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17話。普通職の異世界スローライフ

文章修正の可能性有り

「いや、神城さん。コレが化粧品って……正気ですか?」


ラインハルトとの会談を終えた神城から『内諾だが、配置換えの許可は出た』と聞いたキョウコは、即座に「こんなところに居られるか! 私は神城さんの家に行くぞ!」と、即座に王城からの移動を決意した。


その際、彼女に付けられた青年が「そんな我儘は許さん」と言わんばかりの表情で彼女の動きを止めようとしたのだが、自分のためにキョウコを利用する気満々の神城が「既に彼女の移動については軍務大臣閣下から許可が出ている。そしてこれは貴公に対してそれなりの手当てをするよう閣下に願う書状だ。ここに貴公の名と家名を記した後、この書状を貴公らの監督役に渡すか、軍務大臣閣下の秘書官に渡すと良い。さすれば貴公にとっても悪いことにはならん」と言いながら、実際にローレン侯爵家の封蝋をされた命令書と、ラインハルトに宛てた書状を見せられた結果、元々キョウコから警戒されていたせいで自身の仕事ができていなかった青年は、これ以上ないと言うほどの、まさしく満面の笑みと言えるような笑みを浮かべてキョウコの引っ越しを手伝うこととなる。


まぁ引っ越しと言っても、個人の荷物などほとんどなかったキョウコの準備など、装備と着替えくらいのもの。


大した時間もかからずに準備を終え、引き留められることや事情の説明を求められることを嫌った彼女は、同級生らへの挨拶を行わずに神城と共に王城を出ることを決意し、即座に実行に移す。


そんな彼女が見せた予想以上にアグレッシブかつ淡泊な行動に(あれ? これ、後で絶対に面倒になるパターンじゃね?)と思った神城は「せめて同級生に話をしたらどうだ?」と提案するも『すでに彼らは洗脳されている』と確信しているキョウコは、親しかった友人に手紙を残すことは認めたものの、顔を会わせるのは断固として拒否。


そのキョウコの頑なな態度を見た神城は、高校生同士のコミュニケーションに口を挟むのを諦め、せめてこれだけは……という意味を込めて『同級生との諍いが発生したら自分で対処する』という内容の契約書を作り、それにサインさせることでとりあえずの対処とした。


そうこうして神城邸に移り、一階の従業員控室を当座の自分の部屋としたキョウコは、ルイーザやエレンと顔を合わせて軽く挨拶した後で、神城が彼女を迎え入れた最大の理由である『神城製化粧品』と対面する。


そして話は冒頭のセリフに差し戻る。


~~~


「いや、神城さん。コレが化粧品って……正気ですか?」


「「なっ?!」」


神城が今まで作ってきた化粧品モドキを見たキョウコが発した第一声がこれである。


明らかに本心から発せられた言葉であることは、彼女の態度を見れば分かる。その、本気で神城の正気を疑っていることを隠しもしていない視線と声色は、キョウコが【勇者】の関係者であることを知っており、彼女が神城と同郷の人間であると理解していたルイーザやエレンでさえも、その無礼を咎めるために思わずナイフを抜こうとするほどに酷い態度であった。


ルイーザにしてみたら、主人である神城に対する無礼もさることながら、彼が作る薬は正しく幻の秘薬であり、最早欠かすことなど考えもできないほどの貴重品なのである。


そんな貴重な秘薬を汚い物を見るかのような目で一瞥した後、容赦なく貶したキョウコに対し「これだから肌に気を使う必要が無い小娘はッ!」と、怒りや何やらを通り越した感情を抱くのも無理はないことだろう。


一応補足するならば、ルイーザはできるだけ神城を持ち上げて薬の増産をしてもらおうとする立場の人間なので、ここで神城にやる気を無くされては困るという事情がある。故に「急に横から出てきた小娘が! 余計なことを吹き込むな!」という感情もあるのだ。


そしてルイーザの横で怒りを押し殺しているエレンの場合は、薬が云々ではなく、純粋にどこの馬の骨とも知れない小娘(同年代だが、人間としての厚みを感じない娘)が、自分の主である神城に対して無礼な態度を取ったことに怒りを覚えていた。


まぁ、実際キョウコの態度は平民が貴族に対する態度としては明らかに不敬な態度なので、神城に仕える侍女であると同時に、男爵令嬢であるエレンが平民(現在のところ住所不定無職)でありながら貴族である神城に不遜な態度を取るキョウコに対して嫌悪感を抱くのは当然のことであろう。


ここでルイーザやエレンがキョウコに対して即座に行動を起こさないのは、二人とも『キョウコが【勇者】の一行であり、神城によって同郷の人間として保護された存在である』と知らされていたからに他ならない。


主人が保護した客人の行動である以上、神城が咎めない限り彼女たちは手を出せない。


よって今のルイーザとエレンにできることは、内心で歯噛みしながらキョウコの言動を観察し、問題があったら即座に神城やラインハルトに報告をして、できるだけ早く保護対象から外してもらうよう訴えることだけであった。


思わず口をついて出てきた迂闊な一言のせいで、移動の初日から神城邸の重要人物である二人の女性の怒りを買ったキョウコ。しかし彼女から容赦無いツッコミを受けた神城はと言うと、


「だよなぁ。やっぱりそう思うよなぁ」


「「ご主人様?!」」


……当然怒りを感じてなどいなかった。

むしろ「ようやくまともなアドバイスが貰える」と胸を撫でおろしていたくらいだ。


何せルイーザも侯爵家の人間も、今の神城が製作する薬になんの不満も抱いていないため、まともな意見と言える意見が上がってこなかったのだ。


不満が無ければそれを解消するための意見など出てこない。


実際使用した者たちから貰ったレポートには誉め言葉しか書いておらず、要望することと言えば「もっと作ってくれ」というものだけ。


(このままでは来る競争社会に勝ち抜けない)


密かに自身の作る皮膚用・頭髪用の回復薬の品質に不安を募らせていた神城にとって、真正面からツッコミを入れてくれるキョウコの存在はありがたいものでしかなかった。


「そりゃそうですよ。ご飯だって栄養があれば良いってもんじゃないでしょう? 味付けも香り付けも盛りつけも無い、ただの栄養素の塊を『これが今日のご飯です』って言って出す料理人がドコにいるんですかッ!」


「まぁ、うん。そうだな」


化粧品に興味がない人間にも通じる、実に分かりやすいたとえである。


「そもそも『化粧品』の前に必要なものがありますよね?!」


「必要なもの?」


「あ~もう! これだから男の人はッ!」


キョウコは「むしゃくしゃするー」と言いながら、スキンケアに無頓着な神城に容赦なくツッコミを入れる。


「まずクレンジングするためのオイルでしょ! それから洗顔するための洗顔料! 化粧をする前に導入液と化粧水は必須だし、美容液とか乳液を塗った後はUVケアをするのがスキンケアの基本でしょーがッ!」


「……え? クレンジングと洗顔って一緒じゃないのか?」


「ちーがーいーまーすぅ! クレンジングはメイクを落とすためにするもので、洗顔は肌の汚れを落とすためにするんですぅー!」


「そ、そうなのか」


「そうなんですぅ! それに化粧水を使ってないってなんでですか? え? 肌質も確かめないで直接栄養投与ぉ? 神城さんはスキンケアをなんだと考えているんですかッ?!」


思わず「両方洗ってるやん」と呟いた神城に、キョウコは半ばマジギレしながら詰め寄り、更なるツッコミをする。


そんな神城とキョウコの会話を聞いていたルイーザは、愕然とした表情をしながら「……あの秘薬の使い方が間違っている? 化粧水? それに肌質とは?」とワナワナと震えながら呟き、エレンは「ご主人様とお仕事の話で盛り上がれるなんて……羨ましい」と頬を膨らませていたという。



期せずして、初日から神城の関係者に【付与術師】以外の価値を認められることになったキョウコ。


突如として異世界に召喚され、戦争への恐怖や王家や同級生への不信などといった様々な不安を抱きながらも、これまでは周囲の空気を読んで己の意見を内に秘め、鬱屈とした生活を送ってきた少女はもういない。


【付与術師】という普通職を天職とした少女の、異世界での(自重を)スロー(投げ捨てる)ライフ(生活)はここから始まるのであった。


タイトル回収回。


いつからスローライフがゆっくり生活だと錯覚していた? ってお話。



――――


エガ澤ー! いや、副題のラストランチパックってセンスも凄いですけど、サムネが凄いですよね。



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