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16話。侯爵は言っている。私に任せよ。と

そろそろ10万ポイント記念


文章修正の可能性あり

「待たせて済まなかったな」


「いえ、こちらこそ閣下のご予定を狂わせてしまい、誠に申し訳ございません」


「いやいや、卿との会談は元々予定が入っていたことであるし、卿は『こちらの準備が整うまで待つ』と言ってくれたではないか。故に予定をずらしたのはこちらの我儘に過ぎんよ」


「それは……いえ、ご厚情に感謝します」


「うむ」


互いに謝るものの、最終的に格下が格上に感謝をして終わる。以上が前置き。というか社交辞令と予定調和の土台に含みという隠し味を利かせた貴族風挨拶である。


「それで、卿が予定を早めた理由だが……向こうで何かあったのかね?」


本来ならこのあと数十分に及ぶ腹の探り合いが展開されるのだが、神城はともかくとしてラインハルトはそこまで暇ではないので、さっさと本題に入るように促すことにした。


「さすがは閣下。私の行動などお見通し、ですか」


「ふっ。全てと言うわけではないがな」


実際に神城はルイーザやマルレーンから「神城という男は、他はともかくとして時間にだけは病的なまでに五月蝿いところがある」と報告をされるほど時間に五月蝿い男だ。


当然その報告を聞いているラインハルトからすれば、メイド長から「時間に五月蝿い」と注釈をつけられるような男が、なんの意味もなく時間を前倒してまで会談を望むようなことはしないだろうという確信があった。


そしてラインハルトはこの会談の前に今日の神城の行動予定を洗って、元々は【勇者】一行の観察をするはずだったということを突き止めていた。


そこまで分かれば今回の会談の前に【勇者】関連で何かがあったと判断するのは当然の帰結だろう。あとは「その問題とは何か」という話になる。


「隠しだてしても無意味なようなのでお話しいたします」


「うむ。頼む」


ラインハルトが促せば、神城はなんでも無いことのように先程の少女との会話を報告する。


「実は先ほど【付与術師】の少女から助けを求められまして」


「助け? あぁ、彼らの中には戦場に立つことを厭う者もいるからな。今回はそのケースか?」


「はっ。その通りです」


「なるほど。で、卿はその【付与術師】を助けたい、と?」


「助けるというのは語弊がありますが、概ねその通りです」


「ふむ……」


当然のことながら軍のトップであるラインハルトは、やる気のない人間を前線に送り込んでも意味がないということは十分以上に理解している。実際のところは『意味がない』どころか、周囲の士気も下げてしまったり、文字通り足を引っ張ることになるので、むしろマイナスの効果しか生まないと言っても良い。


また、元々ラインハルトは異世界から呼び出した少年少女に対して、戦力としての過度な期待をしていなかったこともあり、神城の提案を頭から否定したりすることはしなかった。


と言うか、むしろ同じ世界の同じ国家の出身であり、自発的に戦争に参加する気がない少女を保護するというのは、外交官(大使)として正しい行為でもある。


だがしかし。ここでそれを認めてしまえば、神城は他の連中も保護しなければならなくなるし、もしかしたら神城が【勇者】一行を纏めて運用するようになってしまうかもしれない。


それは外交上は正当な行為であるのだが、すでに【勇者】や【聖女】の運用方法を考えている王家や、生産職を回されることが内定している貴族としては認め難いことだろう。


かと言って助けを求められた神城として考えれば、同じ国の貴族として、また国家を代表する外交官としても、その【付与術師】の少女からの要請を断るのは難しいだろう。


(面倒なことをしてくれたものだ)


そう思いながら、ラインハルトは言葉を捜す。


「なるほど。確かに卿としては無下にはできまいよ。だがそう簡単に許可を出せるような話ではない」


下手に認めれば火種になりかねないし、認めなくとも火種になる。そんな面倒な状況に、ラインハルトは頭を悩ませる。しかしその様子を見た神城は、ラインハルトが勘違いをしていることを指摘する。


「閣下。私が望むのは彼女の保護ではなく、配置替えです」


「配置替え?」


「えぇ」


「詳しく聞かせてもらおうか」


「はっ。そもそも彼女の望みは『戦場に行きたくない』というものです」


「ふむ」


「ならば彼女を後方に移動させるだけで良いではありませんか」


配置を変えたら無職になる。そのまま放置すれば保護と一緒。ということだろうか? そう考えたラインハルトは理屈としてはわからないではない。と思いながらも、彼の常識に則って反論をする。


「言いたいことは分かる。しかし一概に後方、と言ってもな。支援職に分類される【付与術師】を戦場とは関係のない後方に送っても、国家としてはなんの利益にもならないではないか。むしろ安穏とタダ飯を食らう仲間を見て、戦場や他の地域に回されて働いている少年少女が不満を溜め込むことになるぞ?」


戦力外の小娘を一人特別扱いした結果、全体に不満が出ては意味がない。そう訴えるラインハルトに、神城は「それこそが勘違いだ」と指摘する。


「無論タダ飯など食わせませんよ。しっかりと働かせるつもりです」


「働かせる? そうは言ってもな……」


異世界から来て文字通り右も左も分からぬ小娘が、天から授かった【付与術師】という職業を使わずにいったい何ができるというのか?


侍女の真似事なら本職がいるし、農作業や鍛冶仕事も素人がどうこうできるものではない。算術ができるのは知っているが、会計や何やらだってわざわざ異世界から呼び出した人間を使ってやるようなことではない。


結局神城の考えていることを読めなかったラインハルトが「何をさせるつもりだ?」と目で問えば、神城は「それを待っていた」と言わんばかりに身を乗り出し、それらしく声を潜めて話し始める。


「……実は私の助手をさせようと思っております」


「助手だと?」


研究室として使っている部屋には誰も入れないというのに? 意表を突かれたような顔をするラインハルトの表情を見て、神城はさらに言葉を続けた。


「えぇ。と言っても、別に彼女に薬を作らせるわけではありませんよ」


「うむ。そうか」


素人に作らせた薬を使った結果、母や姉、妻や娘の身に何かがあれば、ラインハルトとて黙っている気は無い。……まぁ彼が報復をする前に、女性陣の八つ当たりで吹っ飛ばされることになるだろうが、それはそれ。


では助手とは何をさせるのか? と考えたラインハルトに対し、神城はわかりやすい例を挙げる。


「私が想定している一番簡単なところだと、容器に『品質維持』の効果を付与してもらうことですかね」


「あぁ、なるほど」


現在神城が作る薬は、研究室でできたものから即座に侯爵家に運ばれ、待ち構えているエンドユーザによってその全てが消費されているので、今のところは保管や何やらについての心配は無い。


しかしこの薬を王妃や王女、または遠く離れたところにいる貴族などに進呈する場合はどうしてもタイムラグが生まれてしまう。その間に品質が落ちては意味がないし、最悪は美肌効果どころか肌に悪影響を与えてしまうだろう。


それを回避するために重要なのが『保存』という概念だ。


ここまでは当然神城も考えてはいた。しかし保存性を増すために保存料を加えるということは、薬の純度が薄まるということと同義となり、効果が落ちた薬に価値を見出してもらえるかがわからない。


こうして行き詰まりを感じていたところに現れたのが【付与術師】のキョウコだった。


彼女の存在を知った神城は『薬に保存料を加えられないなら容器にその効果を付与すれば良いぢゃない』という発想に至ったのだ。


そしてその神城の言い分は、ラインハルトにも十分以上に理解できるところであった。


「ふむ、生産職である卿の補佐として使う、か。確かにそれも支援職の在り方としては間違っていないし、卿の作る薬の価値を考えれば……うむ。適任と言えるやもしれんな」


どうせ前線に置いても協力的ではないのだし、そもそも【付与術師】はすでに軍で抱えている。ならばいっそのこと戦場に出さずに使えば良い。


これまではその使い道がなかったのだが、神城が提示したような使い道なら問題無い。それどころか周囲の人間は諸手を挙げて賛同するだろう。最近王妃や王女に薬の入手をせっつかれている王も間違いなく承認するはずだ。


さらに神城の助手とすることで、神城に対して『外交官として保護した』という実績も与えることができるというのも良い。


今のままだとなんの価値もない一石が、一つ動かすだけでこれだけの利益を生むと言うのなら、ラインハルトにも反対する理由はない。


「……卿の言いたいことは分かった」


「では?」


「うむ。私としては問題ないと思うが、彼女らの配置に関する決定権は陛下にある。故にこれから陛下に上奏してみよう」


「はっ。よろしくお願いします」


「うむ。この私に任せておけ」


実際には国王が断るとは微塵も考えていないが、あえて少し勿体ぶることで神城に恩を着せるような口調でラインハルトはこの話を終わらせる。


ちなみにラインハルトはこれを一切の悪気なく意識せずに行なっているので、神城としても「これが本物の貴族ムーヴなんだなぁ」と感心することはあっても文句をつける気はなかった。


しかしこの会談の数時間後、どこからか会談の内容を聞いた姉の『貴様はいったい何様だぁ!』と声を上げながら繰り出した拳によりラインハルトは盛大に空を舞うことになる。


まぁ当然というかなんというか、この時ラインハルトは数時間後の自分が痛い目に遭うことなど想像もできず、使い物にならない少女を神城に預けることで、神城に恩を着せる(借りを返す)ことができたことを純粋に喜んでいたという。

基本的に組織にとって「やる気が有る無能」ほどではありませんが「純粋にやる気がない奴」ってのも邪魔なんですよねぇ。


そんなわけで普通は問題を起こしそうな奴は、魔物などに殺させるか、事故が起きて死んでしまうかなんですが、今回はその前に配置を変更することで問題が起こらないようにしました。


適材適所は大事ってお話。


―――


親方! 尿からビタミン臭がっ!

関節痛に効くって聞いたのになぁ……。

経口摂取で楽をしようとしたのがダメなんですね。


糖尿病が有るならビタミン尿病もあるのかなぁ。

なんて思ったりなんかして。


まずはウェイトボールとラジヲ体操なんだねママン。


うしお○とらで、白面の者が肩から生まれて来たのは、藤○先生の肩に封印されていた魔物が暴れたからじゃないかなぁと思い始めた今日この頃。



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