らない間にアンデッドとの戦いを回避することができた少年少女たちが、神城に感謝……するかどうかは微妙なところではあったが、少なくとも神城邸に居候しているキョウコはこの話を聞いたとき、思わず「セイヤは行かないでアイツだけ行く? ハッ! ざまぁ!」と叫んでルイーザに窘められたとか。


クラスメイトである聖女が戦に赴くことを喜ぶキョウコの性格が悪いのか、同性のキョウコにここまで嫌われる聖女の性格が悪いのか。


それを知るのは、他の同級生の少女たちだけであった。

ラインハルトにとってマルレーンは家臣ではありますが、同時に姉の親友でもあり、自身も子供の頃から付き合いがありますので、余人がいないところでは多少砕けた態度をとっても怒りません。と言うか、彼女に畏まられると背中が痒くなるもよう。


同性に嫌われる聖女とは一体……ってお話。



投稿を間違えた? 気のせいです


―――


前々からお話していた拙作の書籍化が正式に確定致しました。

詳細はお手数ですが活動報告をご参照下さい。


追伸・作者はノンケです。


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