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幕間。不遇職……じゃない?!

文章修正の可能性有り

玉掛けとは


直接あるいはワイヤーロープなどで荷物をクレーンなどのフックに掛けたり、引っ掛けたワイヤーを外す作業のことを指す言葉である。


その作業手順は以下の通り


1・荷物にふさわしい吊具(切断荷重に安全を見込む)を選定して用意する。

2・荷物の重量、重心を勘案して吊具の掛ける位置などを検討する。

3・つり上げる前に、実際に使うワイヤーなどの用具に損傷がないか確認する。

4・クレーン運転手との合図を確認する。それに従ってクレーンなどを手信号とホイッスル吹鳴により誘導する。

5・荷物を吊り上げたら、地切り(荷物が地面を離れたところ)した段階でクレーンを止め、フックにかかった状態や傾きなどを確認する。

6・周りに人が居ないか確認する。また必要であれば人払いも行う。

7・荷物を目的地へ誘導する。


~~~Wikipedia参照



ラインハルトから話を振られた神城も、流石に上記のような細かい作業手順などは理解しておらず、あくまで『玉掛けは、ワイヤーを鉄骨などに引っ掛けてクレーンのフックと繋ぐ作業』としか認識していなかったのだが、この程度の情報であってもなんの情報も無い状態と比べたら雲泥の差である。


このラインハルトが神城から得た『玉掛け』の情報は、そのまま王や教導役の騎士に伝えられ、その教導役の騎士から濱田少年に伝えられることになった。


そうやって人づてではあったが、玉掛けに関する情報を得た濱田少年は(あれ? もしかして俺ってクレーンだけじゃなくワイヤーも召喚できる……のか?)と『玉掛け』に秘められた可能性に気付く。


そして濱田少年は、クレーンだけでなくワイヤーという浪漫兵器を使うことができるのか否かを確かめるため、期待に心を躍らせながらダンジョンに潜ることになる、そして……



~~~


ダンジョン15階。


「いくぞ。『玉掛け』ッ!」


ここに来るまでに何度も使用してスキルの効果を実感していた濱田少年は、自信満々に右手を巨大な魔物、オーガに向けてスキル名を叫ぶ。すると濱田少年の掌から多数のワイヤーが出現し、オーガの四肢に絡みつく。


「グォォォォォォォォ?!」


オーガはそのワイヤーを力ずくで振りほどこうとするも、相手は一本で数百kgもの鉄骨を支えることが可能なクレーン用ワイヤーである。如何に力自慢のオーガでも動くのが精一杯、いや、中途半端に力があるからこそ、動くことができてしまったのが、彼にとっての悲劇であった。


「ギャァァァァァ!」


動いたせいで全身に絡みついたワイヤーが、オーガの肉に食い込み、その痛みで暴れるせいで更にワイヤーが食い込んでいく。その様は、地獄で無限に続く痛みの連鎖に断末魔の悲鳴を上げる亡者のようで……


「終わりだ。『操作・高速収納』」


オーガに振り回されないように、ワイヤーの張りに絶妙の緩急を加えていた濱田少年が、もはやただの獲物となったオーガに向けて、次なるスキルを使えば、オーガに絡まっていたワイヤーはビュンッ! と音が出るかのような勢いで少年の掌に収納されていく。


「ガッ?!」


全身に絡みついていたワイヤーが高速で収納されることとなったオーガは、その勢いに体が引っ張られるよりも先に、五体をワイヤーによって切り裂かれ、息絶えることとなった。


「よしッ!」


全身を分断され、肉片をボタボタとまき散らしながら消滅していくオーガの姿を確認し、15階の単独クリアを成し遂げた濱田少年は、満面の笑みを浮かべながらガッツポーズを取る。


「お見事です」


「ヘヘッ! ありがとうございます!」


その様子を見ていた騎士からの称賛の声に、素直に感謝の言葉を返す濱田少年。


(以前は私の称賛も嫌味と判断して不貞腐れていたが、やはり自信が付けば違うものだな。しかしこの戦い方は、なんと言うか……エグい、な)


当たり前と言えば当たり前のことだが、スキルを使いこなせていなかった頃とはまるで違う濱田少年の様子に、教導役兼護衛の騎士は『お披露目』の前に少年がその可能性の片鱗を見せたことや、自信を取り戻したことを本心から喜ぶと同時に、今まで謎であったスキルを使った戦い方が予想以上にエグいことに、内心で頬をヒクつかせていたという。



~~~


「では【クレーン技師】に問題はない、と?」


「はっ。未だ使用していないスキルがあるので彼の能力の底は見えないものの、現時点でも能力だけなら前線の戦士に匹敵するかと」


「ほほう。それほどか。やはりアレは当たりであったな」


「はっ!」


教導役の騎士からの報告を受けた国王は、自分の目が正しかったことを自覚して上機嫌になる。


「王の慧眼には流石、としか申せません。しかしながら、かの少年の全力戦闘がどの程度のものになるのかが不明な以上、現時点では戦線に出すのは危険ではありませんか?」


「……ふむ」


王としては、早々にある意味で【勇者】よりもレアな【クレーン技師】を戦場に出して、他国の騎士や将軍たちに自慢したいところである。


しかしながら、裏切りに対する備えもそうだし、元々濱田少年が懸念していた能力の暴走も懸念している宰相の意見は決して間違ったモノではない。また、過去の資料などからそれなりに戦闘方法を理解している【勇者】と違い、完全に未知の存在である【クレーン技師】というレアものを、軽々に戦場に出して使い潰すのも避けたいという気持ちもある。


「宰相はこう言っておるが、軍務卿はどう思う?」


悩んだ王は『今後どのように【クレーン技師】を利用するのが最も効果的なのか』を、軍事の専門家であり、軍務の責任者でもあるラインハルトに意見を求めたのだが……当のラインハルトは『人間の戦争に必要なのは、飛び抜けた個の力よりも、集団が生み出す()としての力である』と公言している人間だ。


その基本理念からオンリーワンの存在など連携の邪魔にしかならないと思っているラインハルトとしては、未知の存在である【クレーン技師】を戦場に出したいとは思っていない。


なのでラインハルトは、王の機嫌を損ねないような言い回しで濱田少年の参戦を先延ばしにしようと試みる。


「そうですな。私が愚考いたしますところ、現状でも戦力になると判明したのは僥倖ですが、どうせなら能力の底を確認してから戦場に投入したほうが、他国の者たちや敵に与える影響は大きいかと思われます」


「……なるほど。最大の効果を考えるなら、今はまだ温存するべき、か」


相手にインパクトを与える際のコツは、徐々に小出しをするのではなく一度で最大のモノを見せること。帝王学の中にもある教えを告げられた王は、ラインハルトの意見に一理あることを認める。


王の機嫌が悪くないことを見て取ったラインハルトは、そのまま思うところを述べることにした。


「はっ。それに我々には既に【勇者】が居ます。それを我が国の最大戦力と誤認させることで【クレーン技師】の身の安全を守りつつ成長を促し、その時が来たなら彼の者を前線に出すのがよろしいかと」


「ふっ。覚醒した【クレーン技師】の前では【勇者】すら前座にすぎぬ、と? 卿も随分と言うではないか」


「恐れ入ります」


本音を言えば『わけのわからん奴を戦力として使う気はない』と言いたかったラインハルトではあったが、流石に王がご執心の少年を悪し様に罵して王の不興を買う気は無かったので、こういった物言いになっただけであるが……


(王が納得するならそれで良し)


そう判断したラインハルトは王の言葉に反論せず、そのまま受け入れることにした。


ちなみに【勇者】であるセイヤ少年も【クレーン技師】である濱田少年には一目置いていることは事実であり、さらに濱田少年本人を含む【勇者】同級生たちは【クレーン技師】こそがオチだと認識しているため、ある意味で関係者全員が【勇者】を彼の前座と認めていると言えなくもないのが実情である。


こうして異世界の少年少女と王国上層部の意見が一致したことについてはさておくとして、今の話題は【クレーン技師】の去就である。 宰相は既に意見を述べているし、ラインハルトも王の問いに答えている。教導役の騎士には意見を求めていないので、あとは王の意志次第。


宰相やラインハルト、更に教導役の騎士からの視線を受けた王は、濱田少年の処遇について決定を下す。


「今回は宰相と軍務卿の意見を取り入れよう。【クレーン技師】はその能力の全容が明らかになるまで戦場には出さぬ。お披露目に於いてもメインは【勇者】らとすることを心得よ。今後教導役はこれまで以上に【クレーン技師】を鍛えるように」


「「はっ」」


「畏まりました! それでは失礼いたします!」


「うむ」


【勇者】たちが戦場に出れば教導役の者たちのリソースに余裕ができるのは必然である。王はその余裕を【クレーン技師】に向けることを命じ、騎士は直接命じられた王からの命に責任と栄誉を感じながら了解の意を示し、退室していく。


そんな騎士の姿を確認した王は次の話題を口にする。


「して軍務卿」


「はっ」


「此度、快く【クレーン技師】の情報をくれた神城準男爵に対する褒美はどうするべきだと思う?」


「……悩ましいところです」


情報はタダではない。それもその情報は王が望んだ情報であり、その情報を得たことで【クレーン技師】が王が望む方向に覚醒したのだ。


更に向こうには外交官としての立場もあるので、有益な情報に対して『何も与えない』という選択肢を取ることはできない。


かと言って、未だに神城の価値観を理解していないラインハルトたちには、何を与えれば神城が『情報と釣り合う褒美である』と納得するのかが分からない。


下手に『このくらいで良いだろう』と思って褒美を下賜した結果『この国の王は吝嗇(ケチ)だ』などと思われては王の面目が丸潰れとなってしまう。


更に更に、現在神城が作っている皮膚用回復薬は、王妃(王の妻)太后(王の母)が絶賛し、宰相の家族もその入手を心から待ち望んでいる逸品であるため、王や宰相とて神城に配慮をする必要があるのだ。


……もしもこのことを知った神城が、自分の立場を勘違いして調子に乗るようなら王やラインハルトも色々と手を下すことになるのだが、今のところ神城にそのような気配はない。それどころか『褒美を望まないので欲しいものが分からない』という、なんとも対応が難しい存在となっていた。


「うーむ。身の程を弁えぬ強欲な阿呆よりは無欲のほうが良いのは確かだが、こういう時には困るものだな」


「誠に」


王と宰相はそう言って、神城の無欲さに苦笑いしながら頷き合う。


しかし、実際のところ神城は無欲なのではなく、根っからの小物なだけである。


神城の価値観からすれば一社会人が、爵位に屋敷に給金、そして侍女までも与えられている現状、何に不満を抱けと言うのか? 


これが神城の偽らざる本音なのだが、これを聞いたところで『準男爵程度の爵位で満足する人間が存在するはずがない』と考えているラインハルトらにとって、それは謙遜以外には聞こえない。よって彼らの中で神城は『欲は無いが、仕事はこなす誠実な人間』と思われていたりする。


……価値観の相違とはかくも恐ろしいものである。そうして彼らの勘違いを正す者がいないまま、三者の会話は続いていく。


「元々男爵にすることは決まっておりますので、それは褒美になりません。また金にも女にも困っている様子はありませんので、そちらも褒美にはならないかと」


「そうなのか?」


「はい。むしろ下手に女を増やさないよう、釘を刺されたほどです」


神城の普段の生活を知らない王が興味深そうに聞けば、ラインハルトも肩を竦めながら答える。


「ほう……まぁ、コチラが用意した女にかまけて秘薬の製造が遅れては困るから、それについては良い話と思うとしようか」


「「誠に」」


王は自分で言いながら、宰相とラインハルトは王の言葉を聞いて力強く頷く。

どこの家でも『美容』を前に本気を出した女性陣には逆らえないのである。


閑話休題。


「やはり彼の価値観がわからない以上、ひとまず『借り』とするべきでしょうな」


「……仕方ない、か。ただ、こちらにはいつでも報いるつもりがあるという旨は伝えてくれ」


「はっ」


神城が望むものが何かわからない以上、褒美を与えることを一時保留することを宰相が提案すれば、王も現状では保留が一番無難であると判断し、その提案を受け入れる。


ただ、それはあくまで『保留』であって、決して褒美を出さないわけではない。


王は自分が『褒美を与えない吝嗇である』と言われないよう、保険を掛けるのを忘れないし、ラインハルトや宰相もそれをやりすぎだとは思わない。


【勇者】であるセイヤや【クレーン技師】である濱田少年は名前でなく職業で呼ぶことからも分かるように、相手がただの平民ならば彼らはこのようなことで頭を悩ませたりはしない。あくまで神城を貴族と認めるからこそ、こうして神城に配慮をするのだ。


……この会話から数日後、当の神城からラインハルトを通して『【付与術師】を引き取りたい』という要望が寄せられることになる。


当然王は借りを返す良い機会と判断し、それを快諾するも、その要望が『より良い薬を作るための要望』であることを知った王や宰相が「これ、借りを返したことになるのか?」と思い悩むことになるのだが、それはまだ先の話である。



クレーン技師覚醒ッ! クレーン技師覚醒ッ! クレーン技師覚醒ッ!


違う? ワイヤーの正しい使い方はそうじゃない? 知らんなぁ。



王侯貴族による専制政治は同時に身分社会でもあります。そんな社会構造の中では、貴族かそうじゃないかの違いはとても大きいのです。


日本人には時代劇の『お侍様』が一番わかりやすいですかねぇ。

旗本(騎士)から大名(侯爵・伯爵)。さらにその部下の官吏や武将や家老(準男爵・男爵・子爵)。果ては御三家(公爵)まで、色々な階級があります。


で、この中で出世するには、まずは武士(貴族)になければならないのですが、足軽(兵士)が武士(騎士)になるには、相当の努力と実績を上げるか、よほど主君に気に入られる必要があります。


最初の段階で、女神から情報をもらって賭けに出る準備が出来ていた神城君と、転移で動転していた学生諸君の差はかなり大きかったんだなぁってお話。


―――


世の中には人を叩く愉悦と、人に叩かれる快感を同時に味わうことが出来る画期的な大人の道具があります。


それは孫の手に付いたボールッ!


最初は「このボールってなんの為にあるのん?」と思っていた作者でしたが、使えばわかりますね。

ただでさえ痒いところに手が届く孫の手に、こんな道具を付けるとは……天才かッ!




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